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「制作アドバイス」カテゴリーの一覧を表示しています。

2018.8.17

サイネージの立ち位置

サイネージネットワークは、印刷物制作の前工程として文字や画像の処理をしていた業者が集まってスタートしてもので、今でも印刷するための情報加工を多く行っているが、印刷と同時にデジタルメディアをも作りたいという要望は2000年以降強くなってきた。その典型は電子書籍で、漫画本の印刷と同時にeBookも作成されている。しかし意外に広告宣伝印刷物はデジタルへの転用が進んでいない。ポスターを作るならデジタルサイネージのデータも同時に求められるのではないかと思ったが、まだそこまで行っていない。

一方印刷物の市場は縮小を続け、最近は折込チラシがかなり減っているように思えるが、統計的には昨年に比べて5%くらいのダウンである。チラシは10年で3割以上減ってしまっている。これは新聞をとらない世帯が増えたことにもよるが、だからといって代替のメディアがそれほど活躍しているようにも思えない。有名なのはスーパーなどのチラシを電子配信しているシュフーであり、ネット上のサービスもいろいろ増やしている。しかしチラシという情報がぎっちり詰め込まれたメディアをパソコンの画面で見るとか、さらに小さいスマホで見るのは無理強いの感があり、もっと使いやすい何かを開発せざるを得なくなる。

現在のところ宅配してくれるネットスーパーというのがモバイルとの親和性のよいサービスなので、シュフーのような電子チラシもゴールをネットスーパーに結びつけるようなことをしている。しかし本来ならば電子チラシからも店舗への誘導をしたかったはずである。

ドンキホーテなどはネット上のWebチラシでクーポンによる値引き広告を打っている。クーポンを使うにはスマホで登録をしてもらって、客は店頭にあるクーポンの発券機を使って自分でクーポンを印刷し、モノと一緒にレジに持っていくことで割引になるような使い方である。この場合は来客増の効果は期待できるし、クーポン発券機のまわりにデジタルサイネージも設置されている。クーポン対象品はあくまで目玉商品であって、それほど点数が多くはないことも、スムースに仕組みが回ることに貢献していると思う。

 

そのほか2000年ころからチラシとネットと組み合わせたいろんな販促が試みられ、サイネージでも目玉商品やタイムセールの案内をしてきたが、なかなか効果があって定着したものは多くはないだろう。その理由はやはり過去からの印刷物による販促を土台にしていたために、デジタルサイネージといえども、紙の2番煎じから抜け出しにくかったからではないか。今ではむしろモバイルマーケティングを土台にして、店舗と連動する方向で考えた方がよいだろう。

昨年シュフーはCookpadと相互の広告や店舗の電子popとの連携をしたモデルを出していたが、これを進めていくと次第に紙のチラシから離れていくだろう。なぜならチラシに載っているアイテムのうちCookpadに関したものしか扱えないからだ。きっと食材以外とかホームセンターとかも何らかの方法でモバイルマーケティング化することになるだろうが、それは新しいモデルを編み出す力がいるだろう。

統計に内訳が現れるマスメディア広告やネット広告は広告全体の半分に過ぎず、チラシやPOPやポスターやデジタルサイネージは実態がわかりにくい。いいかえると広告として独立しているのではなく、クライアントのビジネスのやり方に即していろんな姿をとるものである。ビジネスのやり方が変わったら連動して広告や販促のやり方も変えていかなければならない。そのために大手の広告会社が手を出しにくい領域にもなっているが、クライアントの現場と密着してビジネス仕しようとする会社にはやりがいのある分野だろう。

 

 

2018.7.20

オウンドメディアとして素顔を見せる

ちょっと考えればわかることだが、デジタルサイネージを置いただけで何らかの効果があるわけがない。まだチラシやDMなら、1000に一つでも反応がでるかもしれないのだが、デジタルサイネージはお店ならエクステリア・インテリアの一部にしか過ぎない。だから店舗設計なり販促キャンペーンなりの考えに基づいて、その中の一部の役割を果たすものとしてサイネージはあるといえる。例えば最新のサイネージが置かれていても、店がボロボロだとか、品ぞろえがイケてない、接客の態度が悪いなどなら、効果は出るとは考えられない。

これとは逆に、外の通行人からは分からない良さが店の中にあるのなら、それを表現する方法としてサイネージは使える可能性がある。いいかえると、どんな点で自慢したいことがあるのだろうか、というのを煮詰めてデジタルサイネージのコンテンツを考えればよい。よくこだわりのラーメン屋が客のいない時間帯に手間暇をかけて豚骨スープをつくっているようなテレビの紹介番組があるが、そういったコンテンツを自分でつくることは可能だろう。別にテレビの真似をするのがよいのではなく、今すぐできることから始めて、徐々に良いコンテンツに改善していくつもりなら、あまり費用をかけないでもサイネージのコンテンツはできる。

 

ビデオを撮るのが苦手ならば、イメージ写真の組み合わせでもよい。商品ならば、購入後の使い方とか、料理なら素材から調理の様子から盛り付けるまでの間の何カットかの写真があればスライドショーのようなものはできる。それにちょっと気の利いたコピーを工夫してかぶせければよい。その過程では家族や出入業者や制作会社に相談するなり意見を聞くなりする必要はある。そのような簡単な画像・映像の表現はYouTubeで検索すれば、たいていどんなジャンルでも見つけることはできる。要するに現在人々がYouTubeで見ているような手づくりコンテンツのようなもので、自分たちしか出来ないようなものを目指すのが良い。店主の想いが伝わるようにするには、まず店内の様子を伝え、店主の顔が良く見えるようにすることを心がけるべきだろう。

よく店の前の路面に看板スタンドがあって、店名・ロゴなどのほかに、写真やカラーコピーが貼り付けてあるが、デジタルサイネージはその延長でアピールする点を増やしていける。看板スタンドの面積は限りがあって小さな写真しか貼れないとしても、サイネージなら時間軸に並べていくので、多彩な表現ができる。大企業なら接客のイメージを向上させるために、きれいなモデルさんをつかって、お客さんに微笑んでいるような映像をとるだろうが、そのようなものが必要なわけではない。接客に自信があるなら実際の店員さんが素顔で働いている様子を映せば、それでも過去に店に入ったことがあるひとが、また店のことを思い出してもらうには十分だろう。他のメディアに比べて見てもらえる人が限られているデジタルサイネージではあるが、逆手にとってリピート客を増やす策に使えるのではないかと思う。

また、コンテンツを作り慣れたならば、タイムセール・特売などのアピールにはデジタルサイネージは向いている。この場合、実際の在庫の変動に合わせて、サイネージの方も値段の上下調整とか販売打切りができるようにしておく。

例えば『完売!ありがとうございました』というような画像もあらかじめ用意しておいて、臨場感を出すことができるだろう。こういう経験を経て販促キャンペーンを考える際にデジタルサイネージの出番が作られていくことになるはずだ。

 

 

2018.7.6

動画のフォーマットは変換がたいへん

前回の『サイネージを身近なものとして使いこなす』では、Windowsフォトストーリーで作ったWMVビデオファイルが、mp4などに変換するのに苦労するということを書いた。一般に動画ファイルを授受する場合には、movだ、flvだ、mpgだ、ということで話しがわかったような気がするのだが、それが動画編集の鉄壁であるAdobePremiereでも開かないことがある。うちあわせをする相手が動画フォーマットのことを良くわからずに話している時は多いので、受け取った側で詳しい人がツールでフォーマットの解析をして、使える・使えないの判断をしなければならない。

それほど動画フォーマットが分かりにくいのは、ファイルが何重かの構造になっているからで、mp4だ、flvだ、mpgだ、wmvだというのは動画を運ぶための入れ物を指すに過ぎず、その中に音声と映像の情報が入っていて、これは下の表のように入れ物が異なっても同じ規格であるとか、逆に入れ物が同じでも異なる規格である場合がある。

この音声と映像の記録・再生のものをコーデックといい、ファイルを受け取った方に該当するコーデックが存在しないと再生ができない。Windowsフォトストーリーのwmvの場合は、音声の規格がWindowsMediaPlayerでしか再生できない独自なもののために、『開けない』とか『変換できない』ことになる。それでWindows系のソフトでこれを扱えるアプリを探して、独自の音声の部分を入れ替えれば変換できるようになる。

 
拡張子 よみ 音声 映像
MP4 .mp4/.m4a エムピーフォー AAC/MP3/Vorbis H.264/MPEG-4/Xvid
MOV .mov/.qt エムオーブイ AAC/MP3/LPCM H.264/MPEG-4/MJEG
MPEG .mpeg .mpg .vob エムペグ AAC/MP3/LPCM MPEG-2/MPEG-4/MPEG-1
AVI .avi エーブイアイ AAC/MP3/LPCM H.264/MPEG-4/Xvid
AFS .asf .wmv エーエスエフ MP3/AAC/FLAC H.264/MPEG-4/Xvid
WMV .wmv .asf ダブリューエムブイ WMA/MP3/AAC WMV9
WEBM .webm ウェブエム Vorbis/Opus VP8/VP9
FLV .flv エフエルブイ MP3/AAC/ADPCM H.263/H.264/VP6
MKV .mkv エムケーブイ MP3/Vorvis/LPCM H.264/MPEG-4/Xvid

ちなみに、Windows環境で短い動画加工の場合はaviファイルを使うことが多い。Macならmovが主流である。両者はフリーの加工ソフトも対応している。これらは低い圧縮率で使われる。逆に最終商品に使われるものは高圧縮率のmp4、wmv、flvなどになる。高圧縮のファイルから取り出した映像はどうしても品質が落ちるので、できれば編集途中のavi、movから加工することが望ましい。

 

他のフォーマットでは、MPEGはDVDに使われ、FLVはストリーミングに使われることが多かったが、今ではストリーミングもmp4が多くなった。

コーデックではデジタル放送にも使われているH264が主流になっていて、いろんなフォーマットでも使われている。名前も別名がいろいろあり、MPEG-4/AVCというのもコレである。

これから広まるかもしれないのが、Windows10から対応しているMKVで、従来のフォーマットに対するいくつかの改善がされている。またGoogleのChromeブラウザ向けのものがWEBMといい、パソコンやモバイル機器にインストールしてあるコーデックとはちがって、プラットフォームの如何を問わずに再生できるので、ネット対応としては伸びていくかもしれない。

 

現在ビデオ編集のプログラムでは読めないフォーマットでも、ネット上にはフォーマット変換のフリーソフトもいっぱいあるので、いろいろやってみることで解決することも多い。しかしある程度知識が無いとうまくいかないかもしれないし、だいたい数秒のクリップが必要なのに何十分のビデオを変換する手間もバカバカしい気がすることがある。そこで奥の手としては、一度画面に再生させておいて、HDMIの信号から必要部分だけをデジタルキャプチャーして使うという方法である。よくPSや任天堂のゲームをやっている様子をビデオ化しているのがあるが、アレである。これについては改めて別にとりあげたい。

2018.6.29

サイネージを身近なものとして使いこなす

大型商業施設にあるデジタルサイネージはテレビのコマーシャルのような動画を流していて、おそらく他の映像広告の流用ではないかと思う。こういったきれいなモデルさんやプロのカメラマンに依頼しなければできない映像は、店舗の日常活動の範囲でできるものではない。しかし環境映像ぽいものや、静止画・写真をゆっくり動かしている動画は、お店の予算の範囲で出来る可能性があるし、もし写真に興味のある店長やスタッフが居れば、たまには自分でやってみることもできる。

WindowsXPの時代に、絵本の読み聞かせをパソコンのプロジェクタで行うために、絵本をスキャンして、各ページの中をスクロール(パン)・ズームして、スライドショーのように展開するものを、Windows Photo Story というMicrosoftのフリーソフトで作ったことがある。
これは大変便利なソフトで、覚えやすいし、仕上がりもなかなかのものだったが、WindowsがXPから7,8へと変わっていく中で使えなくなっていた。ところがWindows10になって、このPhoto Story 3というのがまた使えるようになっているという。どこかのだれかがYouTubeにアップしているものを参考としてあげておく。

 

名前は「Microsoft Windows フォト ストーリー 3」になっているようで、Windowsユーザーであればここでダウンロードできる。写真をスライドショーにしてテロップ(キャプション)やBGM(ナレーション)をいれる一通りの機能は揃っているが、写真のレタッチはPhotoshopなどの専用ソフトの方がやりやすいだろう。むしろ完成された写真をベースに、スライドショーの展開を作りだすのが得意なソフトだ。

Windows用のフリーソフトということで、Windows Media Player で再現することを前提に、最後はWMVというビデオフォーマットで動画ファイル保存をする。そのために他のところで使うにはmp4などにフォーマット変換をしなければならないが、ここで作られるWMVは特殊なもので、一般にはmp4には変換できない。そのために一旦ウィンドウズムービーメーカーなどでBGMの入れ直しをしたWMVにしてからmp4への変換をすることになる。要するにこういったWindows世界に相当首を突っ込まないと使いまわしのできる動画にならない点がフォト ストーリーの普及を妨げていると考えられる。

 

また当然ながらAdobePremiereのような凝ったことはできず、単にJPEG、ビットマップ、GIFなどの静止画しか扱えないが、その点が簡便さをもたらす大きなメリットでもある。基本機能はスライドショーであり、個々の写真に文字を好きなフォントで入れられて、ナレーションや効果音を録音することもできる。

「パン」や「ズーム」は[アニメーションのカスタマイズ]という機能でPhotoshop のアニメーションと同じように最初と最後の位置を指定して設定する。

トランジションに相当するのは[切り替え効果]で、写真と写真の切り替えの「フェード」や「スライド」「ページカール」などの約50種類のトランジションが用意されている。

保存は他の動画編集ソフトと同じ様に、[プロジェクトの保存]と、Windows Media ビデオ ファイル(WMV) の書き出しとがある。ビデオファイルでは修正はできないが、プロジェクトファイルがあることで、後々写真を文字の変更が容易になる。

全体として素人が作ったようなフリーウェアよりはずっと安定感のあるソフトに仕上がっている。

 

文字や図形をアニメーション化するにはPowerPointが使われているが、こちらはPowerPoint2013頃からは標準でmp4出力、オプションでwmv出力になっている。

ただしPowerPointのアニメーションとは、文字や図形要素に何らかの動きを付加するだけのものなので、Adobe Flashやその後続のAdobe Animateと比べられるようなものではない。だから頑張って使いこなそうなどと思わずに、単に文字やグラフを動かすくらいに考えておいた方がいいだろう。

これら、単なる静止画からちょっと動かす程度のツールはいろいろあるので、現場でビジネスに合わせて内容更新の対応が必要な部分は、社内の誰かが出来るようになっていれば、サイネージはうんと身近な表現ツールになる。

 

 

 

2018.6.15

売る工夫がやりやすいデジタルサイネージ

印刷物の場合は、こう企画・デザイン・制作をするとか、販促ビデオならこう企画・デザイン・制作をする、というような定番の作り方は、まだデジタルサイネージにはない。デジタルサイネージの専門制作業者というのは稀であり、ポスターを画面に表示している場合もあれば、販促ビデオを流している場合もある。それでいいのだろうかという疑問がいつもある。

頑張ってオリジナルな表現を考えてお客さんに提示しても、だいたいはピンと来ないものとなってしまう。そんなもの今まで見たことが無いのに、良し悪しを判断できるわけがない。大手広告代理店で高名なクリエータがーが提示したならば、大先生の言うことだから任せてみようと思うお客さんも居るだろうが、名前を聞いたことが無い会社が提案するものにはなかなかOKは出ない。そこで結局は無難な線として、デジタルサイネージの導入はポスターや販促ビデオのようなものから始めざるをえなくなる。

しかしそこに留まっていては未来はない。数年前から取り組まれたデジタルサイネージで撤去されてしまった例は、特段サイネージ化しなくても、従来の掲示物で済んでしまうと考えられるからだ。机上のシミュレーションとしては印刷物や他の販促物の費用と、サイネージの費用を比較して、経済メリットを訴求することがあるが、サイネージにした効果を数値化できないと、従来のアナログな販促の手ごたえの方が安心できるという逆戻りになってしまう。

 

つまり最初はポスターや販促ビデオでデジタルサイネージを始めるとしても、その先のステップに進めるように考えておくことも大事だ。先のステップというと、どこかでお試しをして評価をしてもらって、台数を増やすとか他店舗への面的展開のことを思い浮かべるだろうが、それは結果であって、まずどういう評価があるのかを予測できるだろうか?

目標としたいのは、商機にタイミングよく表示出来たとか、取り扱いの簡便さ、という評価だろう。商品が売れる売れないはデジタルサイネージのせいではなく、売る工夫がやりやすいことがデジタルサイネージの評価にならなければならないということだ。つまり、どのタイミングでどんなアピールをするのか、例えばクロスセルとかアップセルのシナリオができているなら、そのシナリオの検証にデジタルサイネージが使えるわけだからだ。

現場でただでさえ手が足りないなかで、クロスセルとかアップセルの仕込みをデジタルサイネージにしなければならないことが大きなハードルになるので、コンテンツの差し替えやスケジューリングといった面の取り扱いの簡便さがデジタルサイネージに求められることになる。この2点の評価が得られればデジタルサイネージは有用であるといえる。

 

そしてその先には、いわゆる差別化というかオリジナリティのあるコンテンツや使い方に進むことを考えておいた方が良い。これは紙の販促物でも共通で、身の丈を越えたきれいな印刷物を作ってしまうと現実から遊離してしまって、来た人にガッカシ感を味わせてしまうことと似ていて、デザインを凝ることよりは、店の特徴をあらわすとか経営姿勢をあらわせるように考えていく。言い方を変えるとオウンドメディアとして発達させられるのがデジタルサイネージのよいところなのだ。

[江口靖二のデジタルサイネージ時評]Vol.26に日間賀島という離島の飲食店のオーナーが自分でスマホアプリを使って手作り感が満載のコンテンツでデジタルサイネージをしていることのレポートがあった。この内容は都会の商業施設にはふさわしくないだろうが、slow life, slow food にはぴったりくる。

別にSlow business に限らずに、身の丈にあった表現ができることは、売る工夫を試行錯誤する中で、何か思いついたその時にアクションをとれる手段であることに意味がある。デジタルサイネージは、店内装飾の延長のように現場で売る工夫をするためのメディアとして定着する事になるのではないだろうか。