10年ほど前に出版された『デジタルサイネージ戦略(アスキーメディアワークス2010.4)』は、扉に「デジタルサイネージの現在と未来」とあるように、かなり幅広く当時のサイネージの取組み状況と、これからの発展の方向について、非常に多くの関係者の話が載っている。大雑把にいえば当時はデジタルサイネージの過渡期であるという指摘と、Webも利用スタイルが定まるまでに時間がかかったというようなトーンで書かれている。この書籍はデジタルサイネージコンソーシアムの活動のまとめのようなものであろう。
第2章ではいわゆる導入事例の話が集められ、第3章はマーケティングとか広告の視点でまとめられている。さすがに8年ほど経っているので今では導入事例は数えきれないくらいになっているのだが、マーケティングツールとしてのデジタルサイネージの役割を考えてみると、まだ過渡期のままであるように思える。つまり誰にでもわかるような利用スタイルというか、広告媒体としての認知が広告業界にもできていないのではないか。
それはもっともな話で、デジタルサイネージはマスメディアのような同じ情報を大量に伝達する手段ではなくて、それぞれのローケーションやターゲットにあわせてコンテンツを用意するような、非常に分散的なメディア(ミニコミのようなもの)を指向したので、画一的な効果測定や料金化というのは難しい。
唯一マスメディア化したのは電車の車内広告で、JR東日本などのページビューはローカルTV・CATVなどよりも多いだろう。しかもアクテェイブな人々が対象なので、車内広告の価値は高くなっている。一方でそのコンテンツは初期においては独自のものが開発されていたのが、今ではTVのCF流用のようなものが主流になっている。つまりデジタルサイネージといってもテレビ広告の延長のようになっていて、過渡期ではなく安定したメディアになったと思える。
先行するWeb広告も紙メディア以上に成長したが、ロングテールの広告を成立させたのはGoogleとかオークションサイトくらいで、どちらかというとWeb広告もマスメディア化しているといえる。
ではいろいろな分野でのデジタルサイネージが過渡期を超える時には、マスメディアに近づいていくのだろうか? やはりミニコミというかネット用語ではロングテールのメディアを開発しようという動きはある。GoogleはYouTubeというロングテールに向いたメディアをもっているので、デジタルサイネージにおいてもロングテールなコンテンツ提供をする方向である。しかし他のところではYouTubeのような仕掛けには手も足も出ない。
以前に専門情報誌が成立するようなニッチな分野では広告モデルのデジタルサイネージが成り立っていることを書いた。WebではBlogが簡単に解説できるように、専門情報のサイネージ配信を簡単にできる仕組み(プラットフォーム)が出てくれば、広告管理を含めたシステム構築を個別に開発する必要はなくなり、いろいろな分野ごとでの広告モデルデジタルサイネージが登場するかもしれない。
今でもクラウド型デジタルサイネージではコンテンツの編成から配信に関する管理をネット上で行えるようになっているが、広告の申込み・受付からトランザクション・レポーティングの仕組みが無いので、外側で別途構築しなければならない。日本の広告業界がこういったニッチ分野には関心を持っていないからプラットフォームがないのだろうが、海外ではどうなっているのか調べてみたい。