サイネージのフォント    コンテンツシリーズ②

印刷の特徴は新聞に代表されるように、短時間に多くの複製を作り出せることにあるが、印刷物の配布はトラックに積んで行わなければならないために、頻繁に変更がある情報伝達には向かない。しかし今日の印刷は500年の伝統があり、その中で文字や図像に関するさまざまな表現技法が開発されてきた。それらは現代では紙にとって代わった新しいメディアであるテレビ放送のような動画やWebの世界でも引き継がれている。時代と共に情報伝達技術は変わっても、表現技術・技法はそれほど変わらない部分もある。

電子メディアにおける文字の扱いは、電子メディアの登場時点では文書作成にフォーカスしていたのが、パソコンの時代になってさまざまな印刷物もパソコン上で作成できDTPになったのが1990年代。それまでプロの印刷用フォントでしかグラフィックデザインができなかったのが、デザイナがパソコンで仕事できるようになり、テレビのテロップなども斬新な雰囲気になって大きく変わってしまった。しかし残念なことに街のデジタルサイネージには、この流れに取り残されてしまったものも見受ける。

例えば、よくデザインされたフォントを単にパソコン上に移しただけでは、下の写真の左のようになってしまうことがある。一方印刷で培われたフォントの扱いである、文字の間隔や並べ方のコントロールの技法(タイポグラフィーという)は、広告宣伝物を通じて人々が日常目に触れるいたるところにあって、一般人の美意識にも染みついている感覚である。それからするとpowerpointで作ったようなPOPは間延びしたものに見えてしまうことになる。

POPがパソコンで簡単にできても、店頭では手描きのPOPの方が味があるからという理由で、店員さんがPOPの上達に励んでいるのが現実である。確かに上の左の写真のようなPOPを作るくらいなら、自分で文字を描いた方がカッコイイものが出来ると思う人は多いだろう。

 

デジタルサイネージでも同様で、月並みなパソコンPOPのようなもので安直に制作していては、色とりどりのマーカーやチョークで手描きする看板からは見劣りしてしまう。しかしグラフィックに凝れば凝るほどよいと言いたいのではなく、機敏に情報を発信する上では制作スピードが第一なのである。だから、手元のパソコンも活用しながら、デジタルサイネージの印象が陳腐にならないように、ところどころにはピシッと締まったタイポグラフィーも見せるようにしたいものだ。

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