品質のばらつきを抑える

ひとつのデジタルサイネージをいくつかの店舗で相乗り利用をすることが、駅とかショッピングモールのような複合商業施設ではよく行われている。商店街も同様であるが、特有の課題がある。実際に出来上がったものを見てみると、店舗や入居者によって内容に大きな格差がでてしまう。これは作品としてではなく、そもそも業種や業態などやっていることの違いからくるもので、Webで町の店々を紹介していても同様のことが起こる。

無料のサービスならば表現の格差が起こってもほっておけばよいかもしれないが、月々幾らかをいただくとなると問題だ。商業施設などの場合は管理会社が間に入ってサイネージ広告の取りまとめもし、管理代金にオプションとして費用の徴収をしてくれることもあり、サービス提供側としてはありがたいのだが、ほっておいては順次脱退されていくかもしれない。やはり個々の店舗にとって役立って必要と思われるものに改善していかなければサイネージのサービスも続かない。

つまりコストに見合った最低限の品質レベルを維持できるようなサービスにする必要がある。店舗の側ですでにホームページをもっているとか、カタログ・パンフを制作しているとか、どこかに広告を出稿していて、グラフィック素材や広告のコピーをもっておられるところなら、それらからいくらでもデジタルサイネージの制作は可能だ。しかしワードで作ったペラの営業案内を用意するのがやっとのところもある。

しかしこういうところも、アピールする内容がないわけではなく、メニュー・店内・厨房・食材について取材していけばサイネージのコンテンツは構成できる。もちろん制作費用を払ってもらえるなら、全部お任せで引き受ける制作会社はあるだろうが、問題はそういう費用を勘定していない場合である。つまりこういったサイネージを広く普及させる鍵は、いかにイージーオーダーのコンテンツ制作ワークフローを創り出すかだろうと思う。

Webの場合は、SNSでも簡単制作アプリというのが提供されて、それで動画編集をする若者もいて、もしその店の知り合いにアプリを使える人が居るなら制作を依頼すればよいと思う。それらをサイネージの素材として提供してもらえればよいが、あまり期待できないかもしれない。

それらの代わりになるものを制作側で用意すれば、あとは店舗側で何点かの写真・動画をとってもらって構成することはできる。一番単純なのはjpgやmp4のファイルをどこかのフォルダに入れておけば、順次再生するスライドショウ的なもので、各素材の順番や時間をコントロールするアプリのついているものがある。

こういった感じでもっとテンプレート化を進めて、オープニングから最後までの展開とシーンチェンジ、またテロップの出し方などを、うまい具合にデザインしておいて、中の写真・動画・文字の素材を入れ替えれば、いろんな店舗に適用できるものを開発すると、品質の底上げはかなりできるようになる。

経験の積み重ね

デジタルサイネージはここ15年ほどの歴史しかない比較的新しいメディアであるが、そのコンテンツ制作に携わる方は映像・画像・ドキュメント・情報システムなどなどに経験を持つところが主体である。経験があることは長所でもあり短所でもある。長所としては試行錯誤を重ねて時間や費用の無駄使いをすることが経験によって少なくなっていくことだ。短所は逆に試行錯誤を上手にすることができず、コストを考えるとリスクを下げることが優先になって変化に適合しにくくなることだろう。

 

7payの決済がオンラインの手続きに不備がみられたのも、店舗での客対応は得意としても、ネットでの客対応の経験が少なかったことをあらわしていると思う。今までモルタルのビジネスがECも始めようとした際に初歩的なミスをしがちであるとか、ネットでの使い勝手が向上しないとかの例は数限りなくある。そこにベンチャーのチャンスもあるのだが、経験の少ない新興勢力ができたことができないはずもなく、要するに既存勢力の新事業に対する努力不足と思われることが多い。

 

デジタルサイネージはデバイスとしては新興勢力でも、コンテンツ制作では既存勢力の面がある。つまりベンチャーとして他の既存勢力の領域に喰いついていかねばならない点と、独自ノウハウを活かしていく点がある。以前の記事に書いたがチラシという紙媒体はいろんなノウハウやカラクリがあるので、なかなか廃れない。つまりチラシの代替をサイネージでやろうとしても苦労するであろう点が多い。一方でポスターのようなものは、印刷後に貼りっぱなしで何も管理していないようなことが多く、あまり利用面でのノウハウがあるとはいえない。(コルトン電飾看板電飾フィルムなどは広告として管理されているが

 

放置プレイのポスターと違って、店内のメニューを頻繁に入れ替える場合は、何を、何時、どのようにプッシュする、という経験が培われているので、デジタルサイネージのようにコンテンツの入れ替え自由なメディアが役に立つ。もう10年くらい前からマクドナルドでカウンター上のメニューをデジタルサイネージにするという話がでていたのに、いろいろ紆余曲折があったようで、近年になって実現されている。

写真上はデジタルサイネージ以前のもので、少し曲面になっているが、手で回転させると3面を切り替えられるような仕組みの電飾フィルムである。これは3面以外の内容を貼ろうとすると付け替えをしなければならない。おそらく朝昼晩用などを3面に割り付けていたのだろうと思う。店長さんがこのいくつかの三角回転体を手で回していたのを見たことがある。

 

それらが最近デジタルサイネージに置き換えられたのだが、何をどこに表示するのかという面の使い方は以前とほぼ同じである。つまり3面電飾フィルムの利用経験の延長上でデジタルサイネージを使っているわけで、おそらくサイネージに切り替えて省力効果があるとともに、運用上で売り上げにマイナスのことは起こらなかったのではないかと思う。

 

もし放置プレイのポスターをサイネージに置き換えても、以前のポスターがどんな効用があったのかもわからなければ、サイネージになって何がよかったのかもわからない。つまりサイネージを導入する前には、いくつかのポスターを手で貼り替えながら、どんなコンテンツをどのタイミングで見せるべきかということを整理しておいた方がいいのではないかと思う。これはサイネージで予定しているコンテンツをいくつか、先行して大判のプリントにして用意すればいいことである。しかも2面だったら表裏にしておけば手で簡単に切り替えられる。またわざわざサイネージしないでポスターのままでも構わないものも見つかるかもしれない。

 

 

 

 

 

テーマ曲が必要になったら

デジタルサイネージでは、駅など音が出せない場合も多いが、自社の店頭などでは音がついていたほうが着目率は上がる。とはいってもうるさいだけのBGMになってしまうと逆効果だ。ネットでも不意に変な音楽が大音量で流れ出すと、内容を見るどころかコンテンツを消すアクションにいってしまう経験があるだろう。だからコンテンツのイメージあう、コンテンツを盛り上げるようなBGMをつけることが多い。またシーンの切り替わりのメリハリとか、着目点を際立たせるためにキーワードにはジングルを入れるなどをする。特にどうしたいという意向がないコンテンツでは無料の音の素材をネットでダウンロードして使うこともある。これらは今では多くのサービスがあり、むしろ選ぶのが大変なくらいだ。利用目的によっては料金がかかるとか、パブリックドメインと聞いたのに後からどこかに訴えられたという話も聞いたことがある。曖昧な使い方をしているうちに係争になったら驚くような金額を請求されてしまう場合もある。

企画に力を入れたコンテンツ作りでは、むしろ最初から音と映像はセットで考えないと、時間も費用もかかってしまうし、統一感のあるすぐれたものにはならない。とはいってもオリジナル曲を頼むのでは、どんなものが出来上がるのか心配であるし、費用もかなり掛かることが予想される。社歌などは何十周年の記念行事に合わせて作ることがあるが、そういう時しか予算がとれないからであろうと思っていた。
ところが先日CM音楽制作のプロダクションBISHOP MUSIC (http://www.bishop-music.com/)さんと話していて、意外にオリジナルを安く作れるものであるとわかった。

何年か前にデトロイトの教会のゴスペルのチームが来日した際に、牧師さんがビックカメラのテーマソングが気になって仕方がないと言っていて、実際店舗に行って何かを買っていた。実はあのテーマソングは日本人にとっては「たんたんたぬきの金時計…♪」であるけれども、元歌は19世紀中ごろの讃美歌『Shall We Gather at the River』で、それが牧師さんの脳裏にはあったのであろうと想像した。

ヨドバシカメラのテーマソングはアメリカの『リパブリック讃歌』の替え歌として知られている。要するによく知られているパブリックドメインを替え歌にした方が人々には親しみが湧くものとなることがあるということだ。

 

BISHOP MUSICさんは、オリジナル制作を手掛けると同時に、パブリックドメイン楽曲のアレンジ制作もされていて、作例がホームページにもあがっている。この方法だと、オリジナル曲を頼む際の不安がなく、また数多くのサンプルを聞きながら決めていくことができる。STEMファイルのサンプル音源が用意されているので、それを使う場合にはドラムのステム、ベースラインのステム、ハーモニーのステム、リードのステムといったような要素を分けて利用することができ、これらの部分入れ替えだけでオリジナリティを付加するリミックスという方法で制作すれば、かなり安く早く仕上げることができるという。
替え歌としてオリジナルのボーカルを入れるのも、楽器パートを追加するのも、音楽スタジオを借りることなく、デスクトップ上の操作とネットのやり取りでもできるからである。

フリー素材はネット上にたくさんあるものの、権利処理がしっかりされているのかとか、気に入るものを素人が探すのがたいへんなのが現実で、そういう意味では企画意図を伝えればサンプル候補を絞ってもらえる専門家が一緒に仕事をしてくれないと、クオリティの高い映像制作を効率的に行うことは難しいのだと感じた。

 

融合メディアとしてのサイネージ

かつては放送と通信では世界が異なって別々の法規で運用されていたタテワリであった。歯医者さん向けに衛星放送で番組を流していたことを書いたことがあるが、なんらか放送法の制約を受けたはずである。また電波を使うとなると用途の制約というのもいろいろ起こってくる。一つの電波にさまざまなサービスを載せることは困難だ。しかしインターネットがブロードバンドになったことでこれらメディアに関するタテワリ行政に風穴があいて、特に動画の利用局面はものすごく広がったといえる。
デジタルサイネージでも『番組』『チャンネル』など放送をイメージさせる使い方もあるが、単にインターネットで動画ファイルを送って、リピート再生しているだけである。それでも巷ではYouTuberさんたちはTV放送以上に見られている人たちがいる。動画のビジネスもまだまだ伸びるはずである。

 

しかしまだ放送や通信の法規は残っているので、既存メディアを流用・利用する際には不都合が多くある。よく待合室にはテレビがつけっぱなしにしてある。これをサイネージに置き換えたいことがある。とはいってもサイネージのコンテンツには限りがあるので、テレビも見れるようにしたいなと考えても、サイネージの画面内にTV映像を合成するわけにはいかない。TVの画面の中にPicture In Pictureとかワイプとしてサイネージコンテンツが割って入るのだったらいいのかもしれない(未確認)。台風・集中豪雨そのた自然災害の恐れがあるときには、サイネージにも情報を流したい気はするが、勝手に放送は使うことはできない。

モニターが1台だけなら画面(あるいはHDMIケーブル)を手動で切り替えればよいのだが、面数が多いとサーバー段階で内容を入れ替えなければならない。HTML表示ができるデジタルサイネージなら、ネット上の災害情報を表示させやすいが、必ずしもサイネージを前提に編集されているわけではないの、誰かが内容を見張っていなければならないのは同じだ。
今日のデジタルサイネージの配信サービスを行っているところは、たいてい通信社から提供される天気予報やニュースをオプション(月間何千円か、リコーは基本料に含まれる)で使えるようにしているので、こういったサービスが充実してくれば巷のサイネージもリッチになると思う。

 

また配信サービスも現在のような、『プレイリスト』→『番組表』『スケジュール表』というスタイルではなく、臨時の配信に対応した使い勝手の良いものが求められるようになるだろう。スーパーの内部でイベントをする場合があるが、その実況中継をデジタルサイネージに出すなどの用途が考えられる。

今までの紙のポスターの流用とか、販促ビデオの流用をしているようでは、インパクトのあるメディアにはなりえず、現場の活気や、まさに今を伝えるような工夫ができればよいなと考える。

光と映像のインスタレーション

毎年この季節になると幕張でデジタルサイネージジャパンが開かれ、デバイスの最先端に触れることができる。この展示会でも街中でも、もうサイネージといえば40-50インチの液晶という固定的なイメージは通用しなくなってきている。さらに大型で外光にも強いLEDモジュールのピッチが細かくなってきて、その映像のインパクトの強さは導入意欲を高めることだろう。解像度も価格ももっとも流動的な分野である。(ただし、どうもテレビ系の方々にはLEDの画質はまだ十分には思われていないか、あるいは違和感を持たれているように思える。)

 

展示会では大型の電子ペーパーも出てきて、反射型デバイスとして屋外用途に使えるようになると、何かと便利だと思う。今はまだ白黒の電子ペーパーなので、それ自体でインパクトのある看板にはならないが、そこはLEDモジュールなどと組み合わせて看板を組み立てれば、情報表示用としての電子ペーパーの出番はあると思う。

また近年は曲面とか空中に結像させるとか矩形のディスプレイの枠をはみ出た表示デバイスも増えて生きている。加賀電子の水が流れるような立方体の組み合わせ(写真下 https://p-prom.com/feature/?p=34882 より)は、以前中国のサイトで見たような気がするが、こういうのは情報表示というよりは、インスタレーションに近い用途で使われるだろう。すでにGINZA SIXの滝(チームラボ)のようなデジタルアート的使われ方は人の集まるところでしばしば見かけるようになった。

インスタレーションとは現代美術の一つで、人々が行き来できる空間にオブジェや装置を置いて、その空間をも作品となるように構成しているもので、特にデジタルアートの場合はプロジェクションマッピングのように視界を変化・異化させ、その場を作品として体験させるパフォーマンス型の芸術である。

最初はおもに前衛彫刻が多かったが、それが機械仕掛けになり、また光るとか色が変わるとか、映像を投影するとか多彩な表現手法が加わっていった。ニューヨークのタイムズスクエアはビル壁面がLEDビジョンだらけで、その谷間を人が行き交うようになっており、そこでは15秒ごとにコマーシャルが入れ替わるようなサイネージはなく、一定時間の映像作品が流れていて、インスタレーションの商業化したもののように思えた時代もあった。(今ではあまりにもLEDビジョンは日常になりすぎていて、あまり感慨はわかないのだが)

 

不幸なことにこのところ日本の企業は金回りがよくないのか、インスタレーションのスポンサーになったり、自社のイベントにそういうものを使うことは減った。むしろ伸び盛りの国の方が派手なインスタレーションはよく行われている。今年1月に幕張で行われたイベントMETACITYでは、トルコ・イスタンブールに拠点を置くニューメディア・スタジオ Ouchhh(アウチ)が初来日して、世界各地でこの種の映像パフォーマンスがどのように行われているかの一端をみることができた。

デジタルサイネージにアート性が求められる分野もあるわけだから、紙の宣伝やテレビの焼き直しに終わらずに、その場所でしか成り立たない映像パフォーマンスを企画する心がけも必要だろう。

 

 

 

 

 

 

 

デジタルサイネージの立ち位置

デジタルサイネージが販促にもっと使われるようになるには、既存メディアよりも費用対効果が高いことが求められるが、これは決して単純な比較はできない。印刷物が減っていく中でも、チラシは大変コストがかかる割には生き残っている媒体である。だから印刷代の一部をモバイルマーケティングやサイネージの費用にまわせるのではないだろうかと考えた人も多いが、簡単ではない。それは印刷物には無駄が多いという印象はかなり昔からあったが、近年では印刷物の贅肉はずいぶんそぎ落とされて、チラシの回数が減るとか、用紙サイズが半分になるとか、相当のコスト圧縮がされてきたからである。

またチラシならではの特定地域に対する浸透率の密度の高さという特性があるので、小売店のチラシの費用の一部を流通の会社が露出面積に応じて負担するような『仕組み』が長い間かかって出来上がっていてる場合がある。サイネージでいえば仕入れ元の広告を取りたいというのと似ているが、どれだけの人がその広告を見るか、あるいは他社製品と比較してもらえるか、など広告主が期待する効果をサイネージが示すことはまだできていないだろう。

つまり紙メディアをサイネージにした場合の損失を不安がる広告主に対して、有効な提案がまだできていないことになる。これはサイネージ単体で可能になる話ではなく、チラシもポスターもモバイルマーケティングもWebも全部を適切に販促なり広告に使おうという視点が必要なのだが、それはマーケティングの専門家がいる大手企業でないと難しいのだろう。

冒頭の印刷の贅肉落としの際には、年間の印刷物発注を見直して、コスト削減目標をたてて、その中でメディアの効果を落とさないように、さらに紙面やタイミングの工夫を重ねていくということをしていたのであって、それらを通じてあるものはネット通販に振り分けるなども行われた。販促全般に明るい会社がデジタルサイネージのサービスをしようとするならば、クライアントのチラシ、ポスター、モバイルマーケティング、Webなどを分析すれば、サイネージのポジショニングはできるかもしれない。しかし多くのサイネージ屋さんは未だに機器の販売やレンタルに軸足を置いているがために、マーケッター的人材は不足しているだろう。

 

下の図は株式会社エール(http://a-ir.jp/business/ad/)という看板製作会社のHPにある図だが、デジタルサイネージの役割はマーケティングには限らず、むしろ看板の側から考えることも多く行われている。この立ち位置であっても、まだ非常に部分的にしか取り組めていない場合が多く、提案に際しては通行人の視線の誘導を総合的に分析しておきたい。

図のように看板の必要性もいろいろあるのだなと思わせられるが、それらはひとつの店舗において共通のコンテンツと、それぞれの看板の位置・大きさなど特質にあったコンテンツが考えられることがわかる。それがコントロールできる点がデジタルサイネージの特色になる。これら全部をデジタルサイネージにする提案よりは、コンテンツをTPOに合わせて可変にすることでどのような効果が期待できるのかをそれぞれの看板で考えて、より効果が現れやすそうなものから一歩づつ導入を勧めていった方がいいだろう。

人いきれをつくりだす

デジタル広告においても発展途上国がアツい。ネット広告だけをみるとどの国のWEBもSNSも同じように広告がついているが、リアル広告においては日本は広告の売れ残りが多くなった。昔はビルを建てると屋上に看板スペースがとられることが多かったが、最近では看板のついたビルは少ない。記事『アナログからデジタルへ?』でも、アナログ広告がつかないような場所にデジタル広告も難しいことを書いた。

これが発展途上国だとあちこちに行列ができて、サイネージもやりがいがある。

サイネージの実証実験でも表示装置の横にカメラをとりつけて、顔認識をさせ、表示内容を切り換えようという試みがいくつかされたが、人がこなければ作動できないし、また来すぎてもうまくいかないだろう。何かに役立てるとすると、カメラ映像をもとに時間ごとの通行者数をカウントするくらいが関の山かと思う。

 

病院や交通機関の待ち会い場所も同じで、一見対象がターゲッティングできそうでいて、見てくれる総人数は限られている場合があり、『テレビをつけておけば十分』と考えるところが多い。たいていの人は待ち時間をスマホを見てつぶしているので、それよりも面白いデジタルサイネージのコンテンツを低予算で作るというのはハードルが高すぎる。

そのため、既存の広告ビジネスの延長にデジタルサイネージを考えられるのは、そもそも駅近くの雑踏とか、人いきれのある場所に限られてしまっている。昼間の住宅街に人影がまばらなように、マンションのエントランスであっても昼間は行き交う人は非常に限られる。そこに雑踏の街角と同じようなモデルはもってきにくいだろう。日常的に重要なお知らせがそうあるわけでもなく、自治体広報のようなものも振り向かれにくいだろう。

これといったアイディアとか先例があるわけではないが、マンションや学校など限られた人が出入りする場所では、コミュニティ性のあるコンテンツによって、ちょっと立ち寄ってみてみたいと思わせるような開発がありえるのではないかと思う。

例えば jimoty の『売ります・あげます』なら毎日変わるコンテンツを地域ごとに検索して表示できる。簡単なCMSツールを使って、同一マンションの住民がスマホでアップした情報が、スマホとサイネージの両方に出るような仕組みもできるだろう。

今はポスティングなどもやりにくくなっているマンションが多いので、試供品がピックアップできるコーナーなどを併設すると、若干の収入になるかもしれない。つまり何らかの『人いきれ』を創り出しつつ、サイネージの活用につなげるようなことも考えてみると面白い。

 

 

 

インテリアとしてのデジタルサイネージ(埋め込み)

壁面全体をマルチ・ディスプレイで埋め尽くして、あたかもガラス張りのようにして景観を見せるとか、壁に大きな窓があるようにマルチ・ディスプレイをしつらえて、外国とか自然の中に居るような雰囲気をだすものは以前からあった。
2017年4月に松坂屋銀座店後の再開発としてオープンした銀座エリア最大の複合商業施設GINZA SIXでは、ブランド店が軒を並べるところで外観・内装ともに凝ったデザインが施されていて、その3階から5階部分を繋ぐ高さ12mのLEDビジョンが設置され、チームラボによるデジタルアート作品「Universe of Water Particles on the Living Wall」が常設展示されている。これはビデオを流しているのではなく、背後にコンピュータを置いて常時演算して表示しているそうで、日々の日没とともに様子を変える滝とか、クリスマス限定特別カラーとして滝が黄金に輝くようなことをしていたようだ。

またこのビルのデザインポリシーなのだろうが、なぜかエレベータの乗降口が矩形ではなく右肩上がりになっていて、その脇にあるフロア案内のデジタルサイネージも斜体になっている。

どうもフツーのものをそのまま置くわけにはいかないようで、とはいっても斜めのディスプレイを作るわけにもいかないから、矩形のサイネージの上下に直角三角形の覆いをつけていることになる。当然コンテンツ作りでもその三角形の部分は『余白』にしておかなければならない。

この場合のデジタルサイネージは最初から壁面のデザインの一部であり、サイネージの後付でこういう工事をするのは大変だ。でも逆にインテリアを考える際にデジタルサイネージのことを考慮することは今後増えていくだろう。

 

次は厳密に言えばエクステリアだが、渋谷駅から渋谷川沿いに『渋谷ストリーム』という店舗群ができていて、その入り口には壁面に横長ディスプレイを多数埋め込んだところがある。これも案内とか情報表示ではなく、渋谷川に紐づけての映像のインスタレーションのようになっている。この写真は川そのものを表示しているが、いくつかのパターンがある。今後もいろいろな表現が増えていくのであろう。

このような周囲に溶け込ませたディスプレイの使い方は、まだ始まったばかりで、これからもっともっと多様なデザインがされていくだろう。下の写真は展示会のものだが、正方形のディスプレイを市松状に配置していて、『渋谷ストリーム』と同様に全体として一枚の映像が流れるような使い方(非連続マルチディスプレイ)をしている。

その次の写真はディスプレイを縦に何台も連結して柱にしているもので、個別の表示というよりは全体でインスタレーションになるような見せ方ができる。

LEDビジョンのような輝度が高く大型のディスプレイが普及していく一方で、安い液晶パネルを使いながら、設置にデザイン性をもたせることで楽しい空間を作っていくという工夫も面白い。

インテリアとしてのデジタルサイネージ

デジタルサイネージを設置してもコンテンツの更新ができないとか、番組表がなかなか埋まらないなど、日常運用の悩みを持たれる方は多いだろう。複合商業施設のような多くのテナントが共用でサイネージコンテンツを提供している場合は、全体がスライドショウになっていればそれなりの変化は出ているが、1軒で運用している場合は単なるスライドショウでは飽きられる恐れがある。しかし絵画や紙のポスターでも見飽きないような絵ならば長期間の掲示に耐えられるのだから、よい作品を選ぶことに気を配れば何とでもなると思える。

 

もしある店の主人が写真の趣味をもっていれば、自分の作品から毎月なり毎週なり選んで差し替えていき、また親しい人とは表示されている写真をネタに会話をすることもできる。旅行やスポーツが趣味である場合も同様で、そのうち知人の撮った写真も表示するルールを作って、店の壁面をギャラリーのようにすることもできるかもしれない。自分で能動的に写真を撮ったり、旅行・スポーツ・その他の趣味にのめりこんでいない場合でも、興味のある分野のフリー素材をネットで探して、定期的に差し替えるようなことをしていけばよい。

例えばユネスコ世界遺産の画像を無料で使いたいなら Pixabay というサイトがある。Pixabayは著作権のない画像や動画を共有するところで、すべてのコンテンツはクリエイティブコモンズCC0の下で公開されていて、店内装飾のような商業目的であっても、許可が不要で安全に使用できる。しかし、画像に映っているものの中に商標やパブリシティ権、プライバシー権などに抵触するものが含まれている可能性はあるので、自分で注意して使う。難点は画像検索は日本語よりも英語でした方が便利なところくらいだろうか。

もっと手間をかけずに安直にしたければ有料だがデジタルサイネージに世界遺産を配信するサービスもある。これは自販機にサイネージをつけてドリンクの売り上げで運用するサービスをしているアイティ・ニュース株式会社のもので、他にもNHK動画ニュース配信サービス、緊急地震速報配信などなども配信している。この世界遺産映像は写真ではなく標準で1分間のmp4のようだ。
似たようなサービスはいろいろあるもので、名画付大型デジタルフォトフレームというのも売っていて、額縁つきの政界の名画スライドショーなのだが、これは逆にサイネージとして運用するのは無理かもしれない。

以上はいわゆる環境映像的なものだが、こういう要素は他のサイネージでもあったらよいように思う。例えば窓口での番号案内というのは役所や金融機関や病院には必ずあり、LEDの番号表示の頃と同じ使われ方が液晶パネルになっても行われている。

この場合は番号を知らせる以外の余計なことはするな、というポリシーがあるのかもしれない。私の通う病院では番号表示とともにやたらに諸注意事項が出てきて全然楽しくないのだが、こういう場合でも提案の余地はあると思う。それは画面内での表示提案ではなく、室内のインテリアとしての提案として行ってはどうかということだ。(→次回に続く)

通信で活用が広がるサイネージ

デジタルサイネージってどんなものかを知ってもらうには、とりあえずスタンドアロンでUSBを挿せばスライドショーが始まるものが説明しやすい。しかし使う台数が増えたり、それも設置場所が離れ離れになってくると、内容の変更・更新をするのが煩雑になってしまい、サイネージを活用しようという意欲も失われるかもしれない。そして更新がされないと着目もされないという悪循環に陥る。ただし特定商品の横に置かれる小型の電子POPのように、同じ商品説明をループ再生する場合は更新があまりないので、スタンドアロンで使われている。

 

USBのサイネージは今でも多いのだが、それは最初の1台で足踏みしているところが多いことでもある。今ではクラウド型とかサーバーからコンテンツを通信回線経由でダウンロードして使うサイネージがいろいろ出ているのだが、これが多種多様であることから、2台目以上の展開が進まない原因にもなっているように思える。クラウド型ではコンテンツ制作以外に通信費やシステム費用などがかかるものの、管理面では大きな進展があるのだが、もともと販促とかコミュニケーションの管理があんまりされていないところが多いので、クラウド型の価値がわかってもらい難い。

しかし通信環境とかネット上の管理システムはこの10年の間にも大変な充実をみているので、実は通信やシステムの負荷はあまり気にしないでもクラウド型のデジタルサイネージはできるように変わりつつある。だから簡易なクラウド型から始めて、サイネージの活用方法が身に付くとともにシステム的なサイネージに移行していく考え方がよいだろう。

 

通信と管理アプリ

クラウド型というのは、インターネット通信と、データのやり取りをするアプリからなる。インターネットは既存の回線を使う場合と、サイネージのために別の回線を用意する場合とがある。企業がセキュリティの観点でインターネットを利用を制限している場合は、サイネージのためには別回線を引かざるを得ないが、サイネージ程度ならモバイルルーターとか4GスマホのディザリングのWiFiで使うこともある。最近ではあまり有線LANを敷く話は聞いたことがない。
通信端末とメディアプレーヤーを兼ねて専用のSTBを使うような方法が先行して普及していて、その方が高機能であり、操作面でもすべきことが少ない。一方でPC/タブレット/スマホでインターネットとつないでサイネージに表示する場合は、ある程度それらの操作は利用者がしなければならないことになる。後者も新規に購入すると費用がかかるので、いっそのこと専用STBを使う方が初心者にはわかりやすくなる。値段はどちらも同じようなものである。

 

アプリとかクラウドの使用料というのもピンからキリで、単にスライドショウのような場合は無料のものもあるし、コンテンツ管理やスケジューリングの機能をもつと月額何千円かの費用がかかる場合もある。これにはWebサイトを管理するCMSのようなレベルのものと、さらに上には放送局の番組の送出システムのような番組の編成やスケジューリングが自由自在なものまである。億の単位のサイネージにはそのような大がかりなシステムが使われていたりするが、一般的にはCMSみたいなレベルのものが使われている。

 

管理

管理すべきは、①ファイルと表示に関することと、②番組表やスケジュールに関することと、③IDとか利用者グループに関するもの、などがある。

もっとも単純なスライドショウの場合は、どこかにフォルダに画像ファイルを入れておけば、それらを順次表示することで、USB媒体がネット上のフォルダに代わっただけである。スライドショウでもアプリが備わっていれば、表示順が変えられたり、トランジション効果が選択できたり、開始終了時間の設定をする。まずはこの程度のサイネージから使いだすのが最もわかりやすいだろう。クラウドといってもサイネージ専用のものではなく、Facebook、Instagram、GoogleDrive などのすでに一般に使われているものを利用して、そこにアップされた画像をサイネージに順番に出すようなものも出てきているので、これらはほとんど管理費用がかからない。

 

スライドショウでは表示を変えるときはフォルダの内容を入れ替えなければならないので、ファイルの表示を決めるをプレイリスト作って管理するのが②で、同じ素材を使いまわしながら複数の似たプレイリストが管理できる。そのプレイリストをスケジューラーで時系列に配置して番組表とする。これで、平日と休日とか、朝は「おはよう」夕は「お疲れさま」といったバージョンが作れる。昼のランチ用、夜のバー用、などいろいろ考え付くのだが、まだそのような使い分けがされている例は少ないだろう。つまり②が当面のチャレンジ目標であろう。むしろ初心者に最初からこういったことを押し付けるのはハードルが高すぎるのかもしれない。

 

①②がクラウド上でコントロールできると、全世界に散らばったディスプレイに対しても1か所でコントロールできるのが通信利用のスゴさである。実際は本社・支社とか、本部(フランチャイザー)と加盟店(フランチャイジー)、などでは、チラシを作るにしても扱う品目が異なって、販促物の手配には手間暇がかかるのを、③の機能があればネット上でかなり解決できるようになるはずなのだ。まだサプライチェーンマネジメントとサイネージの配信が連動しているような例は稀かもしれないが、デジタルサイネージの将来はどんどん広がっていくのだと考えられる。

今年のトレンド? レーザープロジェクター

サイネージネットワークでも中小規模のレーザープロジェクターを扱います。昨年くらいからプロジェクターの各社が中小会議室でも使える規模の製品を出してきていて、いよいよプロジェクターはレーザーの時代を迎えたように思います。今までレーザープロジェクターは大講堂・ホール・プロジェクションマッピングなど大規模なところで使われてきましたが、教室規模で何千ルーメンという製品が増えています。

 

この分野はすでにランプを使った製品が普及していますが、カタログ寿命で2000-3000時間の寿命であるために、しばしば買い換えておられた方も多いと思います。これでは営業時間につけっぱなしにするようなサイネージ向けには安心して使えません。ランプはいつ何時突然キレるかもしれませんし、交換にも万というお金がかかります。営業中の昼間にランプ交換とかメンテナンスはやってられませんから、人がつきっきりの会議室などに使用が限られるのは仕方なかったかと思います。

 

レーザープロジェクターはLEDなのでランプに比べて発熱も少ないし、寿命も一桁長いことを謳っています。だいたい2万時間とカタログには書かれていますが、ランプ方式が電源onしてからしばらくたってジワッと画像が浮かんでくるのと異なって、レーザーでは瞬時に画像が出るので、まめにオンオフをすることができ、つけっぱなしのランプよりもさらに寿命面では有利のはずです。2万時間というと何年間かはもつだろうなと想像できます。

 

さらに近年増えている超単焦点のレーザープロジェクターでは、どこにプロジェクターが置いてあるのかわからないような設置もできて、商品が多く陳列されている売り場でも商品棚の下の方から壁に投影するように、使いやすいものとなっています。大型液晶パネルのデジタルサーネージでは狭い通路に置くわけにはいかないとか、人がサイネージ当たって転倒するかもしれないという気遣いもありますが、棚の中にプロジェクターを仕込んでしまえば安心でしょう。

また、ショウウィンドゥなどに投影する場合に、何も投影しない時はガラスが透けて見えてほしい場合がありますが、それには液晶のフィルム状のスクリーンを使います。これは電源ON/OFFで透明と乳白切替が可能なフィルム素材で、フィルムタイプのため薄く、軽く、曲線への使用も出来ます。既存のガラス面には貼りつけ工事が必要ですが、フィルムが幅最大1200mm x 3400mmMAXの範囲で任意の大きさにできます。例えば人通りの多い場所のショウウィンドゥなので営業時間外も広告メディアとして使いたいといった時にはお勧めです。

 

ビジネスにサイネージを組み込む

年度末になると会計処理の理由から利益を出しすぎるよりも何かに投資をしようということで、デジタルサイネージをまとめて発注するような会社も過去にはあった。その後どのように使っているのだろうかと思っていたら、倉庫に眠ったままであることもよくある。

また最初は予算がとれて、気の利いた見栄えのするコンテンツを作ってもらっても、その後同等の予算がとれなくなって、紙のポスターとあまり変わらない使い方になる場合もある。社内で新コンテンツを作って更新するはずだったのに、グラフィックソフトを使える人が移動になってしまって、後任がいないところもある。

 

どうも日常のビジネスの一環として社内でサイネージの更新に取り組むことは難しいようだ。そこでメーカーはサイネージのテンプレートやグラフィック素材、またカンタン制作アプリなどをハードウェアのおまけとして売っているのだが、それだけではまだ何かが足りない。

実は写真やショート動画を売場とかそれに近い人が現場で撮って、若干の加工をすることくらいは難しくない。カンタン制作アプリも同様である。難しいのは媒体設計なのである。下のようなチラシは分解すれば商品名と写真と若干の説明コピーと値段で成り立っているので、それくらいは現場でもできそうだが、それをどのようにレイアウトするのか、優先順位をつけて必要ものを一定の紙面にぴったり収めるというところに経験とかノウハウがものをいい、そのデザインをしてもらうと10万20万という費用がかかるだろう。

レイアウトの前提として、見る人の視線の移動や、文字の大きさ太さの使い分け、などの知識が必要になる。その部分だけでもなんとかテンプレート化して、チラシレイアウトの迅速化を図りたいという取り組みは昔からあった。

 

今のWebやモバイルのショッピングでは、原稿をデータベース化して自動でレイアウト処理させることで、前述の現場の人が情報発信を自分でできるようにしている。これが可能なのは、画面の解像度がまだ紙に比べて粗くてレイアウトの制約がいっぱいあるからで、もし4k8kになるとチラシそのものを表示できるようになって、レイアウトの自由度が高くなるから、自動レイアウトできない表現も増えるかもしれない。

今のデジタルサイネージというのは、このちょうど中間に位置するようなツールで、データベースよりはクラフト的なものが求められている。だから完全に自動でレイアウトするのではなく、緩くテンプレート化したやり方の方が向いていると思う。

つまり、印刷やWEBでテンプレート化した平面レイアウトをしているようなことを、動画の時間軸に素材を並べることにも適用させていけば、映像やコピーの部分変更などはやりやすくなる。こういったテンプレートを作るノウハウはチラシのデザインと似ていて、最初にかなり設計なり試作なりに手間ヒマをかけなければならず、コンテンツの一発制作よりも回りくどいことになるから、若干費用はかかってしまう。しかしできてしまうと、更新コストはおそらく10分の1になる。

これなら現場でも対応できるかもしれないし、外注・アウトソーシングしても大した値段にはならない。この方法がお得になるのは、前述の前提では一つのテンプレートが10回以上は使いまわされる時であるので、毎月更新するものには1年に1テンプレートを作るとか、毎週更新するなら季節ごとにテンプレートを変えるなどのルーチン化を想定するのがよいだろう。

この方法のメリットは制作代を抑えることにもなるものの、情報発信をビジネスにリンクさせやすく、何よりも更新の機動性が高められるところにある。

 

 

 

サイネージ観光案内は大丈夫か?

1月23日にデジタルサイネージコンソーシアムの都内ツアーに参加して、丸の内/八重洲/渋谷/新宿における見どころを案内してもらった。前回の投稿でも、昨年からディスプレイのリプレースで新しい設備にも入れ替わって見栄え・迫力が増してきていることを書いたが、ハードウェアの進歩とは対照的にソフト面ではほとんど投資がされていないで、利便性も上がっていない面も見られた。

施設・フロアの案内とかツーリストインフォメーションのようなものは増えてもあまり利用されていないのだが、いろんな面で分かりにくさや、デジタルサイネージ特有のやりにくさというのがある。例えば地図を表示して現在地から目的地まで誘導するような場合に、まるでスマホのアプリのようなものを無造作に大形液晶に表示しているものが多い。

この写真の場合に、サイネージを見ている人の右側には鉄道が通っているのだが、サイネージは南を向いて設置されているので、中に表示される地図は北が上になっているために、現在地の左に鉄道が通っているようになる。だから見る人は、天地逆の位置関係を翻訳しながら地図の中を探したり、道順を考えることになる。

 

もしスマホならば、自分の体を回転させて、地図の天地と目の前の光景の位置関係を揃えることができるが、デジタルサイネージは回転させることはできない。

ここで利用されている地図は専門の会社から提供されている汎用のものだが、果たして南を上に表示するようなコンテンツの回転機能はあるのだろうか? 親切なことにこのサイネージでは目的地までの順路の表示もされるものの、何しろ目の前の光景とは天地逆の順路が示されるので、本当に役に立つのだろうかと心配になる。普通の人はやっぱりスマホに頼ることになるのではないか。

 

そもそもなぜこのサイネージが南向きに設置されたのかは想像ができる。北向きに設置すると南からの日照をまともに受けて液晶が非常に見づらくなるからだろう。このことはどこにでも共通する課題である。もし本気で北向きの地図案内をデジタルサイネージで行いたければ、バックライトではなく反射型液晶を開発しなければならない。それは技術的には可能だろうとは思うが、ニーズが少なくては普及はしにくい。Kindleのような電子ペーパーも太陽光のもとで見やすいのだが、地図のようにどの方向にもスクロールする用途には向かない。

 

また建物内のフロア案内などのデジタルサイネージでも、地図に相当するものは建築図面の平面図のようなものが多く、目的地を表示されてもどっちを向いて何を手掛かりに進めばよいのかわかりづらい。やはりコンテンツが貧弱な感じが否めない。

今日では実際に人々が日常で案内情報として頼りにしているのは、Googleの地図にストリートビューを加えた、3Dに近いもので目的地までの順路をシミュレーションできることであって、そのことと現状のデジタルサイネージの案内図とのギャップが非常に大きく感じられた。だからと言ってわが社で回転できる地図が開発できるわけでもないので、ボヤキに近いものだが、何かサービス開発をするとすると、やはりスマホ連携にならざるを得ないと思う。

 

 

 

 

多面的に、重層的に

その昔、デパートのいろんなPOPを制作していた時、プロ野球の日本シリーズでどこが優勝するかという段階ではテンヤワンヤであったことを思い出す。優勝のあくる日から記念セールが始まるのだが、『日本一!』というのと『ご声援ありがとう』では売り場の熱気は天地のひらきがある。しかし前日までどうなるかわからずに商品もPOPも両用で揃えておかなければならない。そしてPOPの方は必ず半分はゴミになる。いずれにしても会社としては売り上げはたっているので、構わないといえばそうなのだが、いろんな意味でもったいない。

もしデジタルサイネージがあったならば、POPは半減させて、もっと直近の情報を使った表示ができただろうなと考えた。やはり事前のコンテンツ作りで若干の無駄は生じるが、ゴミにはならない。文字表現などメッセージ性のあるところはデジタルサイネージまわして勝敗によって差し替え、実際の飾り付けのところは勝っても負けても共用に作っておけば、設置も早い。これでPOPの無駄も防げる。

 

しかしこういう大イベントの時だけたくさんのデジタルサイネージを駆使するということもできず、日ごろから使えるようなデジタルサイネージであって、しかも大イベントの時は総動員して大きな盛り上げにできるのが良い。そういう構造の設計はまだデジタルサイネージではなかなかやらせてもらえない分野である。

 

たとえていうと、建物に人が入ってくる『エントランス』と、婦人服コーナーのような何等か共通項のある『ゾーン』と、その中に位置する個別の『店舗とか売場』という3層の表示をどう関連づけるか、という問題整理をしなければならない。それには、現状では建物やテナントを管理する会社と、フロアプランを担っている会社と、商取引を行う店舗という、異なる会社が連携する必要もある。

『エントランス』によくあるのが館内案内であり、ゾーンや店舗のマップとかをデジタルサイネージで表示している。これはこれで完結しているものが多いが、本来なら各『ゾーン』の出入り口などのサイネージとコンテンツが連動できるようになっていて欲しい。

つまり『ゾーン』のあるメイン表示を変えると、館内総合案内に出てくるゾーンの説明用表示が変わるような仕組みである。これは同時にゾーンの案内表示と各店舗の表示とも連動していて、店舗の休みや入れ替わりに自動/半自動で対応することにもつながる。

 

もしこれらが連動できないとなったら、紙の垂れ幕の『優勝おめでとう』ならエントランスもゾーンも店舗も全部に貼れるのに、サイネージではそう簡単にはいかないとは言えないから、それぞれのサイネージのコンテンツ更新は非常に煩雑になり、特に大イベントでいろんな表示を総動員で入れ替えるような時はギブアップになるかもしれない。

 

今何らかの対応をしなければならないなら、エントランス、ゾーン、店舗のサイネージそれぞれに、コンテンツを共通に使えるテンプレートを用意して、素材の流用に手間がかからないようにするのが関の山かもしれない。

 

 

LEDのサイネージ

デジタルサイネージの大型ビジョンというとLEDビジョンが鮮やかで屋外でもよく使われている。LEDビジョンは昔は女工さんが100万個とかのLEDをはんだ付けしていたのが、今はタイルのようなブロック構造になっていて、ロボットが組み立てている。YouTubeに製造現場の動画があったので引用しておく。

これと違うやり方がLED Strip をつなげたもので、製造工場の組み立て工程ははるかに簡単なものとなり、製品も平米あたり何万円かになってしまう。また、透過型とかシースルーといわれるような使い方ができることも書いた。ただいわゆる解像度的には1dpi~4dpi程度なので、あまり狭い空間での映像表現には向かない。店頭POPとかイルミネーションとかが適しているだろう。

LED Strip でもLEDがテープに直交して取り付けられているSide Bar の場合は、テープの間隔が狭くできて解像度は向上するので、より映像には向いたものとなるし、シースルー効果も高くなる。LEDのSide Bar を透明なプラスチックの枠にタイル/ブロック構造に組んだものが、軽いので扱いやすく、実装すると上の写真のようなものとなる。

 

ただ映像が流せる場所でも、通常のサイネージのHDMIとかVGAの映像信号をそのままもってきて使うわけにもいかない。LED Strip には画像・映像の1ラインづつをシリアル転送しなければならない。データ構造は単純なので、画像データからの変換は安いラズパイ(Raspberry Pi)やアルデュイノ(Arduino)でもできるのだが、HDMIのようなフレームレートでの表現はできないだろうから、かなりコマを間引いたパラパラ漫画の上等のような映像になってしまうだろう。

このコントローラーはみなさんまだ開発途上で、安直に使えるものは少ないかもしれない。LED Stripが1本ならばアルデュイノでできたとしても、1辺が何メートルの映像となるとLED Stripが何百本になり、それ専用に開発されたドライブ装置が必要となるからだ。

時代の流れとして、LEDブロックからLEDストリップへの移行は必然のように思える。またLEDストリップは自動車への装着に次いで、家庭などのLED照明も変えつつある。つまり従来の電球や蛍光灯を外して付け替えるようなものではなく、建材とか天井材そのものが発光し、それがコントロールできるという取り組みもされている。これも注目すべき分野になるだろう。

LED Strip

街にも住宅にもクリスマスのイルミネーションが付き始めているが、これにもいろんな流行り廃りがある。豆電球の時代には夜空に星が瞬くごとく明滅する電飾がよく使われていたが、LEDになってしだいにネオンサインのようになりつつある。

さらに近年は自分で自由なイメージ表現ができるような、LEDストリップが作られていて、amazonでも売っている。

これは両面テープで貼り付けるような目的なのでテープの部分が黒ベースだが、透明テープを使ったものはカーテン状にしたものも売られている。

こういうのを使って大型のLEDビジョンを自作している動画がYouTubeにはあがっているくらい、簡便に加工や設置ができるし、電気工事も普通の家庭のもので可能になっている。コントローラもラズベリーPiなどの安いものを使い、スマホからWiFiで操作する動画もYouTubeには多くある。街角映像ではインドのものが多いように思える。

 

その仕組みは、RGB3色のLEDと、それをコントロールするICを、5ミリ角とかのサイズに一体化できたからである。

これにより、ちょうど昔のテレビの走査線のような信号をLEDストリップに送れば、画像の1スキャン分を表示できるようになるので、走査線の数だけLEDストリップを並べると、巨大なテレビのようなものが仕上がる。簡易防水のものは屋外にも使えるが、そのままではあまり耐久性はないと思う。もともとの設計がクリスマスのような臨時設営に合わせてあるからだろう。でもガラスの内側に貼れば大丈夫だ。

この写真はおそらく1インチピッチの目の粗いもので、十分に透けて見えるが、もっとピッチをつめて数ミリおきにLEDを並べたものもある。

こういう技術を使って、あらかじめ小ウィンドウのガラスに簡単な内装工事で取り付けられるようにユニット化したものが注目を集めている。YouTubeで、『シースルー LED』『透過型 LED』で検索するといろんな設置例をみることができる。

参考:https://www.facebook.com/photondynamix/

 

 

 

 

 

コンテンツは誰が作る?

前回紹介したデジタルサイネージの本では、サイネージ分野を3つの業界から見ている。それらがデジタルサイネージコンソーシアムの核でもある。

あえて言えばエンドユーザーというか、サイネージを使う主役のことは外して議論している感があった。JR東日本などではデジタルサイネージは定着しているが、すでにマスメディアに匹敵するようなものになったことを書いた。ドア上の場所は運行情報を流す場所であったわけだから、実際にはJRが主役のはずで、JRの考え方とか利用の予定を聞いてみたいものだ。

きれいな広告は出るようになっても、人身事故や天候不良での遅れの情報、代理輸送案内などはサイネージで出るようになるのだろうか? 夏には高円寺阿波踊り、錦糸町河内音頭などの行事があるように、もし各駅を中心にイベントを開催していて、その情報を流したいとなったら、沿線においてサイネージを使った案内に便宜を図ってもらえるのだろうか?

 

デジタルサイネージの別の本に、『儲けを生み出す!魔法の映像看板 デジタルサイネージのすごい広告効果』というのがあって、そのp164には、『●コンテンツは店のスタッフがつくるのがいい』という文がある。

「映像看板のコンテンツは、店の販促戦略に合わせて時々刻々変えていく必要がある。そうなるとコンテンツをつくるのは、そのときどきの店の環境がわかっている人、つまり店のスタッフがベストだ。」ということで著者の会社では導入実験などを除き、基本的にコンテンツ制作を店側に任せ、その素材提供とかサポートに徹するという姿勢をとっているという。

それが可能なのはネットの利用とPhotoshopなども含めてパソコンで誰でもどこでもできるからで、オペレータを派遣している例はないし、リモートコントロールもほとんど行っておらず、「広告制作の主役は店である」という理念があるという。

 

このことは全く異論がなく、そうでなければ実際には役に立たないと思うが、それができるところはすでにデジタルサイネージでもネットのマーケティングでも行っていて、これから営業をするとなると、オウンドメディアに関しては自信のないクライアントを相手にすることが多いので、担当者の育成が鍵になる。

それで思い出したのだが、あるところがナイトクラブのチェーン店のWebを受注して店長Blogを目玉にしようとしたことがあった。とはいっても放っておいてBlogを書いてもらえるわけではないので、Web会社の営業は深夜の閉店時間に店を訪問して、店長一緒にBlogをどう書くかの相談にのっていた。そこまでするのはどうしてもこの事案を成功させたかったからだが、ずっと続くとなると営業の体がもたない。

 

現実のクライアント事情をかんがみると、素材提供も重要だが、最初の半年なり1年なりは、月間いくらかのサポート料をいただいて、手取り足取りでコンテンツ制作能力向上をお手伝いします、というビジネスがあってもいいのではないかと思う。

デジタルサイネージはオウンドメディアの第一歩になる

愚痴を言うわけではないが、アメリカで登場したデジタルとネットによる新たなコミュニケーションツールが日本では十分活用されなかった状況を多く見てきたので、アメリカと同じような宣伝文句で日本のメディアビジネスをすることの限界を感じる。そうはいってもコミュニケーションのIT化に遅れるとビジネスでも教育でも大変なビハインドになることはわかっているので、その日本固有の障害を探して突破しなければならない。

そもそもコミュニケーションのツールをデジタル化する技術的なことは世界共通なので、日本にハンディはないのだが、コミュニケーションしようという志向が日米で大きく違っているのだろう。Webのオウンドメディアのことを以前も取り上げたが、日本の企業には広告代理店に外注する部門・担当はいても、顧客とコミュニケーションしようという担当は少ないために、日本のオウンドメディアが高評価されないのではないか。

この画面キャプチャーはコカコーラのサイトで、コークについて検索するような人が対象ではなく、コカコーラ社がどういう会社なのかを理解してもらうことを主眼にしていると思える。そのためにどこかに同社に関連したエピソードとか記事を掲載しているのだが、編集部には10人ほど居るようだ。日本の会社でそういう広報的な実務部隊を社内に抱えているのは、今ならオウンドメディアで有名な会社くらいなのかもしれない。

 

別の言い方をすると、オウンドメディアができない会社は、広告代理店に外注したありきたりの広報しかできない。それでも広告代理店は一流のクリエーターを抱えているので、お金さえ払えば消費者に魅力的なコンテンツは作れるのだが、コンテンツが魅力的であることとビジネスの成否はイコールではなく、儲かった企業が税金対策で広報活動に金をかける場合もある。業績が下降するとすぐに広報予算がカットされることでもある。

では予算のない組織ではどうすればよいのか? これは今日では難しいことではなく、そこで働いている人の日常をメディア化する訓練をすればよいのである。つまり美味いメシを食う時にはスマホで撮影してインスタに上げる習慣のある人なら、自分の扱う商品の良い点を撮影する習慣をつける。仕事がうまくいった時の社内のよい雰囲気も撮影して残しておきたい。扱う商材について仕入先から聞いた面白そうなエピソードもその都度SNSに上げておくのがよい。お客さんから褒められたうれしい話も社内で共有できるようにするのがよい。このようにして一人一人がソース情報を溜めこむことがよいコンテンツ作りの土台になる。

社長や偉い人が威勢のよい話をすることをデジタルサイネージで流しても、きっと振り向いてもらえないだろうが、消費者目線で面白いコンテンツというのは現場の人が感じているはずで、その人たちの訓練をする場として考えると、デジタルサイネージはオウンドメディアの第一歩になるといえる。

いまだコンテンツは手探り状態

街には多くの動画表示がされてはいるけれども、それをメシの種にしようとしている人から見ると、あまり納得のいくデジタルサイネージには行き当たらないのではないだろうか。サイネージのハードウェアを購入したところは、コンテンツとして動画を流すか、支給されたテンプレートの写真や文字を差し替えて流すことが多かっただろう。特にスタンドアロンの店舗用サイネージの場合は、購入時にいろんな業種のいろんなシチュエーションに合わせたテンプレートファイルがいっぱい提供されていて、それを参考にすれば誰でも簡単にコンテンツを作れると教えられた。

だがこの次のステップとして、本当に自分のビジネスのためには、どんなコンテンツを作ったらいいのだろうかと考えると、先には進めなくなってくるところが多い。場合によってはサイネージの効果がわからないから止めてしまい、それ以前のポスターや掲示でもいいではないか、という逆行も起こっている。

 

これはデジタルサイネージを導入の際の基本設計が曖昧なことからきているのだろう。だからコンテンツ制作に於いて何を満たせばよいのか?というのが分からなくなってしまう。そもそもサイネージを売る側は、いろんな使用法や事例を紹介して、いいとこどりのプレゼンをしているのかもしれない。しかし必要なのは利用者が自分にとって必須のことを明確に意識しているかどうかだ。

街のサイネージを見ると、そのシステム出身によってそれぞれの利用分野がある。これらが大雑把なサイネージの用途でもある。それを考えるだけでも自分にとって必要なサイネージが何かが浮かんでくるように思える。

家電からは大型テレビ

番組をスケジュールして配信する放送局の送出システムに似せて配信管理のシステムが作られた。広告配信のようなもので制作面と運用管理は別である立場だろう。クラウド型サイネージはこれに近いものが多い。

電子POP

商品とともに棚に収まるような7~10インチの小さな液晶を使い、特定商品の説明的な内容を反復していて、もともとは販促ビデオなのでコンテンツもその延長にある。コンテンツはSDカードの入れ替えなので特に知識は不要。

表示器

銀行や病院では表示装置として他のコンピュータシステムから更新情報を受け取って表示する用途がある。その合間に他のコンテンツを反復表示しているが、ベースが専用システムであるために、販促的サイネージとしての運用の利便性はいまいちかもしれない。

案内用のタッチパネル

問合せを画面タッチで行うインタラクティブ型のサイネージがある。誰も操作しないときは他のサイネージと同様にコンテンツを流せるが、画面にタッチして操作してもらう工夫が必要だ。ボタンなどの選択肢を絞らないと、通りすがりの人に操作してもらうのは難しい。

一方で次のような見方もできる。

・大型テレビ

営業時間全体にわたってコンテンツの適切なスケジューリングをするには、多くのコンテンツを埋め込まなければならず、そこまでの販促は店舗レベルではなかなかやりきれない。

・電子POP

数が多くなると取り扱いが大変になる。通常ハード・ソフトともいろいろなところからの持ち込みであるため、ネットワーク化して一元的な運用はやりにくい。店舗側では効果があるのかないのか、わからず放置しているところもあるだろう。

・表示器

システム屋さんが作ったものが多いので、コンテンツもWindowsで簡便に作るように考えがちであり、クオリティの高い広告にはなりにくい。HTMLコンテンツを扱えるようになっていると自由度は高まる。

・タッチパネル

複雑な操作は向かないし、コンテンツごとにユーザインタフェースも変わって不統一になりかねない。ここでユーザインタフェースで苦労するくらいなら、いっそQRコードでも表示してスマホにバトンを渡した方が利便性は高いかもしれない。ということで今後は一般化して広がるかどうかは疑わしい。

 

というような現状なので、一つ動画コンテンツを作っておいて、いろんな局面に利用してもらうようなふうにはなかなかいかない状態でもある。

 

カラーバリアフリー

サイネージネットワークのある文京区のWEBサイトを見ると、マルチリンガル対応になっていて、『English、中文簡体、中文繁體』が切り替えられるようになっている以外に、『音声読み上げ』と『色合い 標準:青地に黄色:黄色地に黒:黒地に黄色』の選択ができる仕組みがある。
新宿区、豊島区、練馬区なども同様の対応がされているが、実現方法はバラバラで、多くはホームページの記述そのものによるものではなく、新宿区は民間のサービス(リードスピーカー・ジャパン株式会社)を、練馬区は日立のアクセシビリティ・サポーター「ZoomSight」を導入して実現している。

 

この標準配色のほかに、ハイコントラストの色合い(3パターンを用意)に簡単に切り替える仕組みは、色の見え方が一般と異なる(先天的な色覚異常、白内障、緑内障など) 人にも情報がきちんと伝わるよう、色使いに配慮したユニバーサルデザインの一環であって、カラーユニバーサルデザインとも呼ばれ、印刷物でも近年は非常に意識されている分野である。

一方新聞などは基本的にモノクロであったのが、カラーテレビの時代になって天気予報での気温分布・選挙速報などでの色分け表示が、色覚異常者に識別の難しい色の組み合わせが目立ったことから、今世紀になって「色覚バリアフリー/カラーユニバーサルデザイン」の啓発活動が始められ、無意味な色の濫用を避け、 色によって情報の伝達が妨げられないよう啓蒙されはじめた。レーザポインタの赤い点も視認が困難な人が居る。駅の案内など公共空間分野では、札幌市が色弱者対策を進めたのが有名だ。

 

これはゲームを含めコンピュータの画面すべてに当てはまることだが、まだ対応は少なく、文京区などは先駆けであったと思う。その後他の区に及ぶに際して、民間の会社がソリューションを提供しはじめて冒頭のような状況になったのだろう。
文京区の標準配色は明るい灰色で、これは弱視者には通常見づらく、黒地に白文字が読みやすくなるという。色弱者にもいろんなタイプの人がいるので、黄色地に青字のウェブサイトが見やすいのと反対に、先天性色弱者は青色背景が見やすくなるなど個人差が大きいので、ウェブアクセシビリティ規格「JIS X 8341-3:2016」ではスタイルシートで配色変換ができるようにするのが望ましいとされていて、文京区はスタイルシートを選択できる構造にした。

 

このウェブアクセシビリティの規格は強制ではなく、可能な範囲でお願いしますというものなので、デジタルサイネージでやらなくてはならないわけではないが、その用途によっては考えておかなければならない事項だろう。

ただ上記の色弱者の個人差があるので、どのような配色をするのがベストなのかはいえず、現在の各区の取り組みも試行のうちなのだろうが、ガイドラインとしてはベストよりも避けるべきことは何かという意識を最初に持つのがよい。これは伝えるべき重要なことは高コントラストにするとか、赤緑の対比は使わないとか、きっといくつかポイントがあると思う。

ウェブアクセシビリティ規格の元であるW3Cには、明度差や色相差に関してのガイドがあり、次のような式が出ていて、明度差は125、色相差は500にするといい、文京区の色合いはそれを満たしているという記事があった。

 

(maximum (Red value 1, Red value 2) – minimum (Red value 1, Red value 2)) +
(maximum (Green value 1, Green value 2) – minimum (Green value 1, Green value
2)) + (maximum (Blue value 1, Blue value 2) – minimum (Blue value 1, Blue value
2))

 

デジタルサイネージでも明度差や色相差を検討するときには使える式ではないかと思う。