サイネージの年間計画化

ホームページ経由で見積もり依頼をいただく場合というのは、依頼先の事情としていつまでに何をしなければならないという逼迫したものがあって、どんな素材があって、どんな尺で、など外見上の仕様に合わせて提出する場合が多い。その値段が相場の範囲なら、具体的に営業がお会いして打ち合わせをすることになる。ある意味では、依頼先からすると、とんでもない見積もりが出ないことを確認するために、一般的な仕様でいくらになりそうか聞いているのだろうと思う。

今日では、『動画制作 3万円から・・』のような広告は山ほどあり、またそういう仕事をしているところからの売り込みもよくある。しかし実際に新規に動画を作るとなると、何度も打ち合わせのやりとりが起こって、むしろ制作作業時間よりもそちらの方が長くなるもので、単純に何万円でどの程度ができるとは言い難い。おそらく『3万円から』のような場合はすでにテンプレートがあって、ネームや写真を差し替えるとか、トリミングやマージやフォーマット変換程度の編集なのかなと考えてしまう。

 

ちょうど昔からあったチラシの図案集のようなものが、パソコンの場合にPOP制作になり、それが画面用に電子POP化した世界として、10年前くらいにデジタルサイネージの黎明期があったように思う。デジタルサイネージを導入すると何百という販促デザイン素材がついてくるというのもあった。しかしそういうのは紙のポスターや印刷物に戻っていったものもある。つまり『3万円』でも『2万円』でもデザインを安くしていきたければ、やりようがあるものの、本当に顧客が求めているのは、ただ安くすることではないはずだ。

デジタルサイネージの営業が依頼先にお会いすれば、依頼先のビジネスがどういうものであるのかが分かってくる。必要なものがスライドショーに毛が生えただけのようなものなら『3万円』もかからないだろう。撮影からやりなおした方がよい場合もある。いずれにせよどんな目的で使うのかが見えてくれば、価格的に適正な提案というのは可能になるが、突然のホームページからの依頼では客先のビジネスがみえないので、単純見積り以上の提案は行いにくい。

例えば、今必要なものはスポットで制作するとしても、それと似たものが年に何回かあるとか、来年もほぼ同様なものが必要になるのならば、かなりテンプレート化・規格化した設計にしておいて、後から文字や写真の差し替えを簡単にできるように作った方がよい。今スポット制作費用ではそのような段取りはできないとしても、需要が見込めるならば無理してでも最初に作ってしまうことはある。当然価格はスポットのものであっても、リピートがあったら割が合うようにはできる。

 

印刷物発注の場合は、長年どこかの印刷会社と付き合っていて、過去の制作物が印刷会社には保管してあって、毎年それを更新するようなやり方が多いが、デジタルコンテンツの場合はそのような習慣はあまりない。こういう習慣があると、自然にPDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)の管理サイクルを回すことになって、徐々に改善していくマネージ型になりやすいと思う。過去10年のデジタルサイネージが息切れしていったのは、PDCAを回すようなやり方にできなかったからだろうと反省している。

小売業では各業種ごとに販促カレンダーをお持ちであるので、それらと連動して、販促の一環としてデジタルサイネージの計画もするようになっていれば、限られた年間予算枠をもっとも生かしたコンテンツ制作ができるだろう。費用の掛かるクリエイティブな部分はその都度制作するのではなく年間単位で使いまわして、年内の各イベントはいくつかのテンプレートに分類して各回の制作費をおさえ、さらにタイムセールなどは現場で写真を撮って載せることで出費をなくし、しかも週単位で新鮮な情報が提供できるように、トータルな提案がさせてもらえればお互いにハッピーなのだが。

 

 

 

 

サイネージの立ち位置

サイネージネットワークは、印刷物制作の前工程として文字や画像の処理をしていた業者が集まってスタートしてもので、今でも印刷するための情報加工を多く行っているが、印刷と同時にデジタルメディアをも作りたいという要望は2000年以降強くなってきた。その典型は電子書籍で、漫画本の印刷と同時にeBookも作成されている。しかし意外に広告宣伝印刷物はデジタルへの転用が進んでいない。ポスターを作るならデジタルサイネージのデータも同時に求められるのではないかと思ったが、まだそこまで行っていない。

一方印刷物の市場は縮小を続け、最近は折込チラシがかなり減っているように思えるが、統計的には昨年に比べて5%くらいのダウンである。チラシは10年で3割以上減ってしまっている。これは新聞をとらない世帯が増えたことにもよるが、だからといって代替のメディアがそれほど活躍しているようにも思えない。有名なのはスーパーなどのチラシを電子配信しているシュフーであり、ネット上のサービスもいろいろ増やしている。しかしチラシという情報がぎっちり詰め込まれたメディアをパソコンの画面で見るとか、さらに小さいスマホで見るのは無理強いの感があり、もっと使いやすい何かを開発せざるを得なくなる。

現在のところ宅配してくれるネットスーパーというのがモバイルとの親和性のよいサービスなので、シュフーのような電子チラシもゴールをネットスーパーに結びつけるようなことをしている。しかし本来ならば電子チラシからも店舗への誘導をしたかったはずである。

ドンキホーテなどはネット上のWebチラシでクーポンによる値引き広告を打っている。クーポンを使うにはスマホで登録をしてもらって、客は店頭にあるクーポンの発券機を使って自分でクーポンを印刷し、モノと一緒にレジに持っていくことで割引になるような使い方である。この場合は来客増の効果は期待できるし、クーポン発券機のまわりにデジタルサイネージも設置されている。クーポン対象品はあくまで目玉商品であって、それほど点数が多くはないことも、スムースに仕組みが回ることに貢献していると思う。

 

そのほか2000年ころからチラシとネットと組み合わせたいろんな販促が試みられ、サイネージでも目玉商品やタイムセールの案内をしてきたが、なかなか効果があって定着したものは多くはないだろう。その理由はやはり過去からの印刷物による販促を土台にしていたために、デジタルサイネージといえども、紙の2番煎じから抜け出しにくかったからではないか。今ではむしろモバイルマーケティングを土台にして、店舗と連動する方向で考えた方がよいだろう。

昨年シュフーはCookpadと相互の広告や店舗の電子popとの連携をしたモデルを出していたが、これを進めていくと次第に紙のチラシから離れていくだろう。なぜならチラシに載っているアイテムのうちCookpadに関したものしか扱えないからだ。きっと食材以外とかホームセンターとかも何らかの方法でモバイルマーケティング化することになるだろうが、それは新しいモデルを編み出す力がいるだろう。

統計に内訳が現れるマスメディア広告やネット広告は広告全体の半分に過ぎず、チラシやPOPやポスターやデジタルサイネージは実態がわかりにくい。いいかえると広告として独立しているのではなく、クライアントのビジネスのやり方に即していろんな姿をとるものである。ビジネスのやり方が変わったら連動して広告や販促のやり方も変えていかなければならない。そのために大手の広告会社が手を出しにくい領域にもなっているが、クライアントの現場と密着してビジネス仕しようとする会社にはやりがいのある分野だろう。

 

 

サイネージとマーケティングの連動

これは難しいテーマで、そうしたいが、ほとんどの場合できていないのが現状であろう。デジタルサイネージを売る側も提案される側も雰囲気的によさそうだ、という域を出ないで話し合っている場合がある。デジタルサイネージに何を期待してよいのか、わからないところに提案しても、なかなか話がかみ合わない。

デジタルサイネージを始めてみませんか、とおすすめして、すぐ反応のあるところは、マーケティングについて何かしら考えておられる場合が多い。つまりマーケティングのあれやこれやの中で、サイネージの出番を予感している方だともいえる。

 

サイネージの導入に関してどこから話を始めたらよいのか。サイネージでこんなことができると提案しても、導入する側に新たなことをする準備が整っていないことが多いことを以前に書いた。導入する側に使う条件が整っているといえるのは、サイネージとかデジタル写真・ビデオに関するスキルの問題ではなく、今ぜひこういうことをしたい、という切迫した課題がある場合だろう。ここ10数年で発達したPOSや需要予測のシステムは、IT側が小売り側の課題にうまく対応できた例だ。

前回の『サイネージに何が起ころうとしているか?』のマネージ型というのは、目標設定を先に具体的に行って、それに到達するためにいろいろな工夫と管理をすること、その管理から得られたデータでやり方を最適化していくようなビジネスの仕方を指している。

 

例えば、今週中にある商品の在庫をゼロにしたい、新規顧客を1割増やしたい、午前の客足を1割増やしたい、とかというのが具体的な目標設定になる。そのために従来の販促に加えてサイネージも使わざるを得ない提案ができれば導入に結びつきやすい。こういう具体的利用局面をいくつか話し合って、それらを総合して月間なり年間でのサイネージの貢献度を試算すると、予算枠を用意してもらえ易くなると思うが、どうだろうか。

サイネージでの表現に於いても、最初はその店の強いところから、目玉となる釣り商品を作って徹底的にアピールする方が、今まで売ったこともないものをアピールするよりも成功率が高いだろう。つまり高評価されている自信商品を、絶対お得と思われる価格で出して人を振り向かせるような、ただでさえ集客効果が期待できるものをサイネージでさらに拡大させれば、サイネージの効用はわかりやすい。そもそも集客できない商品をサイネージに乗せても、売れた・売れないの分析はできない。

マーケティングをしているところは常勝の鉄板ネタがわかっていて、販促のシナリオが作れる。そのシナリオがあるならば『○○個限定』『完売御礼』などデジタルサイネージに何を仕込んでおけばよいのかも見いだせる。そういったシナリオを毎週、毎月ごとに作って、例えば何曜日の何時ごろにはタイムセールとかをやっている。

また毎月いつごろはイベントの日としているところもある。抽選会とか、ワゴンセールとか、何か普段と違うことをやってるなという印象を持ってもらえれば、サイネージやメディアでの予告広告によって期待を喚起することができるだろう。このイベントそのものにそれほど予算や手間はかけられないだろうから、それらの相談も含めてPOPからモバイル販促、サイネージまでも面倒見てくれるような外部のサポートが求められているように思える。

 

サイネージに何が起ころうとしているか?

デジタルサイネージという分野は昔から多様で、商品棚の電子POPから、ビル壁面を使ったLEDビジョンまで、大小さまざまだった。これらを以前は大型商業施設や駅など露出の多いところで広告メディアとして使われているものと、企業・病院・学校・チェーン店などのインハウスの情報システムと、店頭の電子看板のようなスタンドアロン利用の3パターンに分けて考えることが多かった。広告メディアのコンテンツは広告代理店が扱うのに対して、インハウスのコンテンツはシステム任せだったりパワーポイントで利用者が自作するものだった。

サイネージネットワークではこういったコンテンツ制作に困っている層をサポートしていこうと考えていたのだが、コンテンツ以外の要素がサイネージ導入の障壁になることも多かった。以前にも書いたハードウェアの初期投資が大きくなることから、いったいデジタルサイネージの効果はどういうものかという議論に入り込みがちだった。しかしサイネージの効果測定をするというのは最終目的ではなく、ビジネスの効率化にどう寄与する使い方をするのかが問題である。その上でサイネージがふさわしく使われているかどうかを評価することになる。

 

これからのデジタルサイネージを考える上では、大きさや形態、設置場所の分類とは別の見方も必要かなと考えている。サイネージネットワークとしてはサイネージの使われ方ごとに、制作したコンテンツをどう活用してもらえるのか、というところに原点があるので、使われ方の変化を注視している。

最も目立つサイネージは今でも大型商業施設やまた最近ではスタジアムのような収容人数の多いイベント会場などであろう。ここにはいつも最新式のハードウェアが導入される。今ではサイネージはインテリアの一部分でもあり、内装とともに設計される。サイネージが置かれた施設に関連するSNSコンテンツが表示される場合もある。ARでゲーム感覚を味わうものもある。AIを使って映像から居合わせた人々の属性を把握するものもある。タッチパネルに代えて音声認識で多国語の応対をするものもある。要するに最新技術を駆使して、顧客満足度やマーケティングの向上をさせようとするもので、数年先の機器リプレースの際には同じものにはならない。こういうどんどん進化するものは先端技術型と呼んでもいいだろう。

 

一方で店舗の看板スタンドのようなサイネージは、お店のメニューが何年たっても変わらないのと同様に、あまり変化はないかもしれない。店舗側はあまりシステムもコンテンツもかかわらないので、放置型と呼んでおこう。

しかしハードはメディアプレーヤー内臓の電子POPならSDカードを、パソコンやSTB内臓のものならUSBメモリを差し替えているものが、次第にネットワークにつながった利用形態になろうとしている。店舗の側にはネットワークやシステムの費用を負担するつもりはないだろうから、これからは広告モデルにして、店舗の営業案内以外に関連商材の広告が流れるようなサイネージが増えていくだろう。そのためのインフラというのが最大の問題ではあるが、居酒屋だったらアルコールの広告は許可するといった風に、できれば相乗効果が期待できて、少なくともバッティングしないようにコントールできるようにして、広告で廉価にサイネージが使えるようになる可能性がある。

 

中間の企業・病院・学校・チェーン店などで、訪れた方のみを対象にするところは、それぞれ具体的な目的に合わせた使い方が求められて、ザクッと広告モデルとかが主にはならないと思う。企業なら情報伝達・教育、チェーン店ではキッズコーナーのような特化した使い方が広まりつつあるように、目的志向のコンテンツ制作になる。販促の場合でもどの期間に何をいくつ売るとか、売れ残りゼロにするとか、ビジネスと深くリンクしてTPOに叶ったコンテンツが発信できる仕組みを考えることになる。どちらかというとコンテンツマーケティングとかオウンドメディアに近いもので、組織側の取り組みに相当の熱心さが必要で、しかもちゃんとマネージメントしていかなければ成果はないので、マネージ型と呼ぼう。

マーケティングのマネージメントをちゃんとしなさいという提案をサイネージ利用の側から行うのは難しいかもしれないが、情報発信のスケジューリングや配信管理が小まめにできるネット/クラウド型のサイネージなら、ビジネスとリンクした使い方には向いているはずだし、一度軌道に乗ると次々に新たな課題も出てきそうだ。

 

他方、放置型は裾野市場が大きいようにみえても、コンテンツは広告主体のままで、店舗側の利用の仕方には進展はないかもしれない。インフラに関してはGoogleの広告ビジネスが入り込んでくる可能性もある。つまりネットにつながったサイネージなら広告収入があって廉価に使えるということで普及につながることも考えられる。

サイネージネットワーク もうすぐ2年目を終えます

この1年間つまり2年目に経験してきたことを振り返って見た。

a. 大型案件の見積もりに参加できるが落札は難しい。
b. 店舗は意外に決断が遅い。
c. 学校は年度単位で進行が遅いが、着実に進展している。
d. 自治体は関係構築が先。関連した仕事とセットになる。

大型案件については、提案はうまくいっても、その後の状況変化があり、再提案するにも情報が少なくツメの難しさがあった。
ある意味ではデジタルサイネージの方法論は多様化しているともいえ、何とどう比較されているのかわかりにくくなりつつある。しかし入札の慣例としてハードもソフトもコンテンツも全部セットでというのはキツい。我々のようなコンテンツ制作の立場ではハード・システムは仕入れて提供するので、メーカー直の納入にはかなわない。もっとハード・システムのベンダーと密接な関係を作らなければならないのだろう。

店舗でもデジタルサイネージの認知度は高くなっているが、いろいろな意味で即サイネージをビジネスに使うには、何かと準備不足である場合が多い。素材となる写真やデザインや動画があまり用意されていない。担当者が不在か忙しすぎて手が回らないので、提案に賛同してもらっても動きにくい。マーケティングの経験も少なく、他メディアとの連携もなく、サイネージ対して希望だけがあるのみという状態では、なかなか一歩が踏み出しにくい。まさに電子看板の域を出ていない。ビジネスの原点に立ち返って何をしたいのかを煮詰めてもらうと、こちらからの提案もやり易いのだが。あるいは魅力的なパッケージがあれば取り組みやすいかもしれない。

学校のようなコミュニケーション需要の高いところは、掲示物も印刷配布もWebもと何かと忙しくなるし、メディアが増えれば煩雑になる。しかしこれで十分という情報伝達手段は無く、むしろ何をしても見てもらえていないというフラストレーションをかかえておられる。デジタルサイネージの利用も考えてもらえるのだが、またメディアが増えてしまったということにならないように、むしろ他メディアと連携を強めて、トータルとしてコミュニケーションが向上したといってもらえるような提案をしなければならないだろう。

地方自治体もコミュニケーション需要が高く、また地元のビジネスと結びついたいろいろな展開をしている。少ない人数で多様なイベントやサービスをするために、地元業者の手を多く借りていて、ボランティアされている方も多くいる。そんな中に何かを売り込みに行っても相手にされない。逆に地域活性化のお手伝いという姿勢で、経費的な負担もかけないような提案をすると道が開けるようだ。こういう状態ではサイネージ部分の売り上げは微々たるものかもしれないが、関係構築ができると関連した仕事につながってくる。

 

あと、広告モデルのデジタルサイネージが一つのトレンドである。元々サイネージといえば大型商業施設・駅・車中などの新築やリフォームの際に、設備の一環としてサイネージを導入してイメージアップを図るものがみられたが、これらのコンテンツの多くはそれまでTVコマーシャルやポスターでおなじみの広告だった。広告主は一般視聴者を対象にしたものだったが、今は病院や学校などそれぞれの専門性に特化したコンテンツを用意して、それに広告も載せるような方向にある。この場合は広告媒体を置かせてもらっているので、設置は無料あるいは設置代を払ってサイネージ一式を病院や学校に持ち込んでいる。こういう広告代理店は設置場所のための新たなコンテンツなどは提供していないようなので、純粋にコンテンツ制作だけのビジネスがあるかもしれない。これは次年度の課題になるだろう。

この項、続く。

オウンドメディアとして素顔を見せる

ちょっと考えればわかることだが、デジタルサイネージを置いただけで何らかの効果があるわけがない。まだチラシやDMなら、1000に一つでも反応がでるかもしれないのだが、デジタルサイネージはお店ならエクステリア・インテリアの一部にしか過ぎない。だから店舗設計なり販促キャンペーンなりの考えに基づいて、その中の一部の役割を果たすものとしてサイネージはあるといえる。例えば最新のサイネージが置かれていても、店がボロボロだとか、品ぞろえがイケてない、接客の態度が悪いなどなら、効果は出るとは考えられない。

これとは逆に、外の通行人からは分からない良さが店の中にあるのなら、それを表現する方法としてサイネージは使える可能性がある。いいかえると、どんな点で自慢したいことがあるのだろうか、というのを煮詰めてデジタルサイネージのコンテンツを考えればよい。よくこだわりのラーメン屋が客のいない時間帯に手間暇をかけて豚骨スープをつくっているようなテレビの紹介番組があるが、そういったコンテンツを自分でつくることは可能だろう。別にテレビの真似をするのがよいのではなく、今すぐできることから始めて、徐々に良いコンテンツに改善していくつもりなら、あまり費用をかけないでもサイネージのコンテンツはできる。

 

ビデオを撮るのが苦手ならば、イメージ写真の組み合わせでもよい。商品ならば、購入後の使い方とか、料理なら素材から調理の様子から盛り付けるまでの間の何カットかの写真があればスライドショーのようなものはできる。それにちょっと気の利いたコピーを工夫してかぶせければよい。その過程では家族や出入業者や制作会社に相談するなり意見を聞くなりする必要はある。そのような簡単な画像・映像の表現はYouTubeで検索すれば、たいていどんなジャンルでも見つけることはできる。要するに現在人々がYouTubeで見ているような手づくりコンテンツのようなもので、自分たちしか出来ないようなものを目指すのが良い。店主の想いが伝わるようにするには、まず店内の様子を伝え、店主の顔が良く見えるようにすることを心がけるべきだろう。

よく店の前の路面に看板スタンドがあって、店名・ロゴなどのほかに、写真やカラーコピーが貼り付けてあるが、デジタルサイネージはその延長でアピールする点を増やしていける。看板スタンドの面積は限りがあって小さな写真しか貼れないとしても、サイネージなら時間軸に並べていくので、多彩な表現ができる。大企業なら接客のイメージを向上させるために、きれいなモデルさんをつかって、お客さんに微笑んでいるような映像をとるだろうが、そのようなものが必要なわけではない。接客に自信があるなら実際の店員さんが素顔で働いている様子を映せば、それでも過去に店に入ったことがあるひとが、また店のことを思い出してもらうには十分だろう。他のメディアに比べて見てもらえる人が限られているデジタルサイネージではあるが、逆手にとってリピート客を増やす策に使えるのではないかと思う。

また、コンテンツを作り慣れたならば、タイムセール・特売などのアピールにはデジタルサイネージは向いている。この場合、実際の在庫の変動に合わせて、サイネージの方も値段の上下調整とか販売打切りができるようにしておく。

例えば『完売!ありがとうございました』というような画像もあらかじめ用意しておいて、臨場感を出すことができるだろう。こういう経験を経て販促キャンペーンを考える際にデジタルサイネージの出番が作られていくことになるはずだ。

 

 

どのディスプレイがきれい?

サイネージネットワークでは43型デジタルサイネージとスタンド+STB+通信がすぐに使える状態になったセット『ミセール』を月額17,300円(税別)でレンタルしていて、期間は2年を想定している。しかし過去の経験から実際に2年で使えなくなる液晶ディスプレイは殆ど無いと思うので、廃棄するのでなければまた2年くらいは使い続けられるはずである。どこまで使えるのかは、個体差や使用条件によって変わるだろうが、劣化するとすると液晶のコントラスト低下とか、LEDの輝度低下が考えられる。だからディスプレイの第二の人生は、例えば従業員向けに通路とか休憩室とか、以前よりも薄暗いところで過ごしてもらうのがいいのではないか。最初のデジタルサイネージはお客様の前に出る役を担っていても、何年かするとサイネージの用途も広がって、社内の情報共有にも使われるようになっているかもしれない。

リースやレンタルで2年間経つと減価償却はされているのでタダでもよさそうだが、業者としては検査とか保守作業もあるので、中古価格1~2万円で放出することもある。だから社内のテスト用などにこういう安いディスプレイを使ったらどうかという話もある。しかし画質の劣化以上に古いディスプレイはインタフェースの規格が異なってしまっていて、今市販のものとは同等には扱えない場合もある。

 

以前に『あると便利な小物』で、ディスプレイのインタフェースである VGA、DVI、HDMI、DisplayPort の違いと変換について簡単に紹介した。これは一種の技術の進化を反映したもので、後で登場したものほど高機能化しているのだから、新しいパソコンやSTBに古いディスプレイがフィットするかどうかという問題がある。

デジタルサイネージは1920×1080のフルHDが基準のようなものなので、何年前でも同じように思うが、新しいものはアナログVGA接続ではないし、144Hzとか高いリフレッシュレートにも対応している。パソコンから送り出す1920×1080の映像信号が同じでも、アナログVGAはケーブルが長いとか質が悪いと画像が劣化する可能性がある。アナログVGAとは形状がD-subで15pinのVGA端子が使われ、おそらくどの古いディスプレイにも接続できるのだが、逆に新しいパソコンやSTBにはついていない場合もある。


デジタルインタフェースになったものがDVI-DとかDVI-Iで、これを基に作られたHDMIとか、将来を見越して開発されたDisplayPortとはデジタル信号の互換性があり、相互に変換するアダプターが売られていることを以前も書いた。

 

ではデジタルのインタフェースでどれがきれいか、ということを聞かれたことがあるが、デジタルならどれでもディスプレイに届く映像信号は同じなので、違いはないはずだ。しいて言えばリフレッシュレートが高い方が動きのある映像を滑らかに表現できるので、そこに差があるかもしれない。ちなみにゲーマー様達はフルHDで144Hzのものを使っておられるそうだが、静止画に近いデジタルサイネージでは何かいいことがあるかどうかはわからない。
要するに信号の伝送という点では画質の問題はない時代になっている。将来は4K8K対応を考えて規格も進化するのだろうが、現時点では1台のサイネージを使っている場合に、HDMIとDisplayPortのどっちがどう違うというほどの差もない。ただ以前書いたマルチディスプレイのしやすさとか、そういった機器との相性の問題はあるので、マルチの場合は実現方法とパネル選びがセットで行われている。

 

実はデジタル信号の伝送については、ディスプレイに限らず、LANとかUSBも含めていろんな規格があるのだが、この間にだいたい似たような原理・方法に収束しつつある。USB3.1が使えるUSBType-Cというのが最近使われ始めているが、これはHDMIやDisplayPortとして使うモード切替の機能があって、これまであったいろいろなデジタル信号伝送を包含してしまう可能性をもっている。それはLANもUSBもHDMIもDisplayPortも線の中を剥き出してみれば、同等の構造をしているからだ。

USBType-Cでは、それらの上を行くThunderboltという規格に対応しようとしているので、全部を賄えることになる。これは通信の配線と通信プロトコルを分離したようなもので、USBType-Cによって配線の共通化をしようという目論見だろう。もしこれが何年かのうちに普及すれば、ディスプレイのインタフェース問題もなくなってしまうかもしれない。

 

動画のフォーマットは変換がたいへん

前回の『サイネージを身近なものとして使いこなす』では、Windowsフォトストーリーで作ったWMVビデオファイルが、mp4などに変換するのに苦労するということを書いた。一般に動画ファイルを授受する場合には、movだ、flvだ、mpgだ、ということで話しがわかったような気がするのだが、それが動画編集の鉄壁であるAdobePremiereでも開かないことがある。うちあわせをする相手が動画フォーマットのことを良くわからずに話している時は多いので、受け取った側で詳しい人がツールでフォーマットの解析をして、使える・使えないの判断をしなければならない。

それほど動画フォーマットが分かりにくいのは、ファイルが何重かの構造になっているからで、mp4だ、flvだ、mpgだ、wmvだというのは動画を運ぶための入れ物を指すに過ぎず、その中に音声と映像の情報が入っていて、これは下の表のように入れ物が異なっても同じ規格であるとか、逆に入れ物が同じでも異なる規格である場合がある。

この音声と映像の記録・再生のものをコーデックといい、ファイルを受け取った方に該当するコーデックが存在しないと再生ができない。Windowsフォトストーリーのwmvの場合は、音声の規格がWindowsMediaPlayerでしか再生できない独自なもののために、『開けない』とか『変換できない』ことになる。それでWindows系のソフトでこれを扱えるアプリを探して、独自の音声の部分を入れ替えれば変換できるようになる。

 
拡張子 よみ 音声 映像
MP4 .mp4/.m4a エムピーフォー AAC/MP3/Vorbis H.264/MPEG-4/Xvid
MOV .mov/.qt エムオーブイ AAC/MP3/LPCM H.264/MPEG-4/MJEG
MPEG .mpeg .mpg .vob エムペグ AAC/MP3/LPCM MPEG-2/MPEG-4/MPEG-1
AVI .avi エーブイアイ AAC/MP3/LPCM H.264/MPEG-4/Xvid
AFS .asf .wmv エーエスエフ MP3/AAC/FLAC H.264/MPEG-4/Xvid
WMV .wmv .asf ダブリューエムブイ WMA/MP3/AAC WMV9
WEBM .webm ウェブエム Vorbis/Opus VP8/VP9
FLV .flv エフエルブイ MP3/AAC/ADPCM H.263/H.264/VP6
MKV .mkv エムケーブイ MP3/Vorvis/LPCM H.264/MPEG-4/Xvid

ちなみに、Windows環境で短い動画加工の場合はaviファイルを使うことが多い。Macならmovが主流である。両者はフリーの加工ソフトも対応している。これらは低い圧縮率で使われる。逆に最終商品に使われるものは高圧縮率のmp4、wmv、flvなどになる。高圧縮のファイルから取り出した映像はどうしても品質が落ちるので、できれば編集途中のavi、movから加工することが望ましい。

 

他のフォーマットでは、MPEGはDVDに使われ、FLVはストリーミングに使われることが多かったが、今ではストリーミングもmp4が多くなった。

コーデックではデジタル放送にも使われているH264が主流になっていて、いろんなフォーマットでも使われている。名前も別名がいろいろあり、MPEG-4/AVCというのもコレである。

これから広まるかもしれないのが、Windows10から対応しているMKVで、従来のフォーマットに対するいくつかの改善がされている。またGoogleのChromeブラウザ向けのものがWEBMといい、パソコンやモバイル機器にインストールしてあるコーデックとはちがって、プラットフォームの如何を問わずに再生できるので、ネット対応としては伸びていくかもしれない。

 

現在ビデオ編集のプログラムでは読めないフォーマットでも、ネット上にはフォーマット変換のフリーソフトもいっぱいあるので、いろいろやってみることで解決することも多い。しかしある程度知識が無いとうまくいかないかもしれないし、だいたい数秒のクリップが必要なのに何十分のビデオを変換する手間もバカバカしい気がすることがある。そこで奥の手としては、一度画面に再生させておいて、HDMIの信号から必要部分だけをデジタルキャプチャーして使うという方法である。よくPSや任天堂のゲームをやっている様子をビデオ化しているのがあるが、アレである。これについては改めて別にとりあげたい。

サイネージを身近なものとして使いこなす

大型商業施設にあるデジタルサイネージはテレビのコマーシャルのような動画を流していて、おそらく他の映像広告の流用ではないかと思う。こういったきれいなモデルさんやプロのカメラマンに依頼しなければできない映像は、店舗の日常活動の範囲でできるものではない。しかし環境映像ぽいものや、静止画・写真をゆっくり動かしている動画は、お店の予算の範囲で出来る可能性があるし、もし写真に興味のある店長やスタッフが居れば、たまには自分でやってみることもできる。

WindowsXPの時代に、絵本の読み聞かせをパソコンのプロジェクタで行うために、絵本をスキャンして、各ページの中をスクロール(パン)・ズームして、スライドショーのように展開するものを、Windows Photo Story というMicrosoftのフリーソフトで作ったことがある。
これは大変便利なソフトで、覚えやすいし、仕上がりもなかなかのものだったが、WindowsがXPから7,8へと変わっていく中で使えなくなっていた。ところがWindows10になって、このPhoto Story 3というのがまた使えるようになっているという。どこかのだれかがYouTubeにアップしているものを参考としてあげておく。

 

名前は「Microsoft Windows フォト ストーリー 3」になっているようで、Windowsユーザーであればここでダウンロードできる。写真をスライドショーにしてテロップ(キャプション)やBGM(ナレーション)をいれる一通りの機能は揃っているが、写真のレタッチはPhotoshopなどの専用ソフトの方がやりやすいだろう。むしろ完成された写真をベースに、スライドショーの展開を作りだすのが得意なソフトだ。

Windows用のフリーソフトということで、Windows Media Player で再現することを前提に、最後はWMVというビデオフォーマットで動画ファイル保存をする。そのために他のところで使うにはmp4などにフォーマット変換をしなければならないが、ここで作られるWMVは特殊なもので、一般にはmp4には変換できない。そのために一旦ウィンドウズムービーメーカーなどでBGMの入れ直しをしたWMVにしてからmp4への変換をすることになる。要するにこういったWindows世界に相当首を突っ込まないと使いまわしのできる動画にならない点がフォト ストーリーの普及を妨げていると考えられる。

 

また当然ながらAdobePremiereのような凝ったことはできず、単にJPEG、ビットマップ、GIFなどの静止画しか扱えないが、その点が簡便さをもたらす大きなメリットでもある。基本機能はスライドショーであり、個々の写真に文字を好きなフォントで入れられて、ナレーションや効果音を録音することもできる。

「パン」や「ズーム」は[アニメーションのカスタマイズ]という機能でPhotoshop のアニメーションと同じように最初と最後の位置を指定して設定する。

トランジションに相当するのは[切り替え効果]で、写真と写真の切り替えの「フェード」や「スライド」「ページカール」などの約50種類のトランジションが用意されている。

保存は他の動画編集ソフトと同じ様に、[プロジェクトの保存]と、Windows Media ビデオ ファイル(WMV) の書き出しとがある。ビデオファイルでは修正はできないが、プロジェクトファイルがあることで、後々写真を文字の変更が容易になる。

全体として素人が作ったようなフリーウェアよりはずっと安定感のあるソフトに仕上がっている。

 

文字や図形をアニメーション化するにはPowerPointが使われているが、こちらはPowerPoint2013頃からは標準でmp4出力、オプションでwmv出力になっている。

ただしPowerPointのアニメーションとは、文字や図形要素に何らかの動きを付加するだけのものなので、Adobe Flashやその後続のAdobe Animateと比べられるようなものではない。だから頑張って使いこなそうなどと思わずに、単に文字やグラフを動かすくらいに考えておいた方がいいだろう。

これら、単なる静止画からちょっと動かす程度のツールはいろいろあるので、現場でビジネスに合わせて内容更新の対応が必要な部分は、社内の誰かが出来るようになっていれば、サイネージはうんと身近な表現ツールになる。

 

 

 

サイネージが身近にやってくる!

以前予告していたサイネージネットワーク社のデジタルサイネージのレンタルパックが正式に販売された。

国産で3年保証の43型デジタルサイネージとスタンド+STB+通信がすぐに使える状態になったセット『ミセール』のことで、月額17,300円(税別)のレンタルになる。

キャッチフレーズに、「プロがすすめる…」とあるのは、長年日本でデジタルサイネージを手掛けてきた経験が活かされている組合わせであることを意味しているが、どういう配慮がされているのかは、なかなか表面からはわからないかもしれない。

 

国産液晶パネル

従来、40型といった普及クラスは韓国のディスプレイが安かったが、ここでは国産が使われている。しかも一般には無料修理などの保証は1年であるが、このパネルは3年保証で、レンタル期間が2年であることを考えると十分すぎるくらいだ。一般に故障は代替機を送ってもらってセンドバックということになるが、仕事の忙しい時にそんな事故はごめんだから、なにしろ事故らないパネルが求められる。

「ミセール」はクラウド型といわれるもので、コンテンツの切り替えはネット上の操作になるが、USBのメディアプレーヤーも内蔵されているので、社員研修などでみんなで動画やスライドショーのプレゼンを見ながら研修する様なときにも使える。

当然HDMIをつなぎかえれば(あるいは切替機を入れて)テレビやDVDからの映像信号も流すことが出来る。逆にHDMIの分配器を使えば、同じコンテンツを近くの別のディスプレイに出すこともできる。要するに一体化した電子POP的なサイネージに比べれば、比較的に自由な使い方ができるのも特徴だろう。

 

完全おまかせモード

液晶パネルと別にSTB(パソコン)がついていて、そこに配信関係のアプリも入っている。クラウド型なのでネットで使うためのIDやパスワードを設定しなければならないが、それは納入時にセットされるので、以降は単に電源スイッチを入れるだけスタートできる。

コンテンツは担当の販売会社が面倒を見ることになり、PDFとかJPGとか動画ファイルを送れば、プレイリストとスケジューリングの設定をしてもらえる。要するにメールなどで依頼するだけで運用ができ、お店の人がパソコンや通信関連を触らなければならないところはどこにもない。

電源のオンもコンセントのところにタイマーをつければ自動化できるが、開店・閉店時にスタンドの位置を変えなければならないところなら、人がオンオフしてから移動させた方がいいだろう。

 

3年保証のSTB

近年、USBメモリの大型のようなスティックPCというものがあって、これを液晶パネルのHDMI端子にさせば、無線LANにつないで配信システムが使えるという簡易クラウド型も出てきた。簡易なCPUなので普通のパソコン型CPUよりも安いのだが、若干制約があったり、設置条件が悪くて長時間熱がこもってしまうと壊れやすい。

このスティックPCにはいろいろなタイプがあり、Android、Unbuktu(Linux)、Windows などのOSが異なると、当然ながら使えるアプリは異なってくるし、使いやすいWindows のスティックPCではそれなりに値段も上がってしまう。それと同じ価格帯でミセールは長年安定して使われているWindowsのSTBをセットにしていて、これも3年保証だから安心していられる。

ちなみにSTBなりスティックPCの中にメディアプレーヤーが入っていて、動画の再生などをする。そのCPU(GPU)の能力によって表示のぎこちなさが出る場合があって、当然スマホ並みのCPUであるスティックPCよりもintelCPUのSTBの方が安定している。

 

独立したネットワーク

上の構成図には出ていないが、ミセールのSTBにはモバイルルーターがついていて、LANの線を敷いてくるとか、WiFiの設定をしなくても外部のクラウドと通信ができるようになっている。もっとも電波の届かない設置場所なら、そこで使えるインターネットにつなぎこまなければならないが、今日では圏外はほとんどなくなった。このモバイルルータの価格も冒頭のセット価格に入っている。

デジタルサイネージを社内のWiFi・LANにつながず、独立したネッワークにしてほしいという要求は高い。社内ネットワークから無制限に外部につなげられる会社は無いだろうし、業務上で必要なものはシステム管理者がルーターの設定などをしなければならないので、基幹業務と関係ないデジタルサイネージに社内ネットワークを使わせてくれとは言い難い時代になっている。

特に近年は監視カメラや事務所の複合機がハッキングされるようなことも起こっていて、そんな悪戯の対象にされるようなものは設置したくないという傾向にある。デジタルサイネージもインターネットにタダ乗りというわけには行かないのだろう。

もし社内ネットワーク経由のデジタルサイネージなら、社内での了解を取り付けるのが大変なのが、ミセールは別系列の通信なので、サイネージを必要としている部署の判断と予算ですぐにでも始められることが大きな特徴となっている。

 

さて、コンテンツの用意は?

次回は、社内のどんなコンテンツを、どのようにサイネージに使っていくのかを採りあげたい。

 

売る工夫がやりやすいデジタルサイネージ

印刷物の場合は、こう企画・デザイン・制作をするとか、販促ビデオならこう企画・デザイン・制作をする、というような定番の作り方は、まだデジタルサイネージにはない。デジタルサイネージの専門制作業者というのは稀であり、ポスターを画面に表示している場合もあれば、販促ビデオを流している場合もある。それでいいのだろうかという疑問がいつもある。

頑張ってオリジナルな表現を考えてお客さんに提示しても、だいたいはピンと来ないものとなってしまう。そんなもの今まで見たことが無いのに、良し悪しを判断できるわけがない。大手広告代理店で高名なクリエータがーが提示したならば、大先生の言うことだから任せてみようと思うお客さんも居るだろうが、名前を聞いたことが無い会社が提案するものにはなかなかOKは出ない。そこで結局は無難な線として、デジタルサイネージの導入はポスターや販促ビデオのようなものから始めざるをえなくなる。

しかしそこに留まっていては未来はない。数年前から取り組まれたデジタルサイネージで撤去されてしまった例は、特段サイネージ化しなくても、従来の掲示物で済んでしまうと考えられるからだ。机上のシミュレーションとしては印刷物や他の販促物の費用と、サイネージの費用を比較して、経済メリットを訴求することがあるが、サイネージにした効果を数値化できないと、従来のアナログな販促の手ごたえの方が安心できるという逆戻りになってしまう。

 

つまり最初はポスターや販促ビデオでデジタルサイネージを始めるとしても、その先のステップに進めるように考えておくことも大事だ。先のステップというと、どこかでお試しをして評価をしてもらって、台数を増やすとか他店舗への面的展開のことを思い浮かべるだろうが、それは結果であって、まずどういう評価があるのかを予測できるだろうか?

目標としたいのは、商機にタイミングよく表示出来たとか、取り扱いの簡便さ、という評価だろう。商品が売れる売れないはデジタルサイネージのせいではなく、売る工夫がやりやすいことがデジタルサイネージの評価にならなければならないということだ。つまり、どのタイミングでどんなアピールをするのか、例えばクロスセルとかアップセルのシナリオができているなら、そのシナリオの検証にデジタルサイネージが使えるわけだからだ。

現場でただでさえ手が足りないなかで、クロスセルとかアップセルの仕込みをデジタルサイネージにしなければならないことが大きなハードルになるので、コンテンツの差し替えやスケジューリングといった面の取り扱いの簡便さがデジタルサイネージに求められることになる。この2点の評価が得られればデジタルサイネージは有用であるといえる。

 

そしてその先には、いわゆる差別化というかオリジナリティのあるコンテンツや使い方に進むことを考えておいた方が良い。これは紙の販促物でも共通で、身の丈を越えたきれいな印刷物を作ってしまうと現実から遊離してしまって、来た人にガッカシ感を味わせてしまうことと似ていて、デザインを凝ることよりは、店の特徴をあらわすとか経営姿勢をあらわせるように考えていく。言い方を変えるとオウンドメディアとして発達させられるのがデジタルサイネージのよいところなのだ。

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.26に日間賀島という離島の飲食店のオーナーが自分でスマホアプリを使って手作り感が満載のコンテンツでデジタルサイネージをしていることのレポートがあった。この内容は都会の商業施設にはふさわしくないだろうが、slow life, slow food にはぴったりくる。

別にSlow business に限らずに、身の丈にあった表現ができることは、売る工夫を試行錯誤する中で、何か思いついたその時にアクションをとれる手段であることに意味がある。デジタルサイネージは、店内装飾の延長のように現場で売る工夫をするためのメディアとして定着する事になるのではないだろうか。

 

デジタルサイネージは相談相手が少ない

デジタルサイネージを売っているところには、最新技術を使ったソリューションパッケージを強みとしているところがいろいろあるが、サイネージネットワークはどんな技術が使われても必要になる表現力の方でお手伝いすることをウリにしている。
とはいっても技術が関係ないわけでもなく、お客様の要望をお聞きして、このような技術や機材の組み合わせが合理的ですよ、という提案もしているので、ハード・ソフトおよびシステム・コンテンツのトータル提供とかトータルプロデュースというスタンスでビジネスをしている。

 

しかし『トータルに見積りします』では成約し難い面も多い。特に初期導入のお客さんは、予算面でハードの比重が高いので、見積もり合わせの場合にハードがちょっとでも高めになってしまうと、システムやコンテンツの比較が霞んでしまいがちだからだ。『内容はいいけど、金額が…』という場合のほとんどは、ハードで負けている。

本当は望ましいのは、ハード・システム・コンテンツについて、それぞれお客様が一番良いと思うものを選んで組合わせできることだが、まだそこまでデジタルサイネージは成熟していない。こういうことはアンバンドリングと呼ばれ、ケータイ電話の頃はキャリア・装置・サービスが一体であったのが、スマホ時代になって、どの機種でどのキュリアでも同じサービスが受けられることが増えたような進展がデジタルサイネージにも求められる。

サイネージネットワークも『トータルに見積りします』といった場合に、バンドリングという『込み込み』の弊害に巻き込まれやすくなってしまう。このことはお客さんの方からみると、見積もり合わせにおいて部分比較ができにくいとか、もっというとそれぞれの提案者の本当に得意としているところが何なのかわかりにくくし、ベストの組み合わせを考え難くしているともいえる。

 

そのために推測ではあるが、デジタルサイネージの購入は実はすでに決まっているにもかかわらず、見積もりを依頼してこられるとことがある。おそらく他の会社の意見を聞きたいとか、お客さんがやろうとしていることが間違っていないことを確認したいために、別業者の見積もりを求めているのである。これは別のお医者さんにセカンドオピニオンを求めるのと似ているが、業者側の正式な業務でもない情報目的の見積もりだ。

こちらもうすうす気づきながら将来のことを考えて対応しているし、できることならハードやシステムは何でもいいからコンテンツ制作とか運用管理を任せてもらいたいなと考えるわけだが、デジタルサイネージに特化した話になってしまうと、そういういろいろな業者を取りまとめるところがないので、お客様はトータルパッケージとしていずれかの業者を選ばざるを得ない。

サイネージだけではなく、販促全般をどこかがとりまとめているならば、メディアによって制作会社を変えるわけにもいかず、ハード・システム・コンテンツのアンバンドリングをせざるをえなくなるはずだが、まだ販促の中にデジタルサイネージがきちんと位置付けられるところまでもいっていない。

サイネージネットワークへのお問合せは、ムリムリ見積依頼の形をとらなくても、どんなやり方が考えられるのか、という相談の形で、見積もり以前の構想段階からぜひ持ちかけてください。

 

屋外サイネージ設置の課題

デジタルサイネージを建物の外の軒下に設置する場合でも、雨に降り込まれる場合があるので、防水規格IP54の機器を選ぶべきことを、「軒下のサイネージでも防水を!」に書いたが、実際はほとんど雨がかからない商店街のアーケード内や、非常に深い軒の下のようなところもある。また商品を屋外に並べているので、天候を見張っていて、雨が降りそうになったら店内にいろいろなものを引き上げるようなお店もあり、サイネージもキャスタ付のスタンドに設置して、店の内外に移動させやすくしている。

明るさの問題が無ければ屋内用でもいいと判断することもあるだろう。この場合は人が管理しているので、屋外に出しっぱなしとは違う。言い方を替えると無管理で出しっぱなしにするデジタルサイネージは、屋外用の筐体を使わなければならない。さらにいたずらされやすいものでは、頑丈な筐体が必要でサイネージの液晶パネルよりもコストがかかってしまう。でもそれは看板全般に言えることでもある。

また屋外とはいっても私道の場合は管理者の許諾が必要だろうし、公道ならば警察の許可が必要なものは、サイネージに限らず、看板・のぼり、イーゼルなど見慣れたものが多くある。デジタルサイネージの場合はコンテンツを作る側が、設置される場所をよく意識していないこともありがちなので、その辺のルールを確認しておきたい。
まずそもそも屋外広告ができない、広告禁止区域や広告禁止物件がある。それは原則的には公共のもので、例えば

・道路や鉄道などの橋、トンネル、高架構造物、道路の分離帯、道路の石垣、壁
・街路樹、路傍樹、保存樹
・信号機、道路標識、道路の防護柵、カーブミラー、それらの柱、電話柱及び街灯柱
・消火栓、火災報知機、望楼、警鐘台、郵便ポスト、電話ボックス、路上変電塔

などであり、それらと勝手にサイネージの転倒防止のためにひもで結ぶとかも具合悪いだろう。

しかし具体的には、その持ち主である企業や自治体や鉄道会社などによって、利用の許可が認められて、年間幾らかの使用料を払って使わせてもらっている例は多くある。道路に置く場合も自治体のサイトを見ると、『道路占用許可について』というような説明があって、これは建築用足場・仮囲い・突出看板等がやむを得ず道路にはみ出る場合には、道路占用許可および道路使用許可をとることが必要なのと、その種類に応じて占用料が必要なことが書かれている。

 

東京都の場合は、屋外広告物に関するまとめた説明が以下のサイトにある。

http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/kenchiku/koukoku/index.html

道路法に基づく道路占用の許可は、その道路が国道か都道か区市町村道かによって申請窓口が異るわけで、また道路交通法に基づく道路使用許可を所轄の警察署に申請することが必要となる。さらにその場所が地区計画等の都市計画区域内にあたる場合は、別途区の都市計画担当課に届け出が必要になる。最近は必要書類はホームページからダウンロードできるものの、書類作成にはある程度手間がかかり、こういったことが広告専業者のノウハウになっているのだろうなということが想像できる。

ちなみに東京都に関しては、屋外広告物の種類として「デジタルサイネージ」はまだ無いようで、単に「広告板」とか「立て看板等」扱いとすると、例えば以下のようになっている。
・広告板 申請手数料3220円 許可期間2年以内
・立て看板 申請金額450円 許可期間1月
つまりこの許可期間ごとに申請をしなければならないようだ。
こういった手続きを何も知らないで歩道に広告看板を出していると、ある時にチェックにひっかかるとか、誰かにチクられて、撤去しなければならなくなることがある。

 

またサイネージのディスプレイを裸で屋外に置いた場合に事故に遭ったという話はよく耳にする。盗難は警察沙汰になるが、倒されるとか、棒とか傘で叩かれたり突かれたり、石などを投げつけられた場合は、誰がいつどう壊したのか状況がなかなか把握しにくく、犯罪扱いにはし難いだろう。その場合はリースやレンタルでサイネージを安く使っていると、使用している契約者が弁償しなければならなくなる。

こういうリスクが殆ど感じられない場所もあるだろうが、結論としては、店員・社員が見回ってる営業時間内なら、まだ管理は行き届くので、始業終業の時間帯だけデジタルサーネージを建屋の外に出すのが無難だろう。

軒下のサイネージでも防水を!

サイネージネットワークは設置や設備まわりのお仕事は専門業者のキラカスタムサポート株式会社(URL http://kirasapo.jp/)にお願いして、一緒に打ち合わせに行ってもらったり、お互いに相談して提案をすることを行っている。設置に関しては店の外にデジタルサイネージを置きたいというところが多いので、屋外設置の事についていろいろとお話を伺った。
室内ではパソコンに大型モニターをつないだだけという使い方でサイネージを使っておられるところもある。この写真ではモニターの後ろにパソコン本体とキーボードとマウスとテーブルタップが押し込まれていて、大丈夫かと思ってしまった。当然屋外はこれではダメだが、軒下などの半屋外、またドア横の通路などでも、器具が外れたり線がひっかかったりすると具合悪いだろう。電源線もせめて配線カバー(モール)はつけたいものだ。

さて、本題の屋外設置に関しては、経費的にも大変そうだ。液晶パネルよりも、風雨に耐えられる筐体の方がおおげさだからだ。しかしそれも幾分スマートになってきて、下の写真はDNPの以前の屋外用サイネージと、今都バスなどに使われ始めているものの比較で、新しい方は奥行きが15cmくらいになっている。

防水・防塵の保護等級

筐体が大げさになるのは、国際電気標準会議にて標準化されているエンクロージャによる保護等級(Degrees
of protection provided by enclosures(IP Code)/IEC 60529)にあてはまるものを使わなければならないからだ。これは一般に「IP68」とか表示されるもので、その意味は防塵等級6級、防水等級8級になる。日本では「JIS保護等級」でもあり、JIS C 0920として、防水や防塵の程度について家電品のカタログや説明書などで使われている。

等級の意味は、少し古い表現の方がたとえがわかりやすいので引用すると、次のようになる。

防塵等級(6段階)
0級:特に保護がされていない
1級:直径50mm以上の固形物が中に入らない(握りこぶし程度を想定)
2級:直径12.5mm以上の固形物が中に入らない(指程度を想定)
3級:直径2.5mm以上のワイヤーや固形物が中に入らない
4級:直径1mm以上のワイヤーや固形物が中に入らない
5級:有害な影響が発生するほどの粉塵が中に入らない(防塵形)
6級:粉塵が中に入らない(耐塵形)

防水等級(8段階)
0級:特に保護がされていない
1級:鉛直から落ちてくる水滴による有害な影響がない(防滴I形)
2級:鉛直から15度の範囲で落ちてくる水滴による有害な影響がない(防滴II形)
3級:鉛直から60度の範囲で落ちてくる水滴による有害な影響がない(防雨形)
4級:あらゆる方向からの飛まつによる有害な影響がない(防まつ形)
5級:あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない(防噴流形)
6級:あらゆる方向からの強い噴流水による有害な影響がない(耐水形)
7級:一時的に一定水圧の条件に水没しても内部に浸水することがない(防浸形)
8級:継続的に水没しても内部に浸水することがない(水中形)

デジタルサイネージでいえば、IP54とかIP55があり、IPに続く「5」は防塵5等で、有害な粉塵が中に入らないことをあらわし、次の「4」とか「5」が防水等級で、「飛沫の影響がない」とか「かけ流しの影響がない」となる。サイネージではIP56はないそうで、前述のDNPのものでもIP55相当としている。

温度管理

このように防塵防水で密閉された筐体では、内部の機器からの発熱やら、直射日光による温度上昇があり、内部温度が数十度以上になるとCPUやLSIが気絶することがある。また冬に外部がマイナス十数度になると液晶が映らない。そこでこういったケース用の小さなエアコンをつけて内部の温度を一定に保つっている。そのために月に1回はエアコンのフィルターを掃除するようなメンテナンスが必要になる。ちょうど自動販売機のメンテと同じでホコリをはたくくらいのことを屋外設置ではしなければならない。

直接日光があたらない半屋外の設置でも、室内利用に比べると明るさが足りなく感じるのは、バックライト光源のLEDが小さいとか数がすくない屋内型を使った場合だ。デスクトップパソコンやノートPCの液晶ディスプレイでは、画面の上下とか左右の辺にあたるところに光源がある。40型のモニターでも室内用の400-600カンデラのものは同様のエッジ型LEDであるが、屋外用の2000カンデラクラスでは直下型という画面の全面にLEDが数百個並んだものが使われて、明るさを出している。これ以上の明るさを求められるとRGBカラーLEDがびっしり敷き詰められた「LEDビジョン」にする必要がある。

屋外用はこのように光源の電力が大きいものになり機器の発熱も多くなるし、生産台数も少ないので割高感が出てしまう。とはいっても10-20万円プラスくらいだろうから、防水やエアコンに比べると大したコストアップ要因ではない。むしろ大量に出ている屋内型にはマルチメディアプレーヤーが内蔵されていたのに、高輝度モデルにはそれがなかったとか、機能面やオプション面での違いがあり、必ずしも室内用の延長で屋外に増設できるわけではないことも注意だ。

 

冒頭の、お店の外にサイネージを出したい要望については、IP55でなくてもIP54の筐体を使った方が良いことが結論だ。

実際には未だこれらの防塵防水のことは意識されずに、屋内用をキャスタ付のスタンドに設置して、開店時に前に出して閉店時にしまうところもあるが、通路に出すには私道・歩道の区別や行動の場合は警察の許可も必要になり、別の課題がある。これについては改めて書きたい。

 

 

お蔵入りしないサイネージ - レンタルのメリット

展示会など日数の限られたイベントでの一時使用では、プロジェクターや液晶大型パネルをレンタルして使うことは行われている。でも何か月も使うとなるとレンタルするよりも買った方が得だろう。しかし購入となると社内の手続きは面倒になる。一般的にデジタル化した事務機やパソコンのような陳腐化の激しいものは、資産使いには向いていない点がいろいろあり、2~5年程度のリースが使われる場合が多い。ただリースは支払いを均しているだけで、借金して買っているようなものだから、解約というのはなく、やめるなら残金を払わなければならない。まあ実際には安くて性能が良い新製品が出てくることもあって、リース会社では何らかの方法で乗り換えの面倒を見てくれることはある。

デジタルサイネージの場合は、購入・リース・レンタルをどのように使い分けたらよいのだろうか? リース・レンタルがよいのは、購入よりも若干高くついても、最初に設備の総額を用意しなくても始められる点にある。経営的にはリースは税制が変わって資産扱いになってしまったので、経費で落とせるレンタルが増える傾向にある。細かいことをいえば、レンタルは他人のものを借りているだけなので、契約後は返却することで廃棄物処理の手間や費用がかからないなどのメリットもある。

 

ただこういう細かい比較よりは重要なのは、レンタルの方が縛られにくい点であろう。まだデジタルサイネージをどう使えばよいか試行錯誤をしなければならない時には、リースは使いにくい。むしろサイネージを使う体制が整って、マーケティングや販促の一翼を担うものとして何十店舗に展開する時にはリースなのかもしれない。近頃は身近なチェーン店でも一挙に各店舗に展開する話を耳にすることがあるが、すでに年間予算が確保される段階になっていることがわかる。

 

しかし全体としてみればサイネージの試行錯誤をこれから始めるところの方が多いだろう。当然そのような段階では年間予算も計上されておらず、導入したい部門の中で費用のやり繰りをしなければならない。また何をもってサイネージが成功したといえるかもわかっておらず、体験しながら目標を定め、成功事例を作って横展開していくことになる。

この場合はレンタル契約にすれば、販促費用の一部として毎月支出し、内容も現場主導で試行錯誤ながらブラシアップしていき、半年、1年、といった期間を経て振り返えることで、サイネージの全社的な展開の企画が作れるようになるだろう。

その後のまとまった導入がレンタルになるかリースになるかはわからないが、例えば売場の模様替えや引っ越しが予定されているならばレンタルの方がよいかもしれない。つまりレンタルは流動的な環境やフレキシブルな展開に、よりフィットする方策だといえる。レンタルでも中途で解約すると、一旦清算するためのお金が発生するが、それは解約までの期間のレンタルに計算し直しているだけで、借りても居ない分のお金を払うわけではないからリースよりは得になるはずだ。

 

今の販促メディアの現場との距離関係を考えると、昔から完成されているメディアとして、印刷物のポスター・パンフ、販促ビデオ、Web・モバイル、POP という順に現場に主導性が高まっている。印刷やビデオというメディアは現場からは遠かったものが、現場にデジタルサイネージという表現の場が与えられると、それらのコンテンツを現場の感覚で再活用できるようになり、現場の持ち駒が増えたことになる。

いくらデジタルサイネージがレンタルで容易に導入できるようになっても現場に使う気が起こらなければポスター・看板と変わらないのだが、手描きのPOP制作を通じて現場のモチベーションが高まるようなところならば、印刷やビデオ・Webの素材をデジタルサイネージに展開しながら、より現場力を高めることできるのではないだろうか。

 

過去においてはサイネージの導入のための組織的な対応としては年単位の準備が必要で、そんな中で現場の動機づけやチャレンジも置き去りにされてきたきらいがある。それとは逆に携帯電話と同じ費用項目で経費処理できるレンタルなら、現場のヤル気に応じて導入して、工夫させて活用力を高めながら、台数も増やしていける。なにしろ毎月の販促を考える段階で真っ先に活用できるのがデジタルサイネージであるのだから。

サイネージのアウトソーシング

最近の東京の繁華街の商業施設では、店舗の2~3割はサイネージの導入をしているように見える。

建物の外壁で軒下の半屋外のところにはマルチスクリーンの大きなディスプレイがあり、自動ドアの入ったところには施設案内がある。これらは管理会社が運用しているのだろうが、もうひとつ面白味には欠けるのか、見ている人は殆ど居ない。これら施設案内やフロア案内は単に看板から移行しただけで、それとテナント共通の季節テーマを交互に出しているのが多い。この場合は母の日である。

各店舗でも冒頭の2~3割はデジタルサイネージを使っているようだがコンテンツはほぼ印刷パンフレットと変わりはしない。上記写真のメガネ屋さんはカッコイイ動画を流していたが、そんなことの出来る店は少ない。らコンテンツで勝負する時代は、やはりこれからやってくると思える。今はまだそのための助走の時代なのだろう。

 

今日ではデジタルサイネージはネット通販でも買える。むしろそれが導入に一番安い方法かもしれない。だからといってネットでサイネージがものすごく売れているようにも見えない。すでに街ではいくらでも目につくデジタルサイネージではあるが、購入は容易なのに導入できないというのは何が問題なのだろうか?

一つは前述のようにCFやパンフなどが流用できない場合に、サイネージ独自のコンテンツを用意することがネックであることと、店舗のように少人数でまわしているところではサイネージのことを考える担当者を割り当てることがそもそも難しくてコンテンツの用意どころではないことが理由だろう。

 

お店の何をいつアピールするかというのは、店長や本部や本社の意向とか話し合いだろうから、それが決まった段階でサイネージの仕込みを依頼する社内スタッフが居ないとなると、企業の販促活動と併走するような外注というかアウトソーシングとして、コンテンツの計画や制作をすることが望まれているのではないかと考えてみた。

紙のチラシであれば、売るものさえ決めればあとは全て外注でレイアウトから印刷・折込まで手配できてしまう。いわゆるワンストップ化が出来上がっているのだから、サイネージもゆくゆくは似たようなことになるのではないか?

それがいつだかわからないが、その準備として、店長とアルバイト店員しか居ないようなところでも、外部に丸投げで安価なデジタルサイネージが発信できるようなサービス提供を、サイネージネットワークも始めようとしている。

それは、『液晶パネル+スタンド+STB』のパッケージをベースに、あらかじめ当初コンテンツの打ち合わせをしておけば、

1 設置場所と電気コンセントだけ用意してもらう。
2 毎日は電源を入れるだけで運用ができる。
3 USBやパソコンの操作も必要ない。
4 通信の配線や設定も必要ない。
5 毎月の更新も事前打合せに従ってネット経由で完了。
6 管理もネット経由で行い担当者が不要。

というサービスを、毎月のレンタルで始められるものが、サイネージネトワークから登場します。

最初の1台

もしデジタルサイネージがタダで導入できるとしたら、どう使いますか? というようなことを、街のお店に唐突に投げかけてみたら、どういう反応が得られるだろう? おそらく役に立つような使い方が思いつかないから、今は遠慮するところが多いだろう。その意味ではデジタルサイネージはLED文字の電光看板やコルトンフィルムの電飾看板よりもとっつき難いものではないだろうか?

逆に、そんな使い方の判らないものを売っているメーカーがいろいろ存在することの方が不思議だ。売る方はうまく使っている会社の事例を挙げて説明していると思うが、うまく使えている要因はなかなか伝わらないのではないか。だいたい商売がうまくいくところは、バランスよくいろんな能力を持っていて、またサイネージを導入するとなると、そこで新たに必要となる能力も調達することができる会社である。これはWebやモバイルの活用、店舗レイアウトの最適化、メニューの刷新など、何に於いてでもうまく人材再配分ができる管理能力の高い会社といえる。

 

とっかかりとしてのサイネージ

 

そういう完成した会社とは対極的に、現状のいろいろな課題を何とかしたいと思っているところが多くある。しかしそこには販促の担当できる人が居ないか、忙しすぎて今以上の事ができないでいる。デジタルサイネージ以外にも販促メディアはさまざまあるものの、費用面以外にも準備の手間暇で着手するのが難しいとしたら、デジタルサイネージの特徴は、簡単に情報発信ができること、簡単に変更・更新ができることがウリにできるはずだ。

冒頭のタダでのサイネージの設置は難しいとしても、もし準備の手間暇がかからない目途がつくなら、とりあえず安いサイネージを導入して、試行錯誤しながら他の販促メディアよりも経済的に販促力を高めていくことができるだろう。

手間暇をかけないとはいっても最低限の準備はしなければならない。それは商材に関するものと、ビジネスのタイミングに関するものである。つまりそれらの用意があれば、まずサイネージから初めて、他の販促メディアにも展開していきやすいだろう。

 

例えば弊社サイネージネットワークに導入の相談を持ちかけていただくなら、商材に関しては今使われているカタログ・チラシなど主要な印刷物、ロゴマーク・商品写真などのなるべく品質の高いもの、またタイミングに関しては、年間の販売計画やキャンペーン・イベントのサイクル、などがベースの資料としていただけるとスムースに進む。またこれからどんなことをしたいかを伺えれば、毎月のテーマを予測することができる。これは販促カレンダーを作るようなカンジである。

販促カレンダーとは、例えば朝日オリコミのサイトには月別のものがあり、前年データとして、天候、出来事、行事が記され、新聞折込広告の会社なので日別の1世帯平均枚数実績までも載っている。また、今年予定されている行事、記念日があり、販売の重点テーマとして、例えば6月の父の日ではどのような商品に動きがあるのかも載っていて、自分の会社の販促プランの参考にできるようになっている。 販促カレンダー6月分

こういったものは業界別などさまざまなものが作られているので、自分に合ったものを選んでいただいて、制作側と共有していくと話し合いも行いやすい。

 

まずは漕ぎ出すことから

 

サイネージネットワークのような制作会社では、商材の素材と販促テーマさえいただければ、その先のレイアウト・デザイン・ビジュアル化に進めるので、デジタルサイネージの最初の1台に漕ぎ出すことができます。はじめのうちはコンテンツ制作に費用のかからない、既存の写真やカタログイメージを使いまわして、従来の販促をサイネージでも再現するところから始めたとしても、そんなサイネージを身近なところに置いて日々接することによって、『もっと、こうしたい!』という新たな方向性がきっと出てきて、販促意欲が高まってくると思います。その想いを毎月少しづつ表現していけば、その積み重ねがオリジナルな販促活動になっていくでしょう。

サイネージネットワークでは、以上のような準備に負担がかからず廉価なデジタルサイネージのスターターキットのサービスを近いうちに始めようと計画しています。

 

見えない用途

デジタルサイネージを設置する目的はお客さまに何らかメッセージを伝えるためであることが多いが、その他に社内の情報共有など外部の人からは見えない用途もかなりある。情報共有に関しては組織的にグループウェアが使われていたり、メールで一斉同報されるとか、ネットでのアプリというものなど、いろいろな手段が使われているにもかかわらず、あまり見られていないという現実もあり、これで十分というものは無い。それで昔ながらの掲示板というのも捨てられないでいる。

社内掲示板を撤廃するために投資してデジタルサイネージを導入してもらえるとは考えにくいのだが、複数個所に同じ内容を掲示したい場合には電子ディスプレイは有用だろう。ただコンテンツに手間暇をかけることはできないので、情報共有アプリの画面を大きくして映し出すとか、プリントのPDFを表示させるようなことになろう。

掲示板に載せる情報は種々雑多なので、だれがどうコントロールするかは難しい問題だ。PCとかカメラ(含む監視カメラ)が4種程度なら、HDMI切替機のようなものでローテーションさせることはできる。

業務上欠くべからざる事柄のためには、朝礼とか、各部署での朝のミーティングなども行われている。これをサイネージのボードの前に集まって行って、やはりPCとかWebとかの情報を見ながらフェーストゥフェースで情報共有するためにも便利である。この場合もミーティングで使う情報を事前にどこにどうセッティングしておくかが課題になる。

デジタルサイネージによる情報共有は店舗などで、個人の机はなくてパソコンも見られない職場環境では、非常に有益な方法になる。開店前や閉店後のミーティングとして、あるいはアルバイトやパートに仕事を覚えてもらうためのマニュアルとして使われることがある。器具の使い方や、閉店後にどのように掃除し片づけるのかといった事柄をあらかじめビデオ化しておいて、毎回繰り返して見ることが出来るようにすれば、言葉の通じにくいアルバイト君にも伝わりやすいだろう。

サイネージを多目的に使う場合に、すべてコンテンツ制作が必要になると、頭を抱えることが多くなって、実際には取り組めなくなる公算が大きい。しかしコンテンツ制作しなくても、前述のようにPCやWebなどの異なるソースの切り替えをするだけなら、千~何千円のHDMIセレクターで済んでしまうかもしれない。

この考え方を応用すれば、午前午後の休憩時間のリフレッシュとしてテレビ体操を放映するとかもできる。学校で教室の利用予定の表示のついでに学内ニュースを伝えるのなども、システム化されたスケジュール管理をPCから表示する出力とは全く別系列にニュースを作ってよいので、取り組みがやり易い。

さらに商業的なサイネージに於いても、通行人が近くに居ない時にはロゴなどあまり変化のない看板的な表示をしておいて、人が近付いてきたら切替えてもっと動きのあるものを表示させて、「おやっ!」と思わせるようなこともできる。これは焦電センサーとか人感センサーというもので可能になるのだが、こういった小物の使い方はまた別の機会に紹介したい。

アナログビデオとデジタルビデオ

デジタル放送やデジタルビデオに囲まれた現代人はデジタル映像に眼が慣れてしまっていて、アナログ時代のような画質差を云々することはめっきり減ってしまった。しかし何かの理由で古いアナログビデオを見ると違和感を覚えてしまうし、それらと今日のデジタルビデオソースを一緒に扱わなければならなくなると困惑するものだ。それはアナログビデオよりもデジタルビデオの方が画質がよいと思われる場合が多いからだが、実は必ずしもデジタルの方がきれいなわけではない。
テレビ放送の国際規格を決める委員会をNTSCといい、アナログのコンポジット信号としてもおなじみの名前であった。ここで色域とかガンマなど映像の規格も決められていて、昔のブラウン管テレビに走査線が並んでいた画面は【BT.601】といい、今日のパソコンやスマホのRGBであらわすと、0-255の間の16-235までしか使っていない。だからアナログをデジタル化したものは非常に明るいところや非常に暗いところには情報がないままになってしまって、明度が中心に寄った締まりのない映像になってしまう。これをちゃんと補正するとデジタルに見劣りないものになる場合がある。

 

そもそもパソコンで広く用いられている【sRGB】というカラースペースは、アナログなNTSCの色域の72%をカバーするものと定義されていて、アナログのNTSCの方が鮮やかな色情報を持ち得る規格なのである。しかしアナログビデオを新品の磁気テープに保存して再生すると、最初はバッチリきれいでも、アナログ記録では再生を重ねるごとに画質が劣化していく。一方映像をデジタル信号にして保存すると、0か1かの組合わせの情報は変化せずにいつも同じなので、テレビカメラがデジタルなら、そこで得られた色信号は、視聴者の画面表示までずっと変わらないことになる。つまり色に関するカメラの特性と画面の特性が合っていれば、被写体に照明された色を視聴者が見ることが出来る。これがいわゆるデジタルの鮮明さの理由である。
この【sRGB】は【BT.709】というハイビジョンの規格に合せているので、パソコンとデジカメのjpgなどとハイビジョンはほぼ似た世界になっている。これがRGBを0-255の間の値にしているので、アナログビデオはそのままでは使いづらいことになってしまった。

 

印刷の世界ではカラースペースは【AdobeRGB】というのが使われていて、これは【sRGB】よりも緑方向が広く、NTSCに近いもので、デザイナさんや製版印刷関係の方にはおなじみなので、今のグラフィック制作の中心にもなっている。だからAdobeのグラフィックソフトを使っている方は、あまり意識せずにデジタルビデオとかデジタルサイネージの仕事もしているし、両者の差であまり問題になることは実際にはないように思う。
アナログの時代の家電売り場では、テレビの色味は機種やメーカーが異なっていると差が出ていて、どれが綺麗?という売り方/買い方があったのだが、デジタルではどこもだいたい似たものとなったのは、放送や家電では個々のシステムの色合わせの土台となる規格が築かれてきたからだ。かつてはWebでの通販の商品の色は信用できないのが相場だったのが、今ではスマホでアパレルが売れる時代である。これがデジタル化の大きな恩恵で、一度作成したビデオソースがいろんなことに使えるようになった。

 

しかし、このパソコンとデジタルビデオとグラフィックソフトの蜜月ともいえる関係は、今後ずっと続くものかどうかはわからない。それは4k8k時代の色の規格は【BT.2020】という【AdobeRGB】よりも色域が広いものが標準になっていて、「自然界に存在する色はほぼカバーしている」といわれている。4k8kは単にデカいだけでなく、色の世界の革新にもなり得るもののようだ。だが現状ではカメラから編集システムからプロジェクターを含めた再生環境まで完全に【BT.2020】に対応しているわけではなく、既存の機器やシステムも使いつつ4kのデモが行われているので、【BT.2020】の真価はまだ見ることができないのだろう。

参考:放送・シネマ最新規格ITU-R BT.2020
http://cweb.canon.jp/v-display/lineup/dp-v2410/feature-performance.html

参考:4K・8K超高精細度テレビジョン放送の標準化動向 – 日本ITU協会
https://www.ituaj.jp/wp-content/uploads/2016/01/2016_01_10_spot1.pdf

画面が大きいと何がいい?

この10年のデジタルサイネージを振り返っても、32型→40型→55型と大型化する傾向にある。さらにマルチでその3倍4倍も簡単に設置できるようになってきた。映像ソースも4k8kに向かうのだろうが、こちらはコンピュータでCG制作するならよいのだが、カメラから編集までのところはまだ手ごろな価格にはなっていないので、相当予算のつくところでないと導入はできていない。

そもそも画面を大きくするのは何のためだろうか? 迫力? 目立つから? これにはちゃんとした研究開発の積み重ねがあって、むやみに映像のスペックを上げてきたのではないことがわかる。論文としては、「高臨場感を生んだハイビジョン画面効果の研究」(https://dbnst.nii.ac.jp/pro/detail/241)に事の起こりが書かれているが、要約すると次のようになる。
HDTV(High Definition Television)は1960年代に次世代テレビの研究としてNHK放送技術研究所で始まり、1980年になると前述の研究によって、テレビの画面を横方向に大きくして広い視野で映像を見たとき、画面内の映像から受ける心理的な感覚・知覚量が大きくなって表示された映像空間に引っぱられるような効果、即ち臨場感効果が得られることが明らかになった。
これは誘導効果と呼ばれた。当時シネラマという3本のフィルムを横につないで撮影・映写するものがあって、崖っぷちに人が立つ映像を見ると身のすくむ思いがするような臨場感があった。

これを数値的にとらえる実験が当時アナログな方法で繰り返された。画面の左右両端を見込む視野角が20度を超えると次第に映像の空間に主観的な座標が誘導されるようになり、前述のように映像の空間に入ったような感覚、つまり臨場感の効果を心理物理量として捉えた。これをもとにHDTVはこの効果が顕著になる視野角30度を、望ましい観視条件とした。この理屈は今の8kにも引き継がれている。画面の縦横比は映画の縦横比も考慮して9:16 に国際統一された。

画面両端の視野角が30度での視距離は、画面の高さの3.3倍となり、画面高さを75cmとすると、2.5mになる。視力1.0の人の視覚の分解能は1分といわれていて、それを越える縦画素数としてHDTVの縦は1080にされた。横画素数は計算すると1920となる。

4k8kはHDTVの延長上に、さらに視野角の広い映像を提供するもので、それによって誘導効果が高まる、つまり臨場感がマシマシ・モリモリになることを狙っている。だから画面が大きく高解像になっても、遠くから眺めていたのではその効果は発揮できず、映画を前列で観賞するような視聴環境に変えなければならない。

 

これに関連して比較すれば、ビル壁面のLEDビジョンは確かに大画面だが、人は離れて見ているので 視野角は広くならない。つまり臨場感を出すことを狙っているものではない。単に街角で目立つことで目的は達成されるのだろう。

屋内のデジタルサイネージを大型ビジョンにするには設置の困難さを伴うというか、結構邪魔扱いされたりするものだが、裏腹に大画面を近くでみるということで臨場感・没入感をだすようなコンテンツには向いているということになる。その意味で屋外の大型ビジョンとはコンテンツ制作の考え方は異なる面がある。