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2019.7.29

品質のばらつきを抑える

ひとつのデジタルサイネージをいくつかの店舗で相乗り利用をすることが、駅とかショッピングモールのような複合商業施設ではよく行われている。商店街も同様であるが、特有の課題がある。実際に出来上がったものを見てみると、店舗や入居者によって内容に大きな格差がでてしまう。これは作品としてではなく、そもそも業種や業態などやっていることの違いからくるもので、Webで町の店々を紹介していても同様のことが起こる。

無料のサービスならば表現の格差が起こってもほっておけばよいかもしれないが、月々幾らかをいただくとなると問題だ。商業施設などの場合は管理会社が間に入ってサイネージ広告の取りまとめもし、管理代金にオプションとして費用の徴収をしてくれることもあり、サービス提供側としてはありがたいのだが、ほっておいては順次脱退されていくかもしれない。やはり個々の店舗にとって役立って必要と思われるものに改善していかなければサイネージのサービスも続かない。

つまりコストに見合った最低限の品質レベルを維持できるようなサービスにする必要がある。店舗の側ですでにホームページをもっているとか、カタログ・パンフを制作しているとか、どこかに広告を出稿していて、グラフィック素材や広告のコピーをもっておられるところなら、それらからいくらでもデジタルサイネージの制作は可能だ。しかしワードで作ったペラの営業案内を用意するのがやっとのところもある。

しかしこういうところも、アピールする内容がないわけではなく、メニュー・店内・厨房・食材について取材していけばサイネージのコンテンツは構成できる。もちろん制作費用を払ってもらえるなら、全部お任せで引き受ける制作会社はあるだろうが、問題はそういう費用を勘定していない場合である。つまりこういったサイネージを広く普及させる鍵は、いかにイージーオーダーのコンテンツ制作ワークフローを創り出すかだろうと思う。

Webの場合は、SNSでも簡単制作アプリというのが提供されて、それで動画編集をする若者もいて、もしその店の知り合いにアプリを使える人が居るなら制作を依頼すればよいと思う。それらをサイネージの素材として提供してもらえればよいが、あまり期待できないかもしれない。

それらの代わりになるものを制作側で用意すれば、あとは店舗側で何点かの写真・動画をとってもらって構成することはできる。一番単純なのはjpgやmp4のファイルをどこかのフォルダに入れておけば、順次再生するスライドショウ的なもので、各素材の順番や時間をコントロールするアプリのついているものがある。

こういった感じでもっとテンプレート化を進めて、オープニングから最後までの展開とシーンチェンジ、またテロップの出し方などを、うまい具合にデザインしておいて、中の写真・動画・文字の素材を入れ替えれば、いろんな店舗に適用できるものを開発すると、品質の底上げはかなりできるようになる。

2019.7.12

経験の積み重ね

デジタルサイネージはここ15年ほどの歴史しかない比較的新しいメディアであるが、そのコンテンツ制作に携わる方は映像・画像・ドキュメント・情報システムなどなどに経験を持つところが主体である。経験があることは長所でもあり短所でもある。長所としては試行錯誤を重ねて時間や費用の無駄使いをすることが経験によって少なくなっていくことだ。短所は逆に試行錯誤を上手にすることができず、コストを考えるとリスクを下げることが優先になって変化に適合しにくくなることだろう。

 

7payの決済がオンラインの手続きに不備がみられたのも、店舗での客対応は得意としても、ネットでの客対応の経験が少なかったことをあらわしていると思う。今までモルタルのビジネスがECも始めようとした際に初歩的なミスをしがちであるとか、ネットでの使い勝手が向上しないとかの例は数限りなくある。そこにベンチャーのチャンスもあるのだが、経験の少ない新興勢力ができたことができないはずもなく、要するに既存勢力の新事業に対する努力不足と思われることが多い。

 

デジタルサイネージはデバイスとしては新興勢力でも、コンテンツ制作では既存勢力の面がある。つまりベンチャーとして他の既存勢力の領域に喰いついていかねばならない点と、独自ノウハウを活かしていく点がある。以前の記事に書いたがチラシという紙媒体はいろんなノウハウやカラクリがあるので、なかなか廃れない。つまりチラシの代替をサイネージでやろうとしても苦労するであろう点が多い。一方でポスターのようなものは、印刷後に貼りっぱなしで何も管理していないようなことが多く、あまり利用面でのノウハウがあるとはいえない。(コルトン電飾看板電飾フィルムなどは広告として管理されているが

 

放置プレイのポスターと違って、店内のメニューを頻繁に入れ替える場合は、何を、何時、どのようにプッシュする、という経験が培われているので、デジタルサイネージのようにコンテンツの入れ替え自由なメディアが役に立つ。もう10年くらい前からマクドナルドでカウンター上のメニューをデジタルサイネージにするという話がでていたのに、いろいろ紆余曲折があったようで、近年になって実現されている。

写真上はデジタルサイネージ以前のもので、少し曲面になっているが、手で回転させると3面を切り替えられるような仕組みの電飾フィルムである。これは3面以外の内容を貼ろうとすると付け替えをしなければならない。おそらく朝昼晩用などを3面に割り付けていたのだろうと思う。店長さんがこのいくつかの三角回転体を手で回していたのを見たことがある。

 

それらが最近デジタルサイネージに置き換えられたのだが、何をどこに表示するのかという面の使い方は以前とほぼ同じである。つまり3面電飾フィルムの利用経験の延長上でデジタルサイネージを使っているわけで、おそらくサイネージに切り替えて省力効果があるとともに、運用上で売り上げにマイナスのことは起こらなかったのではないかと思う。

 

もし放置プレイのポスターをサイネージに置き換えても、以前のポスターがどんな効用があったのかもわからなければ、サイネージになって何がよかったのかもわからない。つまりサイネージを導入する前には、いくつかのポスターを手で貼り替えながら、どんなコンテンツをどのタイミングで見せるべきかということを整理しておいた方がいいのではないかと思う。これはサイネージで予定しているコンテンツをいくつか、先行して大判のプリントにして用意すればいいことである。しかも2面だったら表裏にしておけば手で簡単に切り替えられる。またわざわざサイネージしないでポスターのままでも構わないものも見つかるかもしれない。

 

 

 

 

 

2019.7.5

テーマ曲が必要になったら

デジタルサイネージでは、駅など音が出せない場合も多いが、自社の店頭などでは音がついていたほうが着目率は上がる。とはいってもうるさいだけのBGMになってしまうと逆効果だ。ネットでも不意に変な音楽が大音量で流れ出すと、内容を見るどころかコンテンツを消すアクションにいってしまう経験があるだろう。だからコンテンツのイメージあう、コンテンツを盛り上げるようなBGMをつけることが多い。またシーンの切り替わりのメリハリとか、着目点を際立たせるためにキーワードにはジングルを入れるなどをする。特にどうしたいという意向がないコンテンツでは無料の音の素材をネットでダウンロードして使うこともある。これらは今では多くのサービスがあり、むしろ選ぶのが大変なくらいだ。利用目的によっては料金がかかるとか、パブリックドメインと聞いたのに後からどこかに訴えられたという話も聞いたことがある。曖昧な使い方をしているうちに係争になったら驚くような金額を請求されてしまう場合もある。

企画に力を入れたコンテンツ作りでは、むしろ最初から音と映像はセットで考えないと、時間も費用もかかってしまうし、統一感のあるすぐれたものにはならない。とはいってもオリジナル曲を頼むのでは、どんなものが出来上がるのか心配であるし、費用もかなり掛かることが予想される。社歌などは何十周年の記念行事に合わせて作ることがあるが、そういう時しか予算がとれないからであろうと思っていた。
ところが先日CM音楽制作のプロダクションBISHOP MUSIC (http://www.bishop-music.com/)さんと話していて、意外にオリジナルを安く作れるものであるとわかった。

何年か前にデトロイトの教会のゴスペルのチームが来日した際に、牧師さんがビックカメラのテーマソングが気になって仕方がないと言っていて、実際店舗に行って何かを買っていた。実はあのテーマソングは日本人にとっては「たんたんたぬきの金時計…♪」であるけれども、元歌は19世紀中ごろの讃美歌『Shall We Gather at the River』で、それが牧師さんの脳裏にはあったのであろうと想像した。

ヨドバシカメラのテーマソングはアメリカの『リパブリック讃歌』の替え歌として知られている。要するによく知られているパブリックドメインを替え歌にした方が人々には親しみが湧くものとなることがあるということだ。

 

BISHOP MUSICさんは、オリジナル制作を手掛けると同時に、パブリックドメイン楽曲のアレンジ制作もされていて、作例がホームページにもあがっている。この方法だと、オリジナル曲を頼む際の不安がなく、また数多くのサンプルを聞きながら決めていくことができる。STEMファイルのサンプル音源が用意されているので、それを使う場合にはドラムのステム、ベースラインのステム、ハーモニーのステム、リードのステムといったような要素を分けて利用することができ、これらの部分入れ替えだけでオリジナリティを付加するリミックスという方法で制作すれば、かなり安く早く仕上げることができるという。
替え歌としてオリジナルのボーカルを入れるのも、楽器パートを追加するのも、音楽スタジオを借りることなく、デスクトップ上の操作とネットのやり取りでもできるからである。

フリー素材はネット上にたくさんあるものの、権利処理がしっかりされているのかとか、気に入るものを素人が探すのがたいへんなのが現実で、そういう意味では企画意図を伝えればサンプル候補を絞ってもらえる専門家が一緒に仕事をしてくれないと、クオリティの高い映像制作を効率的に行うことは難しいのだと感じた。

 

2019.6.28

融合メディアとしてのサイネージ

かつては放送と通信では世界が異なって別々の法規で運用されていたタテワリであった。歯医者さん向けに衛星放送で番組を流していたことを書いたことがあるが、なんらか放送法の制約を受けたはずである。また電波を使うとなると用途の制約というのもいろいろ起こってくる。一つの電波にさまざまなサービスを載せることは困難だ。しかしインターネットがブロードバンドになったことでこれらメディアに関するタテワリ行政に風穴があいて、特に動画の利用局面はものすごく広がったといえる。
デジタルサイネージでも『番組』『チャンネル』など放送をイメージさせる使い方もあるが、単にインターネットで動画ファイルを送って、リピート再生しているだけである。それでも巷ではYouTuberさんたちはTV放送以上に見られている人たちがいる。動画のビジネスもまだまだ伸びるはずである。

 

しかしまだ放送や通信の法規は残っているので、既存メディアを流用・利用する際には不都合が多くある。よく待合室にはテレビがつけっぱなしにしてある。これをサイネージに置き換えたいことがある。とはいってもサイネージのコンテンツには限りがあるので、テレビも見れるようにしたいなと考えても、サイネージの画面内にTV映像を合成するわけにはいかない。TVの画面の中にPicture In Pictureとかワイプとしてサイネージコンテンツが割って入るのだったらいいのかもしれない(未確認)。台風・集中豪雨そのた自然災害の恐れがあるときには、サイネージにも情報を流したい気はするが、勝手に放送は使うことはできない。

モニターが1台だけなら画面(あるいはHDMIケーブル)を手動で切り替えればよいのだが、面数が多いとサーバー段階で内容を入れ替えなければならない。HTML表示ができるデジタルサイネージなら、ネット上の災害情報を表示させやすいが、必ずしもサイネージを前提に編集されているわけではないの、誰かが内容を見張っていなければならないのは同じだ。
今日のデジタルサイネージの配信サービスを行っているところは、たいてい通信社から提供される天気予報やニュースをオプション(月間何千円か、リコーは基本料に含まれる)で使えるようにしているので、こういったサービスが充実してくれば巷のサイネージもリッチになると思う。

 

また配信サービスも現在のような、『プレイリスト』→『番組表』『スケジュール表』というスタイルではなく、臨時の配信に対応した使い勝手の良いものが求められるようになるだろう。スーパーの内部でイベントをする場合があるが、その実況中継をデジタルサイネージに出すなどの用途が考えられる。

今までの紙のポスターの流用とか、販促ビデオの流用をしているようでは、インパクトのあるメディアにはなりえず、現場の活気や、まさに今を伝えるような工夫ができればよいなと考える。

2019.6.21

サイネージに販促効果はあるのか?

デジタルサイネージを扱っている立場からは『効果はない』とはいえないが、サイネージに情報を表示すれば必ず効果があるという単純なものではない。サイネージの役割は昔のAIDMAでいえば、通りすがりの10~20秒目にするだけでは『A』が中心で、よくても『AI』どまり、だからあとの『DMA』にうまくつながったかどうかで効果がある無しの判断ができる。それには最初から既存の販促メディアや販促グッズと連携を考えたデジタルサイネージの計画を作っておかなければならないことを意味する。サイネージを見た人が、それ以前、またそれ以後に見聞きするものと重ねあわせて、何らかの行動に結びつくように考えているだろうか? そういう意識をしていても、なかなか計画を作って検証するところまでもっていくのは大変だ。

 

東京ではこの間にサイネージや販促の展示会がいろいろあったが、まだ両者に有機的な連携はあまり見られない。以前に学校や職場で必要な告知を掲示板や回覧板だけでなく、メールでしても、Webやモバイルに載せても、なかなか徹底せず、どのメディアも省略できないで何重もの情報伝達をしていることを書いた。
販促もただ露出回数を増やすだけでは事業者の負担になるだけなので、複数メディアをうまく使い分けることで、相乗効果を生むことを狙いたい。しかし現実には複数メディアを扱う手間が増えることをクライアント(現場の方々)は嫌がるだろう。それも引き受けるということで、更新や運用もサービスにすることが求められているし、サイネージネットワークでもそれを積極的にウリにしていきたい。

 

一般には複数メディアの制作順序というのがあって、どのように素材をリレーしていくかがだいたい決まっている。昔でいえば印刷用DTPデータからWebの素材にまわすとか、出版物の校正済みデータを電子書籍の方にまわすなどであるが、今は必ずしも紙メディアが最初に作られるわけではなくなっている。効率を考えると、例えばたいていの紙の漫画は電子書籍と同時に作られてしまう。
販促においても既存コンテンツの再加工をして使いまわすという『派生』のリレーのようなことがされている。これが手間なのだが、複数メディアの制作を一括で任されているならば、素材管理のレベルで一元的に整理できるから都合がよい。究極的には複数販促メディアにまたがる更新や運用の管理システムができればよいのだが、それを作るのは大変なので、現実的にはWeb・モバイルを起点に素材『派生』のリレーが始まるように、デジタルサイネージのワークフローもするのがよいだろう。

 

いいかえると、Web・モバイルで販促をすでに行っているところが、デジタルサイネージの活用に踏み切るのが、サイネージの販促効果を上げるもっとも近道であろう。例えば食品を扱っているとして、紙のチラシに対してWeb・モバイルでは目玉商品に関するレシピ情報にリンクを貼ることができるし、サイネージの方は調理法をショート動画で見せられる。DIYなら利用方法のショート動画かもしれない。こういう連携によってAIDMA的な販促の総合的強化ができればよいのであって、各単一メディアだけを取り上げて効果のうんうんは難しいだろうと思う。つまりすでに行っている販促に対して、さらに売場なりの最終局面でダメ押しするのにデジタルサイネージを使ってみてください、というようなストーリーがあり得るだろう。