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「時事ネタ」カテゴリーの一覧を表示しています。

2019.6.14

光と映像のインスタレーション

毎年この季節になると幕張でデジタルサイネージジャパンが開かれ、デバイスの最先端に触れることができる。この展示会でも街中でも、もうサイネージといえば40-50インチの液晶という固定的なイメージは通用しなくなってきている。さらに大型で外光にも強いLEDモジュールのピッチが細かくなってきて、その映像のインパクトの強さは導入意欲を高めることだろう。解像度も価格ももっとも流動的な分野である。(ただし、どうもテレビ系の方々にはLEDの画質はまだ十分には思われていないか、あるいは違和感を持たれているように思える。)

 

展示会では大型の電子ペーパーも出てきて、反射型デバイスとして屋外用途に使えるようになると、何かと便利だと思う。今はまだ白黒の電子ペーパーなので、それ自体でインパクトのある看板にはならないが、そこはLEDモジュールなどと組み合わせて看板を組み立てれば、情報表示用としての電子ペーパーの出番はあると思う。

また近年は曲面とか空中に結像させるとか矩形のディスプレイの枠をはみ出た表示デバイスも増えて生きている。加賀電子の水が流れるような立方体の組み合わせ(写真下 https://p-prom.com/feature/?p=34882 より)は、以前中国のサイトで見たような気がするが、こういうのは情報表示というよりは、インスタレーションに近い用途で使われるだろう。すでにGINZA SIXの滝(チームラボ)のようなデジタルアート的使われ方は人の集まるところでしばしば見かけるようになった。

インスタレーションとは現代美術の一つで、人々が行き来できる空間にオブジェや装置を置いて、その空間をも作品となるように構成しているもので、特にデジタルアートの場合はプロジェクションマッピングのように視界を変化・異化させ、その場を作品として体験させるパフォーマンス型の芸術である。

最初はおもに前衛彫刻が多かったが、それが機械仕掛けになり、また光るとか色が変わるとか、映像を投影するとか多彩な表現手法が加わっていった。ニューヨークのタイムズスクエアはビル壁面がLEDビジョンだらけで、その谷間を人が行き交うようになっており、そこでは15秒ごとにコマーシャルが入れ替わるようなサイネージはなく、一定時間の映像作品が流れていて、インスタレーションの商業化したもののように思えた時代もあった。(今ではあまりにもLEDビジョンは日常になりすぎていて、あまり感慨はわかないのだが)

 

不幸なことにこのところ日本の企業は金回りがよくないのか、インスタレーションのスポンサーになったり、自社のイベントにそういうものを使うことは減った。むしろ伸び盛りの国の方が派手なインスタレーションはよく行われている。今年1月に幕張で行われたイベントMETACITYでは、トルコ・イスタンブールに拠点を置くニューメディア・スタジオ Ouchhh(アウチ)が初来日して、世界各地でこの種の映像パフォーマンスがどのように行われているかの一端をみることができた。

デジタルサイネージにアート性が求められる分野もあるわけだから、紙の宣伝やテレビの焼き直しに終わらずに、その場所でしか成り立たない映像パフォーマンスを企画する心がけも必要だろう。

 

 

 

 

 

 

 

2019.4.24

インテリアとしてのデジタルサイネージ(埋め込み)

壁面全体をマルチ・ディスプレイで埋め尽くして、あたかもガラス張りのようにして景観を見せるとか、壁に大きな窓があるようにマルチ・ディスプレイをしつらえて、外国とか自然の中に居るような雰囲気をだすものは以前からあった。
2017年4月に松坂屋銀座店後の再開発としてオープンした銀座エリア最大の複合商業施設GINZA SIXでは、ブランド店が軒を並べるところで外観・内装ともに凝ったデザインが施されていて、その3階から5階部分を繋ぐ高さ12mのLEDビジョンが設置され、チームラボによるデジタルアート作品「Universe of Water Particles on the Living Wall」が常設展示されている。これはビデオを流しているのではなく、背後にコンピュータを置いて常時演算して表示しているそうで、日々の日没とともに様子を変える滝とか、クリスマス限定特別カラーとして滝が黄金に輝くようなことをしていたようだ。

またこのビルのデザインポリシーなのだろうが、なぜかエレベータの乗降口が矩形ではなく右肩上がりになっていて、その脇にあるフロア案内のデジタルサイネージも斜体になっている。

どうもフツーのものをそのまま置くわけにはいかないようで、とはいっても斜めのディスプレイを作るわけにもいかないから、矩形のサイネージの上下に直角三角形の覆いをつけていることになる。当然コンテンツ作りでもその三角形の部分は『余白』にしておかなければならない。

この場合のデジタルサイネージは最初から壁面のデザインの一部であり、サイネージの後付でこういう工事をするのは大変だ。でも逆にインテリアを考える際にデジタルサイネージのことを考慮することは今後増えていくだろう。

 

次は厳密に言えばエクステリアだが、渋谷駅から渋谷川沿いに『渋谷ストリーム』という店舗群ができていて、その入り口には壁面に横長ディスプレイを多数埋め込んだところがある。これも案内とか情報表示ではなく、渋谷川に紐づけての映像のインスタレーションのようになっている。この写真は川そのものを表示しているが、いくつかのパターンがある。今後もいろいろな表現が増えていくのであろう。

このような周囲に溶け込ませたディスプレイの使い方は、まだ始まったばかりで、これからもっともっと多様なデザインがされていくだろう。下の写真は展示会のものだが、正方形のディスプレイを市松状に配置していて、『渋谷ストリーム』と同様に全体として一枚の映像が流れるような使い方(非連続マルチディスプレイ)をしている。

その次の写真はディスプレイを縦に何台も連結して柱にしているもので、個別の表示というよりは全体でインスタレーションになるような見せ方ができる。

LEDビジョンのような輝度が高く大型のディスプレイが普及していく一方で、安い液晶パネルを使いながら、設置にデザイン性をもたせることで楽しい空間を作っていくという工夫も面白い。

2019.3.1

広告は好意にみてもゼロサムではないか?

電通の『2018年日本の広告費』が発表された。国の統計がいろいろ議論されている今日ではあるが、この広告の統計も調査方法が暫時変化してきているので、数字の細かい点を通年で比較してどうとかは言いにくい面がある。今年も全体では、

『●日本の総広告費は、6兆5,300億円(前年比102.2%)となり、7年連続のプラス成長
●インターネット広告費は、1兆7,589億円(前年比116.5%)、5年連続の二桁成長となり、地上波テレビ広告費1兆7,848億円に迫る
●マスコミ四媒体由来のデジタル広告費※は、582億円(新設項目)』

とまとめられていて、元気な印象を与えるように作られている気がする。それは悪いことではなく、主体である4マス広告の沈下をオブラートに隠すのにインターネット広告を使っているように思える。それほどインターネット広告は伸びているということなのだが、そもそもインターネット広告の把握の仕方が曖昧で、ある意味どのような数字も作れる。一例ではECサイトで物を売るとなると、サイト内の仕組みを使ってプロモーションができる仕掛けが有料で提供されているが、あれは広告費に参入されていない気がする。今後もいろいろなネット上の広告を加えていけばまだまだネット広告は伸ばすことができる。

 

それはともかく、サイネージや映像は、『プロモーションメディア広告費』にカウントされている。

何とほぼ前年どおりで伸びはなく、内訳としてみると紙メディアが下がった分だけ映像系が増えたということかもしれない。その点ではやはり広告という視点ではゼロサムなのかなと思う。ところがそれ以上にサイネージの設置は増えている。

 

実際交通系は車内も駅周りも着実にデジタルサイネージの設置は増えているのだが、それは実は広告のためだけに推進しているのではない。事故などの際のダイヤの乱れを伝えるのに、従来は改札近辺の白板に書いていたことが、駅回りのサーネージにも出せるように変わりつつある。それもスマホに提供されている運転見合わせ区間の表示などが駅でも連動して表示できるような、インフラの整備が行われつつあることがわかる。

記事『案内システムのカオス』では、メトロの例をあげて、運行情報のサイネージには広告を出さないというものを紹介したし、丸の内界隈でも防災を考慮したサイネージは、いわゆるビル壁面や屋上の完全広告モデルとは異なる運用をしている例を挙げた。ツーリストガイドのサイネージも広告は載せてはいるが、経費の足しになればよいということで一定の場所や時間を広告に割り当てる例がある。どうも広告ビジネスとしては中途半端にならざるを得ないのが現状のサイネージのように思える。

 

今のところ広告が先導してサイネージが広まることができるのは、設置場所やクライアントをすでに抱えているという条件があってこそできることで、先にディスプレイを設置すれば広告が自然についてくるようなことにはなっていないということだろう。広告業界にとってもデジタルサイネージは、ポスターのように掲示すれば終わりというわけにはいかず、更新できることのメリットを出すには、今までにない努力とコストがかかることにもなるので、あまり身が入らないのかもしれない。

 

 

2019.1.11

テクノロジー vs 伝統

昨年暮れのクリスマスのイルミネーションを見ていると、どんどん派手になるのではなく、どちらかというとクラッシクな雰囲気に戻りつつあるのではないかと思えることがあった。地元吉祥寺駅前のイルミネーションは過去にいろんなLEDがどんどん増える方向にあったのが、近年は昔ながらのツリー状のものが定着しつつある。これはヨーロッパの街並みにも通じるような雰囲気がある。

一方で商店街のサンロードの方は天井にLEDが飾られてきたが、これもド派手なものではなく、線香花火に近い。いずれにせよサイン・ディスプレイが出しゃばり過ぎないような配慮がされているように思える。

 

一方ドバイやバクーやシンセンなど新興都市ではLEDでビル全体を囲んだような、プロジェクションマッピングにも似たディスプレイが増えていることを以前に書いた。こういった街々はそもそも低層ビルの屋上にネオンサインの広告がない。なにしろ何もなかったような土地に突如高層ビル群が現れた街なのだから当然である。かたや日本は低層ビルにネオンサインというのが元の姿なので、それを取り去ってまでビル全体をLED化するのは難しいだろう。

 

すでに日本でもLEDストリップによるビル壁面の大型ビジョンがあちこちにみられるようになってきた。しかしそこで表示されるものはきっと世界の新興都市にあるようなものとは異なったものとなるだろうと思う。

上の映像は新宿にあるものだが、スマホのカメラで撮ったらモワレが大胆にでてしまった。コンテンツはまだある意味ありきたりで、特段インパクトがないというか、むしろ1インチ間隔のLEDストリップの粗さがかえって目立ってしまうような絵柄を選んでいるのが気にかかる。つまりこのようなデバイスの場合はきれいな写真を再現しようということではなく、素朴なクリエイティブをした方が見栄えが良くなるのではないかと思った。

 

またこういった新技術の設置をした最初の段階は、技術デモンストレーションの印象が強く残っているので、新規なコンテンツを作りたくなるのだろうが、次第に景観との調和とか、商品・サービスとの調和の方が重要視されるようになって、クリスマスツリーが落ち着きを取り戻したように、無理のないコンテンツに収束するのだろう。

2018.11.29

LEDのサイネージ

デジタルサイネージの大型ビジョンというとLEDビジョンが鮮やかで屋外でもよく使われている。LEDビジョンは昔は女工さんが100万個とかのLEDをはんだ付けしていたのが、今はタイルのようなブロック構造になっていて、ロボットが組み立てている。YouTubeに製造現場の動画があったので引用しておく。

これと違うやり方がLED Strip をつなげたもので、製造工場の組み立て工程ははるかに簡単なものとなり、製品も平米あたり何万円かになってしまう。また、透過型とかシースルーといわれるような使い方ができることも書いた。ただいわゆる解像度的には1dpi~4dpi程度なので、あまり狭い空間での映像表現には向かない。店頭POPとかイルミネーションとかが適しているだろう。

LED Strip でもLEDがテープに直交して取り付けられているSide Bar の場合は、テープの間隔が狭くできて解像度は向上するので、より映像には向いたものとなるし、シースルー効果も高くなる。LEDのSide Bar を透明なプラスチックの枠にタイル/ブロック構造に組んだものが、軽いので扱いやすく、実装すると上の写真のようなものとなる。

 

ただ映像が流せる場所でも、通常のサイネージのHDMIとかVGAの映像信号をそのままもってきて使うわけにもいかない。LED Strip には画像・映像の1ラインづつをシリアル転送しなければならない。データ構造は単純なので、画像データからの変換は安いラズパイ(Raspberry Pi)やアルデュイノ(Arduino)でもできるのだが、HDMIのようなフレームレートでの表現はできないだろうから、かなりコマを間引いたパラパラ漫画の上等のような映像になってしまうだろう。

このコントローラーはみなさんまだ開発途上で、安直に使えるものは少ないかもしれない。LED Stripが1本ならばアルデュイノでできたとしても、1辺が何メートルの映像となるとLED Stripが何百本になり、それ専用に開発されたドライブ装置が必要となるからだ。

時代の流れとして、LEDブロックからLEDストリップへの移行は必然のように思える。またLEDストリップは自動車への装着に次いで、家庭などのLED照明も変えつつある。つまり従来の電球や蛍光灯を外して付け替えるようなものではなく、建材とか天井材そのものが発光し、それがコントロールできるという取り組みもされている。これも注目すべき分野になるだろう。