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「制作アドバイス」カテゴリーの一覧を表示しています。

2019.6.7

デジタルサイネージの立ち位置

デジタルサイネージが販促にもっと使われるようになるには、既存メディアよりも費用対効果が高いことが求められるが、これは決して単純な比較はできない。印刷物が減っていく中でも、チラシは大変コストがかかる割には生き残っている媒体である。だから印刷代の一部をモバイルマーケティングやサイネージの費用にまわせるのではないだろうかと考えた人も多いが、簡単ではない。それは印刷物には無駄が多いという印象はかなり昔からあったが、近年では印刷物の贅肉はずいぶんそぎ落とされて、チラシの回数が減るとか、用紙サイズが半分になるとか、相当のコスト圧縮がされてきたからである。

またチラシならではの特定地域に対する浸透率の密度の高さという特性があるので、小売店のチラシの費用の一部を流通の会社が露出面積に応じて負担するような『仕組み』が長い間かかって出来上がっていてる場合がある。サイネージでいえば仕入れ元の広告を取りたいというのと似ているが、どれだけの人がその広告を見るか、あるいは他社製品と比較してもらえるか、など広告主が期待する効果をサイネージが示すことはまだできていないだろう。

つまり紙メディアをサイネージにした場合の損失を不安がる広告主に対して、有効な提案がまだできていないことになる。これはサイネージ単体で可能になる話ではなく、チラシもポスターもモバイルマーケティングもWebも全部を適切に販促なり広告に使おうという視点が必要なのだが、それはマーケティングの専門家がいる大手企業でないと難しいのだろう。

冒頭の印刷の贅肉落としの際には、年間の印刷物発注を見直して、コスト削減目標をたてて、その中でメディアの効果を落とさないように、さらに紙面やタイミングの工夫を重ねていくということをしていたのであって、それらを通じてあるものはネット通販に振り分けるなども行われた。販促全般に明るい会社がデジタルサイネージのサービスをしようとするならば、クライアントのチラシ、ポスター、モバイルマーケティング、Webなどを分析すれば、サイネージのポジショニングはできるかもしれない。しかし多くのサイネージ屋さんは未だに機器の販売やレンタルに軸足を置いているがために、マーケッター的人材は不足しているだろう。

 

下の図は株式会社エール(http://a-ir.jp/business/ad/)という看板製作会社のHPにある図だが、デジタルサイネージの役割はマーケティングには限らず、むしろ看板の側から考えることも多く行われている。この立ち位置であっても、まだ非常に部分的にしか取り組めていない場合が多く、提案に際しては通行人の視線の誘導を総合的に分析しておきたい。

図のように看板の必要性もいろいろあるのだなと思わせられるが、それらはひとつの店舗において共通のコンテンツと、それぞれの看板の位置・大きさなど特質にあったコンテンツが考えられることがわかる。それがコントロールできる点がデジタルサイネージの特色になる。これら全部をデジタルサイネージにする提案よりは、コンテンツをTPOに合わせて可変にすることでどのような効果が期待できるのかをそれぞれの看板で考えて、より効果が現れやすそうなものから一歩づつ導入を勧めていった方がいいだろう。

2019.5.24

人いきれをつくりだす

デジタル広告においても発展途上国がアツい。ネット広告だけをみるとどの国のWEBもSNSも同じように広告がついているが、リアル広告においては日本は広告の売れ残りが多くなった。昔はビルを建てると屋上に看板スペースがとられることが多かったが、最近では看板のついたビルは少ない。記事『アナログからデジタルへ?』でも、アナログ広告がつかないような場所にデジタル広告も難しいことを書いた。

これが発展途上国だとあちこちに行列ができて、サイネージもやりがいがある。

サイネージの実証実験でも表示装置の横にカメラをとりつけて、顔認識をさせ、表示内容を切り換えようという試みがいくつかされたが、人がこなければ作動できないし、また来すぎてもうまくいかないだろう。何かに役立てるとすると、カメラ映像をもとに時間ごとの通行者数をカウントするくらいが関の山かと思う。

 

病院や交通機関の待ち会い場所も同じで、一見対象がターゲッティングできそうでいて、見てくれる総人数は限られている場合があり、『テレビをつけておけば十分』と考えるところが多い。たいていの人は待ち時間をスマホを見てつぶしているので、それよりも面白いデジタルサイネージのコンテンツを低予算で作るというのはハードルが高すぎる。

そのため、既存の広告ビジネスの延長にデジタルサイネージを考えられるのは、そもそも駅近くの雑踏とか、人いきれのある場所に限られてしまっている。昼間の住宅街に人影がまばらなように、マンションのエントランスであっても昼間は行き交う人は非常に限られる。そこに雑踏の街角と同じようなモデルはもってきにくいだろう。日常的に重要なお知らせがそうあるわけでもなく、自治体広報のようなものも振り向かれにくいだろう。

これといったアイディアとか先例があるわけではないが、マンションや学校など限られた人が出入りする場所では、コミュニティ性のあるコンテンツによって、ちょっと立ち寄ってみてみたいと思わせるような開発がありえるのではないかと思う。

例えば jimoty の『売ります・あげます』なら毎日変わるコンテンツを地域ごとに検索して表示できる。簡単なCMSツールを使って、同一マンションの住民がスマホでアップした情報が、スマホとサイネージの両方に出るような仕組みもできるだろう。

今はポスティングなどもやりにくくなっているマンションが多いので、試供品がピックアップできるコーナーなどを併設すると、若干の収入になるかもしれない。つまり何らかの『人いきれ』を創り出しつつ、サイネージの活用につなげるようなことも考えてみると面白い。

 

 

 

2019.4.24

インテリアとしてのデジタルサイネージ(埋め込み)

壁面全体をマルチ・ディスプレイで埋め尽くして、あたかもガラス張りのようにして景観を見せるとか、壁に大きな窓があるようにマルチ・ディスプレイをしつらえて、外国とか自然の中に居るような雰囲気をだすものは以前からあった。
2017年4月に松坂屋銀座店後の再開発としてオープンした銀座エリア最大の複合商業施設GINZA SIXでは、ブランド店が軒を並べるところで外観・内装ともに凝ったデザインが施されていて、その3階から5階部分を繋ぐ高さ12mのLEDビジョンが設置され、チームラボによるデジタルアート作品「Universe of Water Particles on the Living Wall」が常設展示されている。これはビデオを流しているのではなく、背後にコンピュータを置いて常時演算して表示しているそうで、日々の日没とともに様子を変える滝とか、クリスマス限定特別カラーとして滝が黄金に輝くようなことをしていたようだ。

またこのビルのデザインポリシーなのだろうが、なぜかエレベータの乗降口が矩形ではなく右肩上がりになっていて、その脇にあるフロア案内のデジタルサイネージも斜体になっている。

どうもフツーのものをそのまま置くわけにはいかないようで、とはいっても斜めのディスプレイを作るわけにもいかないから、矩形のサイネージの上下に直角三角形の覆いをつけていることになる。当然コンテンツ作りでもその三角形の部分は『余白』にしておかなければならない。

この場合のデジタルサイネージは最初から壁面のデザインの一部であり、サイネージの後付でこういう工事をするのは大変だ。でも逆にインテリアを考える際にデジタルサイネージのことを考慮することは今後増えていくだろう。

 

次は厳密に言えばエクステリアだが、渋谷駅から渋谷川沿いに『渋谷ストリーム』という店舗群ができていて、その入り口には壁面に横長ディスプレイを多数埋め込んだところがある。これも案内とか情報表示ではなく、渋谷川に紐づけての映像のインスタレーションのようになっている。この写真は川そのものを表示しているが、いくつかのパターンがある。今後もいろいろな表現が増えていくのであろう。

このような周囲に溶け込ませたディスプレイの使い方は、まだ始まったばかりで、これからもっともっと多様なデザインがされていくだろう。下の写真は展示会のものだが、正方形のディスプレイを市松状に配置していて、『渋谷ストリーム』と同様に全体として一枚の映像が流れるような使い方(非連続マルチディスプレイ)をしている。

その次の写真はディスプレイを縦に何台も連結して柱にしているもので、個別の表示というよりは全体でインスタレーションになるような見せ方ができる。

LEDビジョンのような輝度が高く大型のディスプレイが普及していく一方で、安い液晶パネルを使いながら、設置にデザイン性をもたせることで楽しい空間を作っていくという工夫も面白い。

2019.3.29

インテリアとしてのデジタルサイネージ

デジタルサイネージを設置してもコンテンツの更新ができないとか、番組表がなかなか埋まらないなど、日常運用の悩みを持たれる方は多いだろう。複合商業施設のような多くのテナントが共用でサイネージコンテンツを提供している場合は、全体がスライドショウになっていればそれなりの変化は出ているが、1軒で運用している場合は単なるスライドショウでは飽きられる恐れがある。しかし絵画や紙のポスターでも見飽きないような絵ならば長期間の掲示に耐えられるのだから、よい作品を選ぶことに気を配れば何とでもなると思える。

 

もしある店の主人が写真の趣味をもっていれば、自分の作品から毎月なり毎週なり選んで差し替えていき、また親しい人とは表示されている写真をネタに会話をすることもできる。旅行やスポーツが趣味である場合も同様で、そのうち知人の撮った写真も表示するルールを作って、店の壁面をギャラリーのようにすることもできるかもしれない。自分で能動的に写真を撮ったり、旅行・スポーツ・その他の趣味にのめりこんでいない場合でも、興味のある分野のフリー素材をネットで探して、定期的に差し替えるようなことをしていけばよい。

例えばユネスコ世界遺産の画像を無料で使いたいなら Pixabay というサイトがある。Pixabayは著作権のない画像や動画を共有するところで、すべてのコンテンツはクリエイティブコモンズCC0の下で公開されていて、店内装飾のような商業目的であっても、許可が不要で安全に使用できる。しかし、画像に映っているものの中に商標やパブリシティ権、プライバシー権などに抵触するものが含まれている可能性はあるので、自分で注意して使う。難点は画像検索は日本語よりも英語でした方が便利なところくらいだろうか。

もっと手間をかけずに安直にしたければ有料だがデジタルサイネージに世界遺産を配信するサービスもある。これは自販機にサイネージをつけてドリンクの売り上げで運用するサービスをしているアイティ・ニュース株式会社のもので、他にもNHK動画ニュース配信サービス、緊急地震速報配信などなども配信している。この世界遺産映像は写真ではなく標準で1分間のmp4のようだ。
似たようなサービスはいろいろあるもので、名画付大型デジタルフォトフレームというのも売っていて、額縁つきの政界の名画スライドショーなのだが、これは逆にサイネージとして運用するのは無理かもしれない。

以上はいわゆる環境映像的なものだが、こういう要素は他のサイネージでもあったらよいように思う。例えば窓口での番号案内というのは役所や金融機関や病院には必ずあり、LEDの番号表示の頃と同じ使われ方が液晶パネルになっても行われている。

この場合は番号を知らせる以外の余計なことはするな、というポリシーがあるのかもしれない。私の通う病院では番号表示とともにやたらに諸注意事項が出てきて全然楽しくないのだが、こういう場合でも提案の余地はあると思う。それは画面内での表示提案ではなく、室内のインテリアとしての提案として行ってはどうかということだ。(→次回に続く)

2019.3.22

通信で活用が広がるサイネージ

デジタルサイネージってどんなものかを知ってもらうには、とりあえずスタンドアロンでUSBを挿せばスライドショーが始まるものが説明しやすい。しかし使う台数が増えたり、それも設置場所が離れ離れになってくると、内容の変更・更新をするのが煩雑になってしまい、サイネージを活用しようという意欲も失われるかもしれない。そして更新がされないと着目もされないという悪循環に陥る。ただし特定商品の横に置かれる小型の電子POPのように、同じ商品説明をループ再生する場合は更新があまりないので、スタンドアロンで使われている。

 

USBのサイネージは今でも多いのだが、それは最初の1台で足踏みしているところが多いことでもある。今ではクラウド型とかサーバーからコンテンツを通信回線経由でダウンロードして使うサイネージがいろいろ出ているのだが、これが多種多様であることから、2台目以上の展開が進まない原因にもなっているように思える。クラウド型ではコンテンツ制作以外に通信費やシステム費用などがかかるものの、管理面では大きな進展があるのだが、もともと販促とかコミュニケーションの管理があんまりされていないところが多いので、クラウド型の価値がわかってもらい難い。

しかし通信環境とかネット上の管理システムはこの10年の間にも大変な充実をみているので、実は通信やシステムの負荷はあまり気にしないでもクラウド型のデジタルサイネージはできるように変わりつつある。だから簡易なクラウド型から始めて、サイネージの活用方法が身に付くとともにシステム的なサイネージに移行していく考え方がよいだろう。

 

通信と管理アプリ

クラウド型というのは、インターネット通信と、データのやり取りをするアプリからなる。インターネットは既存の回線を使う場合と、サイネージのために別の回線を用意する場合とがある。企業がセキュリティの観点でインターネットを利用を制限している場合は、サイネージのためには別回線を引かざるを得ないが、サイネージ程度ならモバイルルーターとか4GスマホのディザリングのWiFiで使うこともある。最近ではあまり有線LANを敷く話は聞いたことがない。
通信端末とメディアプレーヤーを兼ねて専用のSTBを使うような方法が先行して普及していて、その方が高機能であり、操作面でもすべきことが少ない。一方でPC/タブレット/スマホでインターネットとつないでサイネージに表示する場合は、ある程度それらの操作は利用者がしなければならないことになる。後者も新規に購入すると費用がかかるので、いっそのこと専用STBを使う方が初心者にはわかりやすくなる。値段はどちらも同じようなものである。

 

アプリとかクラウドの使用料というのもピンからキリで、単にスライドショウのような場合は無料のものもあるし、コンテンツ管理やスケジューリングの機能をもつと月額何千円かの費用がかかる場合もある。これにはWebサイトを管理するCMSのようなレベルのものと、さらに上には放送局の番組の送出システムのような番組の編成やスケジューリングが自由自在なものまである。億の単位のサイネージにはそのような大がかりなシステムが使われていたりするが、一般的にはCMSみたいなレベルのものが使われている。

 

管理

管理すべきは、①ファイルと表示に関することと、②番組表やスケジュールに関することと、③IDとか利用者グループに関するもの、などがある。

もっとも単純なスライドショウの場合は、どこかにフォルダに画像ファイルを入れておけば、それらを順次表示することで、USB媒体がネット上のフォルダに代わっただけである。スライドショウでもアプリが備わっていれば、表示順が変えられたり、トランジション効果が選択できたり、開始終了時間の設定をする。まずはこの程度のサイネージから使いだすのが最もわかりやすいだろう。クラウドといってもサイネージ専用のものではなく、Facebook、Instagram、GoogleDrive などのすでに一般に使われているものを利用して、そこにアップされた画像をサイネージに順番に出すようなものも出てきているので、これらはほとんど管理費用がかからない。

 

スライドショウでは表示を変えるときはフォルダの内容を入れ替えなければならないので、ファイルの表示を決めるをプレイリスト作って管理するのが②で、同じ素材を使いまわしながら複数の似たプレイリストが管理できる。そのプレイリストをスケジューラーで時系列に配置して番組表とする。これで、平日と休日とか、朝は「おはよう」夕は「お疲れさま」といったバージョンが作れる。昼のランチ用、夜のバー用、などいろいろ考え付くのだが、まだそのような使い分けがされている例は少ないだろう。つまり②が当面のチャレンジ目標であろう。むしろ初心者に最初からこういったことを押し付けるのはハードルが高すぎるのかもしれない。

 

①②がクラウド上でコントロールできると、全世界に散らばったディスプレイに対しても1か所でコントロールできるのが通信利用のスゴさである。実際は本社・支社とか、本部(フランチャイザー)と加盟店(フランチャイジー)、などでは、チラシを作るにしても扱う品目が異なって、販促物の手配には手間暇がかかるのを、③の機能があればネット上でかなり解決できるようになるはずなのだ。まだサプライチェーンマネジメントとサイネージの配信が連動しているような例は稀かもしれないが、デジタルサイネージの将来はどんどん広がっていくのだと考えられる。