情報の寿命について  コンテンツシリーズ①

以前JR山手線の新車両が車内の広告をすべてデジタルサイネージにして中吊り広告を止めるという話があった。中吊りはだいたい1週間程度で入れ替わるのだろう。中吊りを無くそうという話は、電車の運行中に紙を付けたり外したりする作業が不要になるからだったが、実際には中吊り広告は無くならなかった。現実としてはドア横の貼紙広告も残っているし、車体にラッピング広告をすることもあるように、人件費云々は広告代でまかなえる構造だから、中吊りの問題も作業負担が本当の問題ではないと思う。

中吊りでよく目につくのが雑誌広告で、これは発売日のあたりだけ必要なものだ。つまりメッセージの寿命は短い。広告のビジネスを拡大していこうとすると、中吊りの印刷や付け外し時間をカットして、紙では不可能な短期間の広告を開発していくことが狙いであったはずだ。
これはヨーロッパで駅や交通機関のデジタルサイネージが非常時の緊急誘導のインフラとして考えられた経緯からしても当然の考えで、究極のデジタルサイネージは放送のようにいつでも自由にメッセージが出せるようになることだと思う。これはネットの時代になったことで、電波の許認可などなくても、だれでも何処へでも情報発信できるのだから、紙の中吊りスペースの有効活用として、いずれデジタルサイネージ化する日は来るだろう。

 

交通機関の場合は鉄道会社系列広告代理店がメディアとしてデジタルサイネージを提供しているので、メディア利用料金のビジネスでしかないのだが、店舗や施設が自分で設置するデジタルサイネージは、自分のビジネスを助ける広告・宣伝・販促・案内・通知などに使われている。この分野も以前は紙や電波媒体を使っていたものを、もっとタイミングよく情報発信することが、デジタルサイネージ導入の理由になっている。つまり情報の差し替えを容易にできることがサイネージの最大の利点なのだが、それほどコンテンツが差し換えられているサイネージはなかなかお目にかかれないのが実情である。

食堂などで「冷やし中華はじめました」という貼紙やポスターが初夏に掲げられると、人の心は引っ張られる。掲げるタイミングは「ちょっと蒸し暑いな」というところだろうが、一体いつ取り外すのだろうか? こういう貼紙は食材の納入業者が持ち込んでくるので、次の新たな貼紙が来るまで前のが貼られているのではないだろうか?

だがデジタルサイネージもこういう状態を引き継いでいたのでは活用しているとは言い難い。紙のポスターでは不要になったものを外して来年にとっておくことはないだろうから、その場限りの情報発信になってしまうが、デジタルコンテンツなら1年経つとそれぞれの季節のコンテンツが積み重なっていって、来年はまたそれをモディファイして使いまわすことも可能なはずだ。そういうことで、年間通じて途切れない販促ができるようになるだろう。

 

ポスターや貼紙のマズイところは、もう期限切れになったキャンペーンのポスターが残っていたり、場合によっては何年か前の色褪せたポスターが掲げられていたりして、情報の寿命がなくなった後も外し忘れがちなところだ。外さなくても店に損害はないと思うかもしれないが、実は店の印象を悪くしているものなのだ。店回りの掃除や整理整頓をするのと同じように、お店の発する情報も賞味期限が切れていないかどうかを顧客目線でチェックする必要がある。

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