2018.3.2
サイネージの可読性 コンテンツシリーズ⑥
YouTubeに文字がスクロールしているだけの映像を上げている人が居るが、いくら画面で見せるにしても、SNSのような文字を読ませるメディアを使った方が文章は読み易いだろう。本を読むことにも共通しているのだが、読み手が内容を理解しながら読み進む速度は一定ではないからだ。分かりにくいところは行ったり来たりしながら読むものなので、読み手が自分でスクロールのコントロールができる必要がある。デジタルサイネージも読み手がコントロールしながら文字を読むようにはなっていないので、文字の出し方というのは相当配慮しなければならない。
サイネージにおいてどれだけ文字を読ませられるかは、サイネージの設置されている場所による。病院の待合室のように座っていて、しかも読むに十分な時間がある場合は、パワーポイントのプレゼンテーションくらいの表示はできる。掲示板のように、わざわざそこに来てもらって立ち止まって読むものも同様である。実際にパワーポイントを静止画のスライドショーにして使っているサイネージも多い。
一方で路傍のように通行人を相手にした場合は、ありきたりのパワーポイント的な見出しと本文の組み合わせのスライドショーでは振り向いてもらうのは難しい。もっと訴求点を絞り込まなければならない。デジタルサイネージではいろんなビジュアル効果が使えるとはいうものの、見せたものを人の記憶に留めるには、やはり重要なポイントは文字化して、大脳に覚え込ませる必要がある。見た印象だけではその時だけ感情を揺さぶるに過ぎず、その感情はすぐに薄れていくように人のアタマはできているからだ。
つまり感情を揺さぶるビジュアル効果と、記憶に結びつく文字は上手に組合わせなければならない。しかも通行人のように数秒しか画面の前には居ない人を対象にするのだから、文字をいっぱい並べて読むのに1分かかるようでは、もう人は数十メートル先の視界を見ているようになってしまう。だから文字を読ませるといってもチラッとみてわかるような文字量とか表現方法(コピーライティングを含めて)にすることが、デジタルサイネージの可読性を高めるコツになる。
たとえば俳句程度の文字数にまとめるコピーライティングが重要だろう。これくらいなら静止画ではなく、動きのあるビジュアルとはある程度共存できるが、もっと文字数が多くなると画面の動きは邪魔になり、むしろ静止画の方が読み易い。しかしそうなると人の足は止めにくくなる。
文字の問題はいつも、動かした方が目をひきやすいということと、むやみに動かすと読みにくいということのバランスに悩むものだが、動きに耐えられる堅牢なコピーを心がける。人は文字列の最初から一文字づつ順番に読んでいくのではなく、言葉になった文字の固まりを認識する。だから次のような間違いでも、ぼやっと見ていると読めてしまったりする。
実際にこんな間違いは起こさないだろうが、これくらい当たり前のフレーズなら、バックに動画が動いていても、ゆっくり文字が動いてもわかってもらえる。わかりにくい言葉や難しい言葉などの文字表現は避けた方がよく、むしろ馴染んだ言葉を使う方がビジュアル表現との相性はよくなるだろう。
またデジタルサイネージは紙のパンフレットよりは看板に近いものなので、印刷物では行いがちな微細なフォント加工はかえって邪魔になる場合がある。そういう点ではテレビのテロップに近いものだろう。もし印刷物やWebとサイネージのコンテンツに連携をもたせて最初から設計できるならば、最初に印刷のデザインをするよりは、画面向けのデザインを先行させて、後で印刷用に凝った表現を加えて使う方が、サイネージとしては見やすいものになるのかもしれない。