テレビコマーシャルや販促ビデオを基にしたデジタルサーネージは当初より有った。ビル壁面のLEDビジョンとか、スーパー・ホームセンターの棚にあるデジタルフォトフレームみたいなものである。またJR東日本のトレインチャンネルも次第にTVCFのようなスタイルが主流になってきた。これらを真似て、カラオケのイメージ映像のようなものをデジタルサイネージに垂れ流してしまったりは、していないだろうか?
一方でブランド品の店舗装飾のような場合は、紙のポスターのような『キメ写真』をバーンと大画面に出すようなものがある。この分野はデジタルサイネージになっても同様で、『キメ写真』を中心にしていろいろなイフェクトをかけて動画のようにすることで、ある雰囲気を出しながら、紙のポスターよりも着目度が高いものに仕上げている。美容院とか美術館などにも応用が効く方法である。
今日では動画を撮ることも簡単になったのだし、何も写真や静止画など使うことは無いのにという見方もあるだろうが、映像制作のプロがするのならともかく、尺の短いものでピシッとキマッたシーンをとるのも大変なのである。
紙のポスターを作る場合には、モデルさんの顔を中心に扱うのか、姿態を中心に扱うのかというのは、レイアウト上どちらかに絞らなければならないが、デジタルサイネージなら、①顔から姿態へ ②姿態から顔へ と視線の移動を簡単に作り出せる。映像制作と違ってモデルさんに何度もやってもらう必要はなく、むしろカメラマンは『キメ写真』にさえ集中してもらえばよい。その後は何らかのストーリーを作って、装飾品なり時計なりアパレルなりの商品やブランド名などにつなげていくのがデジタルサイネージである。
①にするか②にするかは、何を訴えるかによって変わるだろうが、いずれにせよ『キメ写真』をより印象深くする手法でもある。こういうビジュアルコンセプトをさらに深化させるところに動画を使い、それは沢山撮るということではなく、例えば、「まばたき一つ」「髪がふわり動く」「口元がゆるむ」「頬に笑みが」などわずかな動きをきっちり再現するだけで、見る人がドッキリ・ハラハラのキラー映像に仕上がるかもしれない。ちょうどTVCFのエッセンス部分の何秒かをぐ~っと延ばしたようなものなのだろう。
以上のことを言いかえると、忙しい映像のTVCFと違って、わずかな動きでも人の目が引き寄せられることを利用した映像作りがデジタルサイネージにはあるということだ。
実は人の目は図のように左右で180度ほどの視野をもつにも関わらず、本の文字を読むようなことが出来るのは中心の5度ほどしかなく、殆どのところはぼやっとした解像度しかない。しかし解像度が低いから鈍感というのではなく、自分の視野の中で起こる変化には機敏に反応できるようになっていて、横から何かが飛んできたとか、部屋の隅でゴキブリがカサコソ動いたようなことは検知する。だから街を歩いている時に、自分の向かっている正面ではなく、路傍にあるデジタルサーネージがちょっと動いているな、ということにも気付くことにもなる。
そしてデジタルサイネージに気付いてもらったあとはコンテンツ力の勝負になるので、『垂れ流し動画』で終わってしまうのか、『キメ写真・キメ映像』になっているのかで、お客さんを引っ張る力に大きな差が出てしまうだろう。