品質のばらつきを抑える

ひとつのデジタルサイネージをいくつかの店舗で相乗り利用をすることが、駅とかショッピングモールのような複合商業施設ではよく行われている。商店街も同様であるが、特有の課題がある。実際に出来上がったものを見てみると、店舗や入居者によって内容に大きな格差がでてしまう。これは作品としてではなく、そもそも業種や業態などやっていることの違いからくるもので、Webで町の店々を紹介していても同様のことが起こる。

無料のサービスならば表現の格差が起こってもほっておけばよいかもしれないが、月々幾らかをいただくとなると問題だ。商業施設などの場合は管理会社が間に入ってサイネージ広告の取りまとめもし、管理代金にオプションとして費用の徴収をしてくれることもあり、サービス提供側としてはありがたいのだが、ほっておいては順次脱退されていくかもしれない。やはり個々の店舗にとって役立って必要と思われるものに改善していかなければサイネージのサービスも続かない。

つまりコストに見合った最低限の品質レベルを維持できるようなサービスにする必要がある。店舗の側ですでにホームページをもっているとか、カタログ・パンフを制作しているとか、どこかに広告を出稿していて、グラフィック素材や広告のコピーをもっておられるところなら、それらからいくらでもデジタルサイネージの制作は可能だ。しかしワードで作ったペラの営業案内を用意するのがやっとのところもある。

しかしこういうところも、アピールする内容がないわけではなく、メニュー・店内・厨房・食材について取材していけばサイネージのコンテンツは構成できる。もちろん制作費用を払ってもらえるなら、全部お任せで引き受ける制作会社はあるだろうが、問題はそういう費用を勘定していない場合である。つまりこういったサイネージを広く普及させる鍵は、いかにイージーオーダーのコンテンツ制作ワークフローを創り出すかだろうと思う。

Webの場合は、SNSでも簡単制作アプリというのが提供されて、それで動画編集をする若者もいて、もしその店の知り合いにアプリを使える人が居るなら制作を依頼すればよいと思う。それらをサイネージの素材として提供してもらえればよいが、あまり期待できないかもしれない。

それらの代わりになるものを制作側で用意すれば、あとは店舗側で何点かの写真・動画をとってもらって構成することはできる。一番単純なのはjpgやmp4のファイルをどこかのフォルダに入れておけば、順次再生するスライドショウ的なもので、各素材の順番や時間をコントロールするアプリのついているものがある。

こういった感じでもっとテンプレート化を進めて、オープニングから最後までの展開とシーンチェンジ、またテロップの出し方などを、うまい具合にデザインしておいて、中の写真・動画・文字の素材を入れ替えれば、いろんな店舗に適用できるものを開発すると、品質の底上げはかなりできるようになる。

経験の積み重ね

デジタルサイネージはここ15年ほどの歴史しかない比較的新しいメディアであるが、そのコンテンツ制作に携わる方は映像・画像・ドキュメント・情報システムなどなどに経験を持つところが主体である。経験があることは長所でもあり短所でもある。長所としては試行錯誤を重ねて時間や費用の無駄使いをすることが経験によって少なくなっていくことだ。短所は逆に試行錯誤を上手にすることができず、コストを考えるとリスクを下げることが優先になって変化に適合しにくくなることだろう。

 

7payの決済がオンラインの手続きに不備がみられたのも、店舗での客対応は得意としても、ネットでの客対応の経験が少なかったことをあらわしていると思う。今までモルタルのビジネスがECも始めようとした際に初歩的なミスをしがちであるとか、ネットでの使い勝手が向上しないとかの例は数限りなくある。そこにベンチャーのチャンスもあるのだが、経験の少ない新興勢力ができたことができないはずもなく、要するに既存勢力の新事業に対する努力不足と思われることが多い。

 

デジタルサイネージはデバイスとしては新興勢力でも、コンテンツ制作では既存勢力の面がある。つまりベンチャーとして他の既存勢力の領域に喰いついていかねばならない点と、独自ノウハウを活かしていく点がある。以前の記事に書いたがチラシという紙媒体はいろんなノウハウやカラクリがあるので、なかなか廃れない。つまりチラシの代替をサイネージでやろうとしても苦労するであろう点が多い。一方でポスターのようなものは、印刷後に貼りっぱなしで何も管理していないようなことが多く、あまり利用面でのノウハウがあるとはいえない。(コルトン電飾看板電飾フィルムなどは広告として管理されているが

 

放置プレイのポスターと違って、店内のメニューを頻繁に入れ替える場合は、何を、何時、どのようにプッシュする、という経験が培われているので、デジタルサイネージのようにコンテンツの入れ替え自由なメディアが役に立つ。もう10年くらい前からマクドナルドでカウンター上のメニューをデジタルサイネージにするという話がでていたのに、いろいろ紆余曲折があったようで、近年になって実現されている。

写真上はデジタルサイネージ以前のもので、少し曲面になっているが、手で回転させると3面を切り替えられるような仕組みの電飾フィルムである。これは3面以外の内容を貼ろうとすると付け替えをしなければならない。おそらく朝昼晩用などを3面に割り付けていたのだろうと思う。店長さんがこのいくつかの三角回転体を手で回していたのを見たことがある。

 

それらが最近デジタルサイネージに置き換えられたのだが、何をどこに表示するのかという面の使い方は以前とほぼ同じである。つまり3面電飾フィルムの利用経験の延長上でデジタルサイネージを使っているわけで、おそらくサイネージに切り替えて省力効果があるとともに、運用上で売り上げにマイナスのことは起こらなかったのではないかと思う。

 

もし放置プレイのポスターをサイネージに置き換えても、以前のポスターがどんな効用があったのかもわからなければ、サイネージになって何がよかったのかもわからない。つまりサイネージを導入する前には、いくつかのポスターを手で貼り替えながら、どんなコンテンツをどのタイミングで見せるべきかということを整理しておいた方がいいのではないかと思う。これはサイネージで予定しているコンテンツをいくつか、先行して大判のプリントにして用意すればいいことである。しかも2面だったら表裏にしておけば手で簡単に切り替えられる。またわざわざサイネージしないでポスターのままでも構わないものも見つかるかもしれない。

 

 

 

 

 

テーマ曲が必要になったら

デジタルサイネージでは、駅など音が出せない場合も多いが、自社の店頭などでは音がついていたほうが着目率は上がる。とはいってもうるさいだけのBGMになってしまうと逆効果だ。ネットでも不意に変な音楽が大音量で流れ出すと、内容を見るどころかコンテンツを消すアクションにいってしまう経験があるだろう。だからコンテンツのイメージあう、コンテンツを盛り上げるようなBGMをつけることが多い。またシーンの切り替わりのメリハリとか、着目点を際立たせるためにキーワードにはジングルを入れるなどをする。特にどうしたいという意向がないコンテンツでは無料の音の素材をネットでダウンロードして使うこともある。これらは今では多くのサービスがあり、むしろ選ぶのが大変なくらいだ。利用目的によっては料金がかかるとか、パブリックドメインと聞いたのに後からどこかに訴えられたという話も聞いたことがある。曖昧な使い方をしているうちに係争になったら驚くような金額を請求されてしまう場合もある。

企画に力を入れたコンテンツ作りでは、むしろ最初から音と映像はセットで考えないと、時間も費用もかかってしまうし、統一感のあるすぐれたものにはならない。とはいってもオリジナル曲を頼むのでは、どんなものが出来上がるのか心配であるし、費用もかなり掛かることが予想される。社歌などは何十周年の記念行事に合わせて作ることがあるが、そういう時しか予算がとれないからであろうと思っていた。
ところが先日CM音楽制作のプロダクションBISHOP MUSIC (http://www.bishop-music.com/)さんと話していて、意外にオリジナルを安く作れるものであるとわかった。

何年か前にデトロイトの教会のゴスペルのチームが来日した際に、牧師さんがビックカメラのテーマソングが気になって仕方がないと言っていて、実際店舗に行って何かを買っていた。実はあのテーマソングは日本人にとっては「たんたんたぬきの金時計…♪」であるけれども、元歌は19世紀中ごろの讃美歌『Shall We Gather at the River』で、それが牧師さんの脳裏にはあったのであろうと想像した。

ヨドバシカメラのテーマソングはアメリカの『リパブリック讃歌』の替え歌として知られている。要するによく知られているパブリックドメインを替え歌にした方が人々には親しみが湧くものとなることがあるということだ。

 

BISHOP MUSICさんは、オリジナル制作を手掛けると同時に、パブリックドメイン楽曲のアレンジ制作もされていて、作例がホームページにもあがっている。この方法だと、オリジナル曲を頼む際の不安がなく、また数多くのサンプルを聞きながら決めていくことができる。STEMファイルのサンプル音源が用意されているので、それを使う場合にはドラムのステム、ベースラインのステム、ハーモニーのステム、リードのステムといったような要素を分けて利用することができ、これらの部分入れ替えだけでオリジナリティを付加するリミックスという方法で制作すれば、かなり安く早く仕上げることができるという。
替え歌としてオリジナルのボーカルを入れるのも、楽器パートを追加するのも、音楽スタジオを借りることなく、デスクトップ上の操作とネットのやり取りでもできるからである。

フリー素材はネット上にたくさんあるものの、権利処理がしっかりされているのかとか、気に入るものを素人が探すのがたいへんなのが現実で、そういう意味では企画意図を伝えればサンプル候補を絞ってもらえる専門家が一緒に仕事をしてくれないと、クオリティの高い映像制作を効率的に行うことは難しいのだと感じた。

 

融合メディアとしてのサイネージ

かつては放送と通信では世界が異なって別々の法規で運用されていたタテワリであった。歯医者さん向けに衛星放送で番組を流していたことを書いたことがあるが、なんらか放送法の制約を受けたはずである。また電波を使うとなると用途の制約というのもいろいろ起こってくる。一つの電波にさまざまなサービスを載せることは困難だ。しかしインターネットがブロードバンドになったことでこれらメディアに関するタテワリ行政に風穴があいて、特に動画の利用局面はものすごく広がったといえる。
デジタルサイネージでも『番組』『チャンネル』など放送をイメージさせる使い方もあるが、単にインターネットで動画ファイルを送って、リピート再生しているだけである。それでも巷ではYouTuberさんたちはTV放送以上に見られている人たちがいる。動画のビジネスもまだまだ伸びるはずである。

 

しかしまだ放送や通信の法規は残っているので、既存メディアを流用・利用する際には不都合が多くある。よく待合室にはテレビがつけっぱなしにしてある。これをサイネージに置き換えたいことがある。とはいってもサイネージのコンテンツには限りがあるので、テレビも見れるようにしたいなと考えても、サイネージの画面内にTV映像を合成するわけにはいかない。TVの画面の中にPicture In Pictureとかワイプとしてサイネージコンテンツが割って入るのだったらいいのかもしれない(未確認)。台風・集中豪雨そのた自然災害の恐れがあるときには、サイネージにも情報を流したい気はするが、勝手に放送は使うことはできない。

モニターが1台だけなら画面(あるいはHDMIケーブル)を手動で切り替えればよいのだが、面数が多いとサーバー段階で内容を入れ替えなければならない。HTML表示ができるデジタルサイネージなら、ネット上の災害情報を表示させやすいが、必ずしもサイネージを前提に編集されているわけではないの、誰かが内容を見張っていなければならないのは同じだ。
今日のデジタルサイネージの配信サービスを行っているところは、たいてい通信社から提供される天気予報やニュースをオプション(月間何千円か、リコーは基本料に含まれる)で使えるようにしているので、こういったサービスが充実してくれば巷のサイネージもリッチになると思う。

 

また配信サービスも現在のような、『プレイリスト』→『番組表』『スケジュール表』というスタイルではなく、臨時の配信に対応した使い勝手の良いものが求められるようになるだろう。スーパーの内部でイベントをする場合があるが、その実況中継をデジタルサイネージに出すなどの用途が考えられる。

今までの紙のポスターの流用とか、販促ビデオの流用をしているようでは、インパクトのあるメディアにはなりえず、現場の活気や、まさに今を伝えるような工夫ができればよいなと考える。

サイネージに販促効果はあるのか?

デジタルサイネージを扱っている立場からは『効果はない』とはいえないが、サイネージに情報を表示すれば必ず効果があるという単純なものではない。サイネージの役割は昔のAIDMAでいえば、通りすがりの10~20秒目にするだけでは『A』が中心で、よくても『AI』どまり、だからあとの『DMA』にうまくつながったかどうかで効果がある無しの判断ができる。それには最初から既存の販促メディアや販促グッズと連携を考えたデジタルサイネージの計画を作っておかなければならないことを意味する。サイネージを見た人が、それ以前、またそれ以後に見聞きするものと重ねあわせて、何らかの行動に結びつくように考えているだろうか? そういう意識をしていても、なかなか計画を作って検証するところまでもっていくのは大変だ。

 

東京ではこの間にサイネージや販促の展示会がいろいろあったが、まだ両者に有機的な連携はあまり見られない。以前に学校や職場で必要な告知を掲示板や回覧板だけでなく、メールでしても、Webやモバイルに載せても、なかなか徹底せず、どのメディアも省略できないで何重もの情報伝達をしていることを書いた。
販促もただ露出回数を増やすだけでは事業者の負担になるだけなので、複数メディアをうまく使い分けることで、相乗効果を生むことを狙いたい。しかし現実には複数メディアを扱う手間が増えることをクライアント(現場の方々)は嫌がるだろう。それも引き受けるということで、更新や運用もサービスにすることが求められているし、サイネージネットワークでもそれを積極的にウリにしていきたい。

 

一般には複数メディアの制作順序というのがあって、どのように素材をリレーしていくかがだいたい決まっている。昔でいえば印刷用DTPデータからWebの素材にまわすとか、出版物の校正済みデータを電子書籍の方にまわすなどであるが、今は必ずしも紙メディアが最初に作られるわけではなくなっている。効率を考えると、例えばたいていの紙の漫画は電子書籍と同時に作られてしまう。
販促においても既存コンテンツの再加工をして使いまわすという『派生』のリレーのようなことがされている。これが手間なのだが、複数メディアの制作を一括で任されているならば、素材管理のレベルで一元的に整理できるから都合がよい。究極的には複数販促メディアにまたがる更新や運用の管理システムができればよいのだが、それを作るのは大変なので、現実的にはWeb・モバイルを起点に素材『派生』のリレーが始まるように、デジタルサイネージのワークフローもするのがよいだろう。

 

いいかえると、Web・モバイルで販促をすでに行っているところが、デジタルサイネージの活用に踏み切るのが、サイネージの販促効果を上げるもっとも近道であろう。例えば食品を扱っているとして、紙のチラシに対してWeb・モバイルでは目玉商品に関するレシピ情報にリンクを貼ることができるし、サイネージの方は調理法をショート動画で見せられる。DIYなら利用方法のショート動画かもしれない。こういう連携によってAIDMA的な販促の総合的強化ができればよいのであって、各単一メディアだけを取り上げて効果のうんうんは難しいだろうと思う。つまりすでに行っている販促に対して、さらに売場なりの最終局面でダメ押しするのにデジタルサイネージを使ってみてください、というようなストーリーがあり得るだろう。

光と映像のインスタレーション

毎年この季節になると幕張でデジタルサイネージジャパンが開かれ、デバイスの最先端に触れることができる。この展示会でも街中でも、もうサイネージといえば40-50インチの液晶という固定的なイメージは通用しなくなってきている。さらに大型で外光にも強いLEDモジュールのピッチが細かくなってきて、その映像のインパクトの強さは導入意欲を高めることだろう。解像度も価格ももっとも流動的な分野である。(ただし、どうもテレビ系の方々にはLEDの画質はまだ十分には思われていないか、あるいは違和感を持たれているように思える。)

 

展示会では大型の電子ペーパーも出てきて、反射型デバイスとして屋外用途に使えるようになると、何かと便利だと思う。今はまだ白黒の電子ペーパーなので、それ自体でインパクトのある看板にはならないが、そこはLEDモジュールなどと組み合わせて看板を組み立てれば、情報表示用としての電子ペーパーの出番はあると思う。

また近年は曲面とか空中に結像させるとか矩形のディスプレイの枠をはみ出た表示デバイスも増えて生きている。加賀電子の水が流れるような立方体の組み合わせ(写真下 https://p-prom.com/feature/?p=34882 より)は、以前中国のサイトで見たような気がするが、こういうのは情報表示というよりは、インスタレーションに近い用途で使われるだろう。すでにGINZA SIXの滝(チームラボ)のようなデジタルアート的使われ方は人の集まるところでしばしば見かけるようになった。

インスタレーションとは現代美術の一つで、人々が行き来できる空間にオブジェや装置を置いて、その空間をも作品となるように構成しているもので、特にデジタルアートの場合はプロジェクションマッピングのように視界を変化・異化させ、その場を作品として体験させるパフォーマンス型の芸術である。

最初はおもに前衛彫刻が多かったが、それが機械仕掛けになり、また光るとか色が変わるとか、映像を投影するとか多彩な表現手法が加わっていった。ニューヨークのタイムズスクエアはビル壁面がLEDビジョンだらけで、その谷間を人が行き交うようになっており、そこでは15秒ごとにコマーシャルが入れ替わるようなサイネージはなく、一定時間の映像作品が流れていて、インスタレーションの商業化したもののように思えた時代もあった。(今ではあまりにもLEDビジョンは日常になりすぎていて、あまり感慨はわかないのだが)

 

不幸なことにこのところ日本の企業は金回りがよくないのか、インスタレーションのスポンサーになったり、自社のイベントにそういうものを使うことは減った。むしろ伸び盛りの国の方が派手なインスタレーションはよく行われている。今年1月に幕張で行われたイベントMETACITYでは、トルコ・イスタンブールに拠点を置くニューメディア・スタジオ Ouchhh(アウチ)が初来日して、世界各地でこの種の映像パフォーマンスがどのように行われているかの一端をみることができた。

デジタルサイネージにアート性が求められる分野もあるわけだから、紙の宣伝やテレビの焼き直しに終わらずに、その場所でしか成り立たない映像パフォーマンスを企画する心がけも必要だろう。

 

 

 

 

 

 

 

デジタルサイネージの立ち位置

デジタルサイネージが販促にもっと使われるようになるには、既存メディアよりも費用対効果が高いことが求められるが、これは決して単純な比較はできない。印刷物が減っていく中でも、チラシは大変コストがかかる割には生き残っている媒体である。だから印刷代の一部をモバイルマーケティングやサイネージの費用にまわせるのではないだろうかと考えた人も多いが、簡単ではない。それは印刷物には無駄が多いという印象はかなり昔からあったが、近年では印刷物の贅肉はずいぶんそぎ落とされて、チラシの回数が減るとか、用紙サイズが半分になるとか、相当のコスト圧縮がされてきたからである。

またチラシならではの特定地域に対する浸透率の密度の高さという特性があるので、小売店のチラシの費用の一部を流通の会社が露出面積に応じて負担するような『仕組み』が長い間かかって出来上がっていてる場合がある。サイネージでいえば仕入れ元の広告を取りたいというのと似ているが、どれだけの人がその広告を見るか、あるいは他社製品と比較してもらえるか、など広告主が期待する効果をサイネージが示すことはまだできていないだろう。

つまり紙メディアをサイネージにした場合の損失を不安がる広告主に対して、有効な提案がまだできていないことになる。これはサイネージ単体で可能になる話ではなく、チラシもポスターもモバイルマーケティングもWebも全部を適切に販促なり広告に使おうという視点が必要なのだが、それはマーケティングの専門家がいる大手企業でないと難しいのだろう。

冒頭の印刷の贅肉落としの際には、年間の印刷物発注を見直して、コスト削減目標をたてて、その中でメディアの効果を落とさないように、さらに紙面やタイミングの工夫を重ねていくということをしていたのであって、それらを通じてあるものはネット通販に振り分けるなども行われた。販促全般に明るい会社がデジタルサイネージのサービスをしようとするならば、クライアントのチラシ、ポスター、モバイルマーケティング、Webなどを分析すれば、サイネージのポジショニングはできるかもしれない。しかし多くのサイネージ屋さんは未だに機器の販売やレンタルに軸足を置いているがために、マーケッター的人材は不足しているだろう。

 

下の図は株式会社エール(http://a-ir.jp/business/ad/)という看板製作会社のHPにある図だが、デジタルサイネージの役割はマーケティングには限らず、むしろ看板の側から考えることも多く行われている。この立ち位置であっても、まだ非常に部分的にしか取り組めていない場合が多く、提案に際しては通行人の視線の誘導を総合的に分析しておきたい。

図のように看板の必要性もいろいろあるのだなと思わせられるが、それらはひとつの店舗において共通のコンテンツと、それぞれの看板の位置・大きさなど特質にあったコンテンツが考えられることがわかる。それがコントロールできる点がデジタルサイネージの特色になる。これら全部をデジタルサイネージにする提案よりは、コンテンツをTPOに合わせて可変にすることでどのような効果が期待できるのかをそれぞれの看板で考えて、より効果が現れやすそうなものから一歩づつ導入を勧めていった方がいいだろう。

人いきれをつくりだす

デジタル広告においても発展途上国がアツい。ネット広告だけをみるとどの国のWEBもSNSも同じように広告がついているが、リアル広告においては日本は広告の売れ残りが多くなった。昔はビルを建てると屋上に看板スペースがとられることが多かったが、最近では看板のついたビルは少ない。記事『アナログからデジタルへ?』でも、アナログ広告がつかないような場所にデジタル広告も難しいことを書いた。

これが発展途上国だとあちこちに行列ができて、サイネージもやりがいがある。

サイネージの実証実験でも表示装置の横にカメラをとりつけて、顔認識をさせ、表示内容を切り換えようという試みがいくつかされたが、人がこなければ作動できないし、また来すぎてもうまくいかないだろう。何かに役立てるとすると、カメラ映像をもとに時間ごとの通行者数をカウントするくらいが関の山かと思う。

 

病院や交通機関の待ち会い場所も同じで、一見対象がターゲッティングできそうでいて、見てくれる総人数は限られている場合があり、『テレビをつけておけば十分』と考えるところが多い。たいていの人は待ち時間をスマホを見てつぶしているので、それよりも面白いデジタルサイネージのコンテンツを低予算で作るというのはハードルが高すぎる。

そのため、既存の広告ビジネスの延長にデジタルサイネージを考えられるのは、そもそも駅近くの雑踏とか、人いきれのある場所に限られてしまっている。昼間の住宅街に人影がまばらなように、マンションのエントランスであっても昼間は行き交う人は非常に限られる。そこに雑踏の街角と同じようなモデルはもってきにくいだろう。日常的に重要なお知らせがそうあるわけでもなく、自治体広報のようなものも振り向かれにくいだろう。

これといったアイディアとか先例があるわけではないが、マンションや学校など限られた人が出入りする場所では、コミュニティ性のあるコンテンツによって、ちょっと立ち寄ってみてみたいと思わせるような開発がありえるのではないかと思う。

例えば jimoty の『売ります・あげます』なら毎日変わるコンテンツを地域ごとに検索して表示できる。簡単なCMSツールを使って、同一マンションの住民がスマホでアップした情報が、スマホとサイネージの両方に出るような仕組みもできるだろう。

今はポスティングなどもやりにくくなっているマンションが多いので、試供品がピックアップできるコーナーなどを併設すると、若干の収入になるかもしれない。つまり何らかの『人いきれ』を創り出しつつ、サイネージの活用につなげるようなことも考えてみると面白い。

 

 

 

アナログからデジタルへ?

印刷媒体の減少と反比例するように伸びているデジタルの諸媒体ではあるが、デジタルの世界はデジタル媒体同志の自然淘汰が起こり、サービスを中止するものが次々に現れている。最初に世の中に登場した時には、素晴らしいなあ、とかカッコいいなあ、というインパクトが欲しいのだが、定着させるにはビジネスに叶ったものであるという納得性が重要になる。デジタルサイネージも納得性という点での評価をされるのはこれからであろう。

これは有名な品川駅の頭上にズラッと並んだサイネージで、地方の駅でもこういう設置をしているのをいくつか見かけるようになった。トンネル状の広い空間とマッチした設置の仕方であると思う。だがどちらかというと電車の車内広告の『ジャック』という手法で、ポスターでもあまり変わりはないのではないかという気もする。

これは電通が西武池袋の駅外に掲示した例で、まさに車内広告の『ジャック』の延長上にあるといえる。柱を巻いているデジタルサイネージの方が従になった感すらある。デジタルサイネージができたのだからアナログ媒体は無くすと決めつけるよりも、両方を組み合わせて、よりインパクトの高い演出をする方が賢いといえる。いや、場合によってはデジタルにする必要がないかもしれない、くらいに、デジタルサイネージの意味合いを問うべきだろう。

 

いつも、これでいいのかな? と疑問に思うのは、すでにターミナルではすっかり定着した柱ごとのサイネージである。

この写真の札幌駅は画面が天井近くの上部にあって、雑踏の中でも画面が見やすいという点では偉いのだが、どこの駅でも林立するサイネージにどのように映像を出していくのがよいのかについては、まだ雲をつかむようなところがあって、なかなか納得できるところには至っていない。そのことは広告の付き方からもうかがえると思う。

ある広告会社の話では、アナログ看板形式の以前の年単位の契約金額をデジタルでは稼げないという。それはデジタルの設備費の分だけたくさんの広告をとらなければならないからだが、元来アナログの交通広告は安く、デジタルにした場合に金額的に埋まらなければ値上げをしなければならなくなる。

しかし交通広告の需給バランスは場所によって昇降客数が大きく異なるために格差があり、アナログ広告をとるのも難しいところでデジタル広告に切り替えろというのは難しい。店舗においても同様で、アナログ・デジタル併用によるベストな提案が望ましいのだが、今まではデジタルサイネージの効用一本に絞って推すようなことが多かったのではなかったかと思う。

チャンネル型コンテンツ

デジタルサイネージの用途として、かなり増えてきていると思われるのが、社内のコミュニケーションや社内連絡用のものである。こういう目的の手段は社内WEBもメールも社内SNSもあるのだが、それでもコミュニケーションは徹底しないものらしく、壁に電子掲示板を設置するところがある。自社ビルの場合にエレベーター内にディスプレイをつければ、ほぼ強制的に目にするようになるといわれたものだが、そんなに普及しているとも思えない。むしろ今は職場にいろんな国の人が居あわせるので、マルチリンガルコミュニケーションの一環として見直されている。この分野は日本での就労に関する共通のコンテンツも考えられるので、個別企業に代わる『専用チャンネル』的な需要があるのではないかと思う。

 

また衛星のトランスポンダがレンタルできるようになった時代に、その1チャンネルを借りて、医院の待合室など向けに専用のTV放送を流しているところがあったが、そういう用途は今はインターネット上のストリーミングになっている。衛星の時代にはアンテナの設置などが必要だったのが、特別に何も用意しないでも『専用チャンネル』というサービスができるようになった。受益者が費用負担をするeラーニングの世界ではかなり定着していると思われるが、医院向けなどは広告などで費用を埋めなければならなくなり、新たな難しさがある。

 

一般に無償でコンテンツを提供しているデジタルサイネージにおいては、ゼロからコンテンツを制作する予算をとっていないところが多く、むしろすでに放送やDVDやeラーニングをしているコンテンツホルダーと組まなければサイネージに流すことはできない。サイネージにおける利用例としては、画面を分割した中に通信社から提供されるニュースや天気予報などを流す仕組みがよくあるのに、サイネージの設置者は通信社に支払いたくない意向の場合が多い。民放はタダだから・・・みたいな意識があるのかもしれない。通信社はスポンサーつきコンテンツを無料で提供できるのだろうか?

 

コンテンツホルダーを上流とし、サイネージ設置場所を下流とすると、テレビなどと同じで、下流からは設備関連の費用しかとれなくて、広告もなるべく上流に仕組みを作らざるを得ない。例えばバスの停留所に雨除けのひさしのついたシェルターを無料で設置している業者があるが、これはどこでも取り付けてもらえるものではなく、基本は広告クライアントの全予算をおさえているところがOOHに幾らか割り振って、その予算範囲で場所を選んで設置しているだけである。

 

サイネージ関連業者は、設置されている場所の『媒体特性』とでもいうべき、どんな人が、どんな時に、どの程度見て、どうリアクションするか、それは他の媒体に比べてどういう特徴があるかというデータとかシナリオを広告会社に提供できなければ、こういう企画には参画できない。

これは無理難題ではなく、従来から紙媒体やWEB、モバイルの制作にかかわってきた人たちがやるべき仕事ではないかと思う。

そのうえで『媒体特性』に合わせた共通のチャンネル型コンテンツが考えられるだろうし、それをスポンサーシップによって無料で提供するようなモデルも出てくるだろう。

インテリアとしてのデジタルサイネージ(埋め込み)

壁面全体をマルチ・ディスプレイで埋め尽くして、あたかもガラス張りのようにして景観を見せるとか、壁に大きな窓があるようにマルチ・ディスプレイをしつらえて、外国とか自然の中に居るような雰囲気をだすものは以前からあった。
2017年4月に松坂屋銀座店後の再開発としてオープンした銀座エリア最大の複合商業施設GINZA SIXでは、ブランド店が軒を並べるところで外観・内装ともに凝ったデザインが施されていて、その3階から5階部分を繋ぐ高さ12mのLEDビジョンが設置され、チームラボによるデジタルアート作品「Universe of Water Particles on the Living Wall」が常設展示されている。これはビデオを流しているのではなく、背後にコンピュータを置いて常時演算して表示しているそうで、日々の日没とともに様子を変える滝とか、クリスマス限定特別カラーとして滝が黄金に輝くようなことをしていたようだ。

またこのビルのデザインポリシーなのだろうが、なぜかエレベータの乗降口が矩形ではなく右肩上がりになっていて、その脇にあるフロア案内のデジタルサイネージも斜体になっている。

どうもフツーのものをそのまま置くわけにはいかないようで、とはいっても斜めのディスプレイを作るわけにもいかないから、矩形のサイネージの上下に直角三角形の覆いをつけていることになる。当然コンテンツ作りでもその三角形の部分は『余白』にしておかなければならない。

この場合のデジタルサイネージは最初から壁面のデザインの一部であり、サイネージの後付でこういう工事をするのは大変だ。でも逆にインテリアを考える際にデジタルサイネージのことを考慮することは今後増えていくだろう。

 

次は厳密に言えばエクステリアだが、渋谷駅から渋谷川沿いに『渋谷ストリーム』という店舗群ができていて、その入り口には壁面に横長ディスプレイを多数埋め込んだところがある。これも案内とか情報表示ではなく、渋谷川に紐づけての映像のインスタレーションのようになっている。この写真は川そのものを表示しているが、いくつかのパターンがある。今後もいろいろな表現が増えていくのであろう。

このような周囲に溶け込ませたディスプレイの使い方は、まだ始まったばかりで、これからもっともっと多様なデザインがされていくだろう。下の写真は展示会のものだが、正方形のディスプレイを市松状に配置していて、『渋谷ストリーム』と同様に全体として一枚の映像が流れるような使い方(非連続マルチディスプレイ)をしている。

その次の写真はディスプレイを縦に何台も連結して柱にしているもので、個別の表示というよりは全体でインスタレーションになるような見せ方ができる。

LEDビジョンのような輝度が高く大型のディスプレイが普及していく一方で、安い液晶パネルを使いながら、設置にデザイン性をもたせることで楽しい空間を作っていくという工夫も面白い。

インテリアとしてのデジタルサイネージ

デジタルサイネージを設置してもコンテンツの更新ができないとか、番組表がなかなか埋まらないなど、日常運用の悩みを持たれる方は多いだろう。複合商業施設のような多くのテナントが共用でサイネージコンテンツを提供している場合は、全体がスライドショウになっていればそれなりの変化は出ているが、1軒で運用している場合は単なるスライドショウでは飽きられる恐れがある。しかし絵画や紙のポスターでも見飽きないような絵ならば長期間の掲示に耐えられるのだから、よい作品を選ぶことに気を配れば何とでもなると思える。

 

もしある店の主人が写真の趣味をもっていれば、自分の作品から毎月なり毎週なり選んで差し替えていき、また親しい人とは表示されている写真をネタに会話をすることもできる。旅行やスポーツが趣味である場合も同様で、そのうち知人の撮った写真も表示するルールを作って、店の壁面をギャラリーのようにすることもできるかもしれない。自分で能動的に写真を撮ったり、旅行・スポーツ・その他の趣味にのめりこんでいない場合でも、興味のある分野のフリー素材をネットで探して、定期的に差し替えるようなことをしていけばよい。

例えばユネスコ世界遺産の画像を無料で使いたいなら Pixabay というサイトがある。Pixabayは著作権のない画像や動画を共有するところで、すべてのコンテンツはクリエイティブコモンズCC0の下で公開されていて、店内装飾のような商業目的であっても、許可が不要で安全に使用できる。しかし、画像に映っているものの中に商標やパブリシティ権、プライバシー権などに抵触するものが含まれている可能性はあるので、自分で注意して使う。難点は画像検索は日本語よりも英語でした方が便利なところくらいだろうか。

もっと手間をかけずに安直にしたければ有料だがデジタルサイネージに世界遺産を配信するサービスもある。これは自販機にサイネージをつけてドリンクの売り上げで運用するサービスをしているアイティ・ニュース株式会社のもので、他にもNHK動画ニュース配信サービス、緊急地震速報配信などなども配信している。この世界遺産映像は写真ではなく標準で1分間のmp4のようだ。
似たようなサービスはいろいろあるもので、名画付大型デジタルフォトフレームというのも売っていて、額縁つきの政界の名画スライドショーなのだが、これは逆にサイネージとして運用するのは無理かもしれない。

以上はいわゆる環境映像的なものだが、こういう要素は他のサイネージでもあったらよいように思う。例えば窓口での番号案内というのは役所や金融機関や病院には必ずあり、LEDの番号表示の頃と同じ使われ方が液晶パネルになっても行われている。

この場合は番号を知らせる以外の余計なことはするな、というポリシーがあるのかもしれない。私の通う病院では番号表示とともにやたらに諸注意事項が出てきて全然楽しくないのだが、こういう場合でも提案の余地はあると思う。それは画面内での表示提案ではなく、室内のインテリアとしての提案として行ってはどうかということだ。(→次回に続く)

通信で活用が広がるサイネージ

デジタルサイネージってどんなものかを知ってもらうには、とりあえずスタンドアロンでUSBを挿せばスライドショーが始まるものが説明しやすい。しかし使う台数が増えたり、それも設置場所が離れ離れになってくると、内容の変更・更新をするのが煩雑になってしまい、サイネージを活用しようという意欲も失われるかもしれない。そして更新がされないと着目もされないという悪循環に陥る。ただし特定商品の横に置かれる小型の電子POPのように、同じ商品説明をループ再生する場合は更新があまりないので、スタンドアロンで使われている。

 

USBのサイネージは今でも多いのだが、それは最初の1台で足踏みしているところが多いことでもある。今ではクラウド型とかサーバーからコンテンツを通信回線経由でダウンロードして使うサイネージがいろいろ出ているのだが、これが多種多様であることから、2台目以上の展開が進まない原因にもなっているように思える。クラウド型ではコンテンツ制作以外に通信費やシステム費用などがかかるものの、管理面では大きな進展があるのだが、もともと販促とかコミュニケーションの管理があんまりされていないところが多いので、クラウド型の価値がわかってもらい難い。

しかし通信環境とかネット上の管理システムはこの10年の間にも大変な充実をみているので、実は通信やシステムの負荷はあまり気にしないでもクラウド型のデジタルサイネージはできるように変わりつつある。だから簡易なクラウド型から始めて、サイネージの活用方法が身に付くとともにシステム的なサイネージに移行していく考え方がよいだろう。

 

通信と管理アプリ

クラウド型というのは、インターネット通信と、データのやり取りをするアプリからなる。インターネットは既存の回線を使う場合と、サイネージのために別の回線を用意する場合とがある。企業がセキュリティの観点でインターネットを利用を制限している場合は、サイネージのためには別回線を引かざるを得ないが、サイネージ程度ならモバイルルーターとか4GスマホのディザリングのWiFiで使うこともある。最近ではあまり有線LANを敷く話は聞いたことがない。
通信端末とメディアプレーヤーを兼ねて専用のSTBを使うような方法が先行して普及していて、その方が高機能であり、操作面でもすべきことが少ない。一方でPC/タブレット/スマホでインターネットとつないでサイネージに表示する場合は、ある程度それらの操作は利用者がしなければならないことになる。後者も新規に購入すると費用がかかるので、いっそのこと専用STBを使う方が初心者にはわかりやすくなる。値段はどちらも同じようなものである。

 

アプリとかクラウドの使用料というのもピンからキリで、単にスライドショウのような場合は無料のものもあるし、コンテンツ管理やスケジューリングの機能をもつと月額何千円かの費用がかかる場合もある。これにはWebサイトを管理するCMSのようなレベルのものと、さらに上には放送局の番組の送出システムのような番組の編成やスケジューリングが自由自在なものまである。億の単位のサイネージにはそのような大がかりなシステムが使われていたりするが、一般的にはCMSみたいなレベルのものが使われている。

 

管理

管理すべきは、①ファイルと表示に関することと、②番組表やスケジュールに関することと、③IDとか利用者グループに関するもの、などがある。

もっとも単純なスライドショウの場合は、どこかにフォルダに画像ファイルを入れておけば、それらを順次表示することで、USB媒体がネット上のフォルダに代わっただけである。スライドショウでもアプリが備わっていれば、表示順が変えられたり、トランジション効果が選択できたり、開始終了時間の設定をする。まずはこの程度のサイネージから使いだすのが最もわかりやすいだろう。クラウドといってもサイネージ専用のものではなく、Facebook、Instagram、GoogleDrive などのすでに一般に使われているものを利用して、そこにアップされた画像をサイネージに順番に出すようなものも出てきているので、これらはほとんど管理費用がかからない。

 

スライドショウでは表示を変えるときはフォルダの内容を入れ替えなければならないので、ファイルの表示を決めるをプレイリスト作って管理するのが②で、同じ素材を使いまわしながら複数の似たプレイリストが管理できる。そのプレイリストをスケジューラーで時系列に配置して番組表とする。これで、平日と休日とか、朝は「おはよう」夕は「お疲れさま」といったバージョンが作れる。昼のランチ用、夜のバー用、などいろいろ考え付くのだが、まだそのような使い分けがされている例は少ないだろう。つまり②が当面のチャレンジ目標であろう。むしろ初心者に最初からこういったことを押し付けるのはハードルが高すぎるのかもしれない。

 

①②がクラウド上でコントロールできると、全世界に散らばったディスプレイに対しても1か所でコントロールできるのが通信利用のスゴさである。実際は本社・支社とか、本部(フランチャイザー)と加盟店(フランチャイジー)、などでは、チラシを作るにしても扱う品目が異なって、販促物の手配には手間暇がかかるのを、③の機能があればネット上でかなり解決できるようになるはずなのだ。まだサプライチェーンマネジメントとサイネージの配信が連動しているような例は稀かもしれないが、デジタルサイネージの将来はどんどん広がっていくのだと考えられる。

大は小をかねない

デジタルサイネージというと構えてしまう方がおられる。今までもこのブログで取り上げてきたように、設置とか運用管理とか更新とかいろいろ対処すべきことが山積みだと感じるのかもしれない。一方でデジタルサイネージなどという言葉は知らずに、40インチ以上の液晶パネルを買ってきて自分の店舗内にとりつけて、自分で撮ったビデオを流しているDIY派もおられる。デジタルサイネージがある層から下にはなかなか浸透しないという見方もあるが、後者のようにDIYサイネージの方にこれからの普及のカギがあるようにも思える。

そもそもポータブルDVDプレーヤーやデジタルフォトフレームなどは当初から店頭の商品棚でPOPとして使われてきた。今では電子popという言い方もされるが、サイネージの一種に分類されることもある。これら7インチクラスのものは、もとはカーナビ液晶の流用のような気がするが、タブレットの登場とともに次第にきれいになって、画角などもテレビの世界から発達した液晶と同じようなものとなって、コンテンツが共通に使える時代である。

 

この、中間にデスクトップパソコンの20インチ内外のディスプレイというのもあるが、あくまでパソコン側で処理したものを映すだけで、メディアプレーヤーを内蔵した液晶パネルというのはあまりなかった(一部電子POPの大型化したものとしてはあった)。しかしこのクラスが第3のサイネージとして新たな需要を起こすかもしれない。それは設置する場所が多く見出せるからからである。
大型液晶の場合は壁に取り付けか、スタンドを利用する場合が多い。壁の場合は簡単な工事が必要になるし、移動はさせにくい。スタンドは移動できるが、狭い場所では見えにくいとか、人にぶつかる可能性もある。というようなことでちょうどいい設置場所を探すのに苦労をする場合がある。

例えば商業施設にテナントとしてお店が入っている場合に、掲示のスペースは限られてしまうので、40インチのディスプレイなどは置けない。また背面もすでにきっちり隙間なくデザインされてしまっているので、無理に背面にディスプレイをつけると店舗デザイン的にもまずいだろう。

こういう場合は、記事『インスタグラムで超簡単サイネージ』でとりあげた約50cm角の正方型ディスプレイあたりが使いやすいだろう。この製品は元はデジタルカンバスというコンセプトで、油絵のカンバスよりも若干薄い筐体にすることで、油絵の額装に収められるようにしているものである。

当然下の写真のように額装なしで使ってもよく、壁掛けの金具もあるし、スタンドも小さいイーゼルを使えるし、ショウケースの上にも置けるだろう。壁にあるお店のロゴ看板の代わりにしてしまうこともできる。

これらもアプリを使ってクラウドから配信すれば、あちこちの多くのテナントになっている場合でもコンテンツが一元管理できる運用になる。

今年のトレンド? レーザープロジェクター

サイネージネットワークでも中小規模のレーザープロジェクターを扱います。昨年くらいからプロジェクターの各社が中小会議室でも使える規模の製品を出してきていて、いよいよプロジェクターはレーザーの時代を迎えたように思います。今までレーザープロジェクターは大講堂・ホール・プロジェクションマッピングなど大規模なところで使われてきましたが、教室規模で何千ルーメンという製品が増えています。

 

この分野はすでにランプを使った製品が普及していますが、カタログ寿命で2000-3000時間の寿命であるために、しばしば買い換えておられた方も多いと思います。これでは営業時間につけっぱなしにするようなサイネージ向けには安心して使えません。ランプはいつ何時突然キレるかもしれませんし、交換にも万というお金がかかります。営業中の昼間にランプ交換とかメンテナンスはやってられませんから、人がつきっきりの会議室などに使用が限られるのは仕方なかったかと思います。

 

レーザープロジェクターはLEDなのでランプに比べて発熱も少ないし、寿命も一桁長いことを謳っています。だいたい2万時間とカタログには書かれていますが、ランプ方式が電源onしてからしばらくたってジワッと画像が浮かんでくるのと異なって、レーザーでは瞬時に画像が出るので、まめにオンオフをすることができ、つけっぱなしのランプよりもさらに寿命面では有利のはずです。2万時間というと何年間かはもつだろうなと想像できます。

 

さらに近年増えている超単焦点のレーザープロジェクターでは、どこにプロジェクターが置いてあるのかわからないような設置もできて、商品が多く陳列されている売り場でも商品棚の下の方から壁に投影するように、使いやすいものとなっています。大型液晶パネルのデジタルサーネージでは狭い通路に置くわけにはいかないとか、人がサイネージ当たって転倒するかもしれないという気遣いもありますが、棚の中にプロジェクターを仕込んでしまえば安心でしょう。

また、ショウウィンドゥなどに投影する場合に、何も投影しない時はガラスが透けて見えてほしい場合がありますが、それには液晶のフィルム状のスクリーンを使います。これは電源ON/OFFで透明と乳白切替が可能なフィルム素材で、フィルムタイプのため薄く、軽く、曲線への使用も出来ます。既存のガラス面には貼りつけ工事が必要ですが、フィルムが幅最大1200mm x 3400mmMAXの範囲で任意の大きさにできます。例えば人通りの多い場所のショウウィンドゥなので営業時間外も広告メディアとして使いたいといった時にはお勧めです。

 

広告は好意にみてもゼロサムではないか?

電通の『2018年日本の広告費』が発表された。国の統計がいろいろ議論されている今日ではあるが、この広告の統計も調査方法が暫時変化してきているので、数字の細かい点を通年で比較してどうとかは言いにくい面がある。今年も全体では、

『●日本の総広告費は、6兆5,300億円(前年比102.2%)となり、7年連続のプラス成長
●インターネット広告費は、1兆7,589億円(前年比116.5%)、5年連続の二桁成長となり、地上波テレビ広告費1兆7,848億円に迫る
●マスコミ四媒体由来のデジタル広告費※は、582億円(新設項目)』

とまとめられていて、元気な印象を与えるように作られている気がする。それは悪いことではなく、主体である4マス広告の沈下をオブラートに隠すのにインターネット広告を使っているように思える。それほどインターネット広告は伸びているということなのだが、そもそもインターネット広告の把握の仕方が曖昧で、ある意味どのような数字も作れる。一例ではECサイトで物を売るとなると、サイト内の仕組みを使ってプロモーションができる仕掛けが有料で提供されているが、あれは広告費に参入されていない気がする。今後もいろいろなネット上の広告を加えていけばまだまだネット広告は伸ばすことができる。

 

それはともかく、サイネージや映像は、『プロモーションメディア広告費』にカウントされている。

何とほぼ前年どおりで伸びはなく、内訳としてみると紙メディアが下がった分だけ映像系が増えたということかもしれない。その点ではやはり広告という視点ではゼロサムなのかなと思う。ところがそれ以上にサイネージの設置は増えている。

 

実際交通系は車内も駅周りも着実にデジタルサイネージの設置は増えているのだが、それは実は広告のためだけに推進しているのではない。事故などの際のダイヤの乱れを伝えるのに、従来は改札近辺の白板に書いていたことが、駅回りのサーネージにも出せるように変わりつつある。それもスマホに提供されている運転見合わせ区間の表示などが駅でも連動して表示できるような、インフラの整備が行われつつあることがわかる。

記事『案内システムのカオス』では、メトロの例をあげて、運行情報のサイネージには広告を出さないというものを紹介したし、丸の内界隈でも防災を考慮したサイネージは、いわゆるビル壁面や屋上の完全広告モデルとは異なる運用をしている例を挙げた。ツーリストガイドのサイネージも広告は載せてはいるが、経費の足しになればよいということで一定の場所や時間を広告に割り当てる例がある。どうも広告ビジネスとしては中途半端にならざるを得ないのが現状のサイネージのように思える。

 

今のところ広告が先導してサイネージが広まることができるのは、設置場所やクライアントをすでに抱えているという条件があってこそできることで、先にディスプレイを設置すれば広告が自然についてくるようなことにはなっていないということだろう。広告業界にとってもデジタルサイネージは、ポスターのように掲示すれば終わりというわけにはいかず、更新できることのメリットを出すには、今までにない努力とコストがかかることにもなるので、あまり身が入らないのかもしれない。

 

 

デジタルサイネージのライブコンテンツ

アナログビデオの昔にSONYが販促ビデオを簡単に制作するkitのようなものを印刷関係にも売り込んでいたことがあった。カメラとビデオデッキと簡易編集装置などで、おそらく200万円くらいはしただろうと思う。他社からも似たようなものは出ていた。それらで放送とかコマーシャルフィルムの世界とは別に、様々な視聴覚教材や映像資料が作られていた。前職でも通信教育の教材にビデオを制作したことがあった。当時は撮影・編集を済ましてからMAのスタジオに出かけて音入れをしていた。ビデオテープのスタート・ストップをする職人さんが居て、それに合わせるように原稿を読んでいた。それに比べると映像資料の制作は今では遙かに簡便化した。

 

販促ビデオは店頭のテレビで流されていたし、ホテルなど施設内専用の館内有線TVのようなものはあったが、それが特別効果の高いものとして評価されていたようには記憶していない。CD-ROMやDVDがマルチメディアと騒がれた時代にも映像資料はたくさん作られて配布されたが、それらが販促に大いに貢献したという話も聞かない。つまり映像化というのはVHS以来40年ほど経っているにもかかわらず、プロの世界に留まっていて、近年まで一般人のリテラシーにはなっていないともいえる。デジタルサイネージのハードがいくら安価になっても、コンテンツ作りが足踏みなのは、このような歴史が関係していると思う。

 

株式会社キャメルの太田伸吾氏は、街頭テレビのような形でブラウン管の時代からサイネージ映像を作っていたとおっしゃっていた。新宿のアルタビジョンも1980年くらいからある。1985年の筑波科学万博ではSONYが2000インチのジャンボトロンという『世界一大きなテレビ』を屋外設置し、その場にいる人を映してインタラクティブな面白さも見せていて、それまでの映像制作とは別のライブ映像の魅力があった。この技術は後に野球場などに応用された。10数年前からデジタルサイネージという名称になって、何か新しいことが始まったように思う方もおられるかもしれないが、プロの世界ではたいていのことはそれ以前からあったといえる。

近年になって変わったのはSNS動画で、自分の周囲で何か起こった場合に映像記録でき、その場でSNSにアップできる同時性から共感を呼びやすい。サイネージ映像もライブ的なものは探せばある。近所の生鮮食品や魚肉などを売っているお店では、レジの列に並ぶと目の前にバックルームで作業をしている様子の映像を流していて、なんとなく見てしまう。中華屋さんで客の目の前で調理をしているのと似ている。

街のサイネージでは監視カメラ映像を混ぜて使う例はある。見張り効果を狙っているのだろう。道路の渋滞状況をライブカメラで配信しているとか、Webカメラのような映像ソースを公開するところも増えている。回転寿司の待合に店内の様子を映し出しているのもある。これらをもうちょっと進化させると、コンテンツ化できそうだなと思える場合もあって、機会があれば仕事に組み入れたいものだ。

 

映像制作というと、企画・絵コンテ・撮影・編集と制作工程を経ることが常識のようだが、そういうあらかじめ表現意図を整理・準備しておくものとは異なる世界、つまり資料化・文字化したものがない、そこにしかない、ということでかえって魅力に感じてもらえるものも考えらえる。

サイネージ設置のトレンド

デジタルサイネージコンソーシアムの都内ツアーに参加して、丸の内/八重洲/渋谷/新宿における見どころを案内してもらった時に、2018年にはかなりハード面のリプレースとか新設によって、新しい方向が見えてきたように感じた。基本的に技術が変わったわけではなく、あまり多様化するのではなく、むしろパターンが絞られているのではないかと思わされた。例えばタッチパネルのユーザインタフェースが未熟なものが多いことを書いた。一般にスマホやパソコンのアプリはどんどん更新されて使いやすくなっていくのに対して、サイネージに組み込まれたアプリは進化がみられないというギャップがあり、観光ガイドなどもスマホに対して見劣りがしてしまう。

 

またカメラを組み込んだサイネージで何らかのソリューションをしようというものも実証実験の域を出ていない感じで、これからどのようにこなれたものにしていくかが課題だろう。一方で表示パネルはよいものが安くなることは確実で、それを見越した設備導入をしなければならない。同時にこれからは利用が減りそうなものは避けていった方が無難である。

例えば、マルチディスプレイで田の字に4面つける例はあまり見かけなくなって、むしろ縦3面の方が多い気がする。以前から画面センターにつなぎ目があることは気になっていた。それを避けるには3x3の9面にしてしまう手もあるが、そのサイズだとLEDビジョンの小さいのにするという選択肢もある。だがかつてのLEDビジョンはピッチが粗かったのであまり近くで見られたくなかった。そんな問題が次第に解決しつつあるように思える。

 

冒頭のツアーを含めて最近の街角をみると、ごく大雑把にいうならば、以下のようなものがトレンドになっている。

デジタルサイネージコンソーシアムの説明では、4k8kは輝度・コントラストで迫力が足りないのでまだサイネージには向かないのではないかということだった。それよりも縦3面が使いやすい。これは横長のコンテンツを流用しやすいし、広く使いたいときに縦3面を横に連結していけるので便利だ。連結しても3面ごとに別のコンテンツを流すという使い方が多い。

 

3x3の9面になると、タイルを貼りあわせるようなLEDパネルのモジュールが有利かもしれない。これはかなり希望に近い寸法に設置しやすい。またモジュールが故障しても取り換えが簡単にできる構造になっている。ピッチも6ミリよりも狭いものが次々に作られていて、1.2ミリピッチまである。新宿伊勢丹の向かいにあるアップルストアにはそれを使った巨大なLED画面がある。

これは2億円ほどかかったらしいというが、よほど近づかないとドットは見えない。このクラスの値段が下がるにつれて液晶からの置き換えが起こっていくだろう。前述の116V型(シャープ)の場合は6ミリピッチのパネルが3x4の12枚使われていが、これからだと2.4ミリピッチの導入が進むのではないか。

 

ディスプレイサイズが1フロア以上になるとか、ガラス越しに部分・全面に表示をするとなるとシースルーLEDが設置し始められている。前述のツアーでは銀座の日産ショールームの窓ガラスに使われていた。この方式はショーウィンドウの全面ではなく、一部分だけにも応用しやすいので、これからいろいろ応用の試みがされていくはずである。当面はそういう実験的な取り組みがされるのだろう。

ビジネスにサイネージを組み込む

年度末になると会計処理の理由から利益を出しすぎるよりも何かに投資をしようということで、デジタルサイネージをまとめて発注するような会社も過去にはあった。その後どのように使っているのだろうかと思っていたら、倉庫に眠ったままであることもよくある。

また最初は予算がとれて、気の利いた見栄えのするコンテンツを作ってもらっても、その後同等の予算がとれなくなって、紙のポスターとあまり変わらない使い方になる場合もある。社内で新コンテンツを作って更新するはずだったのに、グラフィックソフトを使える人が移動になってしまって、後任がいないところもある。

 

どうも日常のビジネスの一環として社内でサイネージの更新に取り組むことは難しいようだ。そこでメーカーはサイネージのテンプレートやグラフィック素材、またカンタン制作アプリなどをハードウェアのおまけとして売っているのだが、それだけではまだ何かが足りない。

実は写真やショート動画を売場とかそれに近い人が現場で撮って、若干の加工をすることくらいは難しくない。カンタン制作アプリも同様である。難しいのは媒体設計なのである。下のようなチラシは分解すれば商品名と写真と若干の説明コピーと値段で成り立っているので、それくらいは現場でもできそうだが、それをどのようにレイアウトするのか、優先順位をつけて必要ものを一定の紙面にぴったり収めるというところに経験とかノウハウがものをいい、そのデザインをしてもらうと10万20万という費用がかかるだろう。

レイアウトの前提として、見る人の視線の移動や、文字の大きさ太さの使い分け、などの知識が必要になる。その部分だけでもなんとかテンプレート化して、チラシレイアウトの迅速化を図りたいという取り組みは昔からあった。

 

今のWebやモバイルのショッピングでは、原稿をデータベース化して自動でレイアウト処理させることで、前述の現場の人が情報発信を自分でできるようにしている。これが可能なのは、画面の解像度がまだ紙に比べて粗くてレイアウトの制約がいっぱいあるからで、もし4k8kになるとチラシそのものを表示できるようになって、レイアウトの自由度が高くなるから、自動レイアウトできない表現も増えるかもしれない。

今のデジタルサイネージというのは、このちょうど中間に位置するようなツールで、データベースよりはクラフト的なものが求められている。だから完全に自動でレイアウトするのではなく、緩くテンプレート化したやり方の方が向いていると思う。

つまり、印刷やWEBでテンプレート化した平面レイアウトをしているようなことを、動画の時間軸に素材を並べることにも適用させていけば、映像やコピーの部分変更などはやりやすくなる。こういったテンプレートを作るノウハウはチラシのデザインと似ていて、最初にかなり設計なり試作なりに手間ヒマをかけなければならず、コンテンツの一発制作よりも回りくどいことになるから、若干費用はかかってしまう。しかしできてしまうと、更新コストはおそらく10分の1になる。

これなら現場でも対応できるかもしれないし、外注・アウトソーシングしても大した値段にはならない。この方法がお得になるのは、前述の前提では一つのテンプレートが10回以上は使いまわされる時であるので、毎月更新するものには1年に1テンプレートを作るとか、毎週更新するなら季節ごとにテンプレートを変えるなどのルーチン化を想定するのがよいだろう。

この方法のメリットは制作代を抑えることにもなるものの、情報発信をビジネスにリンクさせやすく、何よりも更新の機動性が高められるところにある。

 

 

 

サイネージ観光案内は大丈夫か?

1月23日にデジタルサイネージコンソーシアムの都内ツアーに参加して、丸の内/八重洲/渋谷/新宿における見どころを案内してもらった。前回の投稿でも、昨年からディスプレイのリプレースで新しい設備にも入れ替わって見栄え・迫力が増してきていることを書いたが、ハードウェアの進歩とは対照的にソフト面ではほとんど投資がされていないで、利便性も上がっていない面も見られた。

施設・フロアの案内とかツーリストインフォメーションのようなものは増えてもあまり利用されていないのだが、いろんな面で分かりにくさや、デジタルサイネージ特有のやりにくさというのがある。例えば地図を表示して現在地から目的地まで誘導するような場合に、まるでスマホのアプリのようなものを無造作に大形液晶に表示しているものが多い。

この写真の場合に、サイネージを見ている人の右側には鉄道が通っているのだが、サイネージは南を向いて設置されているので、中に表示される地図は北が上になっているために、現在地の左に鉄道が通っているようになる。だから見る人は、天地逆の位置関係を翻訳しながら地図の中を探したり、道順を考えることになる。

 

もしスマホならば、自分の体を回転させて、地図の天地と目の前の光景の位置関係を揃えることができるが、デジタルサイネージは回転させることはできない。

ここで利用されている地図は専門の会社から提供されている汎用のものだが、果たして南を上に表示するようなコンテンツの回転機能はあるのだろうか? 親切なことにこのサイネージでは目的地までの順路の表示もされるものの、何しろ目の前の光景とは天地逆の順路が示されるので、本当に役に立つのだろうかと心配になる。普通の人はやっぱりスマホに頼ることになるのではないか。

 

そもそもなぜこのサイネージが南向きに設置されたのかは想像ができる。北向きに設置すると南からの日照をまともに受けて液晶が非常に見づらくなるからだろう。このことはどこにでも共通する課題である。もし本気で北向きの地図案内をデジタルサイネージで行いたければ、バックライトではなく反射型液晶を開発しなければならない。それは技術的には可能だろうとは思うが、ニーズが少なくては普及はしにくい。Kindleのような電子ペーパーも太陽光のもとで見やすいのだが、地図のようにどの方向にもスクロールする用途には向かない。

 

また建物内のフロア案内などのデジタルサイネージでも、地図に相当するものは建築図面の平面図のようなものが多く、目的地を表示されてもどっちを向いて何を手掛かりに進めばよいのかわかりづらい。やはりコンテンツが貧弱な感じが否めない。

今日では実際に人々が日常で案内情報として頼りにしているのは、Googleの地図にストリートビューを加えた、3Dに近いもので目的地までの順路をシミュレーションできることであって、そのことと現状のデジタルサイネージの案内図とのギャップが非常に大きく感じられた。だからと言ってわが社で回転できる地図が開発できるわけでもないので、ボヤキに近いものだが、何かサービス開発をするとすると、やはりスマホ連携にならざるを得ないと思う。