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2018.6.15

売る工夫がやりやすいデジタルサイネージ

印刷物の場合は、こう企画・デザイン・制作をするとか、販促ビデオならこう企画・デザイン・制作をする、というような定番の作り方は、まだデジタルサイネージにはない。デジタルサイネージの専門制作業者というのは稀であり、ポスターを画面に表示している場合もあれば、販促ビデオを流している場合もある。それでいいのだろうかという疑問がいつもある。

頑張ってオリジナルな表現を考えてお客さんに提示しても、だいたいはピンと来ないものとなってしまう。そんなもの今まで見たことが無いのに、良し悪しを判断できるわけがない。大手広告代理店で高名なクリエータがーが提示したならば、大先生の言うことだから任せてみようと思うお客さんも居るだろうが、名前を聞いたことが無い会社が提案するものにはなかなかOKは出ない。そこで結局は無難な線として、デジタルサイネージの導入はポスターや販促ビデオのようなものから始めざるをえなくなる。

しかしそこに留まっていては未来はない。数年前から取り組まれたデジタルサイネージで撤去されてしまった例は、特段サイネージ化しなくても、従来の掲示物で済んでしまうと考えられるからだ。机上のシミュレーションとしては印刷物や他の販促物の費用と、サイネージの費用を比較して、経済メリットを訴求することがあるが、サイネージにした効果を数値化できないと、従来のアナログな販促の手ごたえの方が安心できるという逆戻りになってしまう。

 

つまり最初はポスターや販促ビデオでデジタルサイネージを始めるとしても、その先のステップに進めるように考えておくことも大事だ。先のステップというと、どこかでお試しをして評価をしてもらって、台数を増やすとか他店舗への面的展開のことを思い浮かべるだろうが、それは結果であって、まずどういう評価があるのかを予測できるだろうか?

目標としたいのは、商機にタイミングよく表示出来たとか、取り扱いの簡便さ、という評価だろう。商品が売れる売れないはデジタルサイネージのせいではなく、売る工夫がやりやすいことがデジタルサイネージの評価にならなければならないということだ。つまり、どのタイミングでどんなアピールをするのか、例えばクロスセルとかアップセルのシナリオができているなら、そのシナリオの検証にデジタルサイネージが使えるわけだからだ。

現場でただでさえ手が足りないなかで、クロスセルとかアップセルの仕込みをデジタルサイネージにしなければならないことが大きなハードルになるので、コンテンツの差し替えやスケジューリングといった面の取り扱いの簡便さがデジタルサイネージに求められることになる。この2点の評価が得られればデジタルサイネージは有用であるといえる。

 

そしてその先には、いわゆる差別化というかオリジナリティのあるコンテンツや使い方に進むことを考えておいた方が良い。これは紙の販促物でも共通で、身の丈を越えたきれいな印刷物を作ってしまうと現実から遊離してしまって、来た人にガッカシ感を味わせてしまうことと似ていて、デザインを凝ることよりは、店の特徴をあらわすとか経営姿勢をあらわせるように考えていく。言い方を変えるとオウンドメディアとして発達させられるのがデジタルサイネージのよいところなのだ。

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.26に日間賀島という離島の飲食店のオーナーが自分でスマホアプリを使って手作り感が満載のコンテンツでデジタルサイネージをしていることのレポートがあった。この内容は都会の商業施設にはふさわしくないだろうが、slow life, slow food にはぴったりくる。

別にSlow business に限らずに、身の丈にあった表現ができることは、売る工夫を試行錯誤する中で、何か思いついたその時にアクションをとれる手段であることに意味がある。デジタルサイネージは、店内装飾の延長のように現場で売る工夫をするためのメディアとして定着する事になるのではないだろうか。