2018.8.3
サイネージに何が起ころうとしているか?
デジタルサイネージという分野は昔から多様で、商品棚の電子POPから、ビル壁面を使ったLEDビジョンまで、大小さまざまだった。これらを以前は大型商業施設や駅など露出の多いところで広告メディアとして使われているものと、企業・病院・学校・チェーン店などのインハウスの情報システムと、店頭の電子看板のようなスタンドアロン利用の3パターンに分けて考えることが多かった。広告メディアのコンテンツは広告代理店が扱うのに対して、インハウスのコンテンツはシステム任せだったりパワーポイントで利用者が自作するものだった。
サイネージネットワークではこういったコンテンツ制作に困っている層をサポートしていこうと考えていたのだが、コンテンツ以外の要素がサイネージ導入の障壁になることも多かった。以前にも書いたハードウェアの初期投資が大きくなることから、いったいデジタルサイネージの効果はどういうものかという議論に入り込みがちだった。しかしサイネージの効果測定をするというのは最終目的ではなく、ビジネスの効率化にどう寄与する使い方をするのかが問題である。その上でサイネージがふさわしく使われているかどうかを評価することになる。
これからのデジタルサイネージを考える上では、大きさや形態、設置場所の分類とは別の見方も必要かなと考えている。サイネージネットワークとしてはサイネージの使われ方ごとに、制作したコンテンツをどう活用してもらえるのか、というところに原点があるので、使われ方の変化を注視している。
最も目立つサイネージは今でも大型商業施設やまた最近ではスタジアムのような収容人数の多いイベント会場などであろう。ここにはいつも最新式のハードウェアが導入される。今ではサイネージはインテリアの一部分でもあり、内装とともに設計される。サイネージが置かれた施設に関連するSNSコンテンツが表示される場合もある。ARでゲーム感覚を味わうものもある。AIを使って映像から居合わせた人々の属性を把握するものもある。タッチパネルに代えて音声認識で多国語の応対をするものもある。要するに最新技術を駆使して、顧客満足度やマーケティングの向上をさせようとするもので、数年先の機器リプレースの際には同じものにはならない。こういうどんどん進化するものは先端技術型と呼んでもいいだろう。
一方で店舗の看板スタンドのようなサイネージは、お店のメニューが何年たっても変わらないのと同様に、あまり変化はないかもしれない。店舗側はあまりシステムもコンテンツもかかわらないので、放置型と呼んでおこう。
しかしハードはメディアプレーヤー内臓の電子POPならSDカードを、パソコンやSTB内臓のものならUSBメモリを差し替えているものが、次第にネットワークにつながった利用形態になろうとしている。店舗の側にはネットワークやシステムの費用を負担するつもりはないだろうから、これからは広告モデルにして、店舗の営業案内以外に関連商材の広告が流れるようなサイネージが増えていくだろう。そのためのインフラというのが最大の問題ではあるが、居酒屋だったらアルコールの広告は許可するといった風に、できれば相乗効果が期待できて、少なくともバッティングしないようにコントールできるようにして、広告で廉価にサイネージが使えるようになる可能性がある。
中間の企業・病院・学校・チェーン店などで、訪れた方のみを対象にするところは、それぞれ具体的な目的に合わせた使い方が求められて、ザクッと広告モデルとかが主にはならないと思う。企業なら情報伝達・教育、チェーン店ではキッズコーナーのような特化した使い方が広まりつつあるように、目的志向のコンテンツ制作になる。販促の場合でもどの期間に何をいくつ売るとか、売れ残りゼロにするとか、ビジネスと深くリンクしてTPOに叶ったコンテンツが発信できる仕組みを考えることになる。どちらかというとコンテンツマーケティングとかオウンドメディアに近いもので、組織側の取り組みに相当の熱心さが必要で、しかもちゃんとマネージメントしていかなければ成果はないので、マネージ型と呼ぼう。
マーケティングのマネージメントをちゃんとしなさいという提案をサイネージ利用の側から行うのは難しいかもしれないが、情報発信のスケジューリングや配信管理が小まめにできるネット/クラウド型のサイネージなら、ビジネスとリンクした使い方には向いているはずだし、一度軌道に乗ると次々に新たな課題も出てきそうだ。
他方、放置型は裾野市場が大きいようにみえても、コンテンツは広告主体のままで、店舗側の利用の仕方には進展はないかもしれない。インフラに関してはGoogleの広告ビジネスが入り込んでくる可能性もある。つまりネットにつながったサイネージなら広告収入があって廉価に使えるということで普及につながることも考えられる。